売春地帯をさまよい歩いた日々:インド・バングラ編

売春地帯をさまよい歩いた日々:インド・バングラ編


資本主義は豊かな者と貧しい者を乖離させる。富める者はますます富み、貧しい者はますます奪われて行く。富める者は高級車を乗り回し、バカンスを楽しみ、別荘を持ち、世界中を旅行する。しかし、奪われて行く者は、住む場所さえ、一日の食事さえ、生きることさえ、満足にできないほど追いつめられていく。タイ東北部の貧しい土地に生まれ育ち、低賃金の農作業に甘んじている人々と、工業化の波に乗って賃金を得る都市部の住民たちとは、絶望的な経済格差が生まれている。人身売買のシステム豊かになる人々がいる一方で、置き去りにさ...
インド編ムンバイはインド最大の商業都市として知られている。この地にはいくつかの荒廃した売春地帯があって、カマティプラはその中の最大の場所だ。ひとことで言うと、とても荒んでいる。それは、ここがスラムに囲まれた売春地帯だからというだけではない。地域の荒廃、建物の荒廃よりも何よりも、もっと荒廃しているのは「女性たち」そのものだった。比喩ではない。カマティプラの女性の肉体は、見てて傍目でも分かるくらいボロボロだ。女性の心もまるで暴力に占領されてしまったかのようだ。粗野で、暴力的で、意固地で、憎悪を剥...
インド編タイ・カンボジア・インドネシアと言った東南アジアの売春地帯も、場所によっては社会的に排除されて建物も荒廃している。それにもかかわらず、どこか牧歌的な雰囲気が溢れているのは、恐らく人々の精神的な優しさや共生が風土の中にあるからだ。少なくとも、相手を受容し、受け入れ、友好関係を築こうとする性善説の関係が根底にある。しかし、南アジアを代表するインドはそうではない。ここは基本的に性悪説だ。ここは基本的に性悪説だもちろん、個人差もあるので、全員がそうだとは言わないし、その個人差もとても激しい。...
インド編ヨーロッパの敬虔なキリスト教徒が何かプレッシャーがかかったとき、十字を切るしぐさをよく行う。東南アジアの人々が祈るときは、無意識に合掌(ワイ)をして目を閉じる。イスラム教徒は天を仰いで神を呼び込むしぐさをする。信じられているものが、ジェスチャーとなって現れる。インド圏は神々が大地を覆っている。人々は全員それを信じているので、共有された「神」という概念が人々から人々へと移り渡り、本当に神がいるかのように見えることもある。だから、インドの人々は多くの「おまじない」のジェスチャーを持ってい...
インド編インド・ムンバイの売春地帯では売春宿のことをときどき、ケージ(鳥かご)と呼ぶ人もいる。女性たちがそこに閉じ込められていて、鉄格子で締め切られ、入口には用心棒が立って逃げられないようになっている。なぜ逃げられないようにしているのか。それは、女性たちを人身売買で連れてきているからである。言うことを聞かない女性を、閉じ込め、密室の中で虐待するのである。牙を抜かれ、女たちが運命に押しつぶされて逃げることを忘れたら、彼女たちはスラム売春地帯のようなところに転売されて、一生涯、売春地獄から逃れら...
インド編男は怒りのあまり額に血管が走っているが、女の方はもっと必死だった。死に物狂いの反抗で、怒り狂い、怒鳴りながら、もうほとんど半狂乱になっている。突然の修羅場に呆然と成り行きを見ていたが、男が彼女を殴りつけると、彼女はますます声高に叫ぶばかりだった。叫び声を上げる女性に異変を察した外の男たちがドアを開けろと合図している。男はとりあえず彼女から離れてドアを開けると、先ほどの用心棒や男たちが雪崩を打って入ってきた。客が売春宿の経営者と女性の揉め事を仲裁経営者の男が声高に彼女を指差して、入って...
インド編日本は日常生活を淡々と生きていくという感覚がそこにある。「暮らす」という感覚はそれに近い。生きていくというのは、淡々と「暮らす」のである。しかし、インドは違う。分かりやすく言うと、インドで生きていくというのは、「暮らす」のではない。「サバイバルする」のである。様々なトラブル、様々な文化的軋轢、理不尽、差別。その中でサバイバルする。それがインドの大部分の生活者の日常だ。まさに今、インドは生きた馬の目をくりぬくような激しいサバイバル社会の渦中にある。助けるどころか、まるで路傍の石のように...
インド編インドはとてもハードできつい国だ。それは貧困のレベルが想像を超えているからだ。他の国で隠されていたものは、インドでは何もかも剥き出しである。そして、そこで生きる人たちの荒廃は、先進国から来た人間の常識すら破壊してしまう。最初から常識は通用しないし、夢にも思わないような不条理な展開がいきなりやって、絶句したまま口もきけなくなる。インド・コルカタのカリグハットは、本当にひどかった。広大に広がるスラム、激しい糞尿の臭い、憤怒に満ちた女性たち、そして不条理な展開……。何もかもが想像を超えていた...
インド編世の中には行ってもいい売春地帯と行ってはいけない売春地帯がある。インド圏の売春地帯は行ってはいけない売春地帯の筆頭である。インドは、どこも地獄だ。女性の50%はエイズ。場所によっては80%がエイズ。淋病、梅毒、尖圭コンジローマ、パピローマ・ウイルスは蔓延し、人身売買で無理やり連れてこられた女たちがたくさんいる。部屋にはシャワーもない。プライパシーもない。建物の中にひったくりがいる。そして、ボスは全員が拝金主義者である。それだけではない。もっとひどいのは女たちの内面だ。殺伐としており、親し...
インド編タイにはレディーボーイがいるのと同様に、インドにもヒジュラと呼ばれる性転換者がいる。コルカタの売春地帯ソナガシでも、ムンバイの売春地帯フォークランド・ストリートでも、このヒジュラの集団には手を焼いた。ふらふらと歩いていると、集団で囲んで来て、恐喝、恫喝、喜捨の強要、もはや何でもありで、いくばくかの金を払うまで絶対に離してくれない。払わないと、100メートルでも200メートルでも大声を上げながら執拗につきまとって来る。ムンバイのヒジュラは特に凶暴で、人目がなくなるところまでカモを追い詰めると...
インド編身体が溶けてしまいそうなほど蒸し暑いカルカッタの郊外で、奇妙な男を見た。まったく手入れをしていない髪や髭が伸び放題になり、全裸で、白い粉を身体に塗りたくり、杖のようなものを持って歩いているのである。噂に聞いていたサドゥーだった。サドゥーとは、ヒンドゥーの修行僧、あるいは遊行僧とでも言えばいいのだろうか。インド社会の中で存在を許されているサドゥーとは、この解脱を求め、物質世界を離れ、神に近づくために修行する聖なる人々を指す。物質的な欲望はすべて廃するので、サドゥーによっては衣服もまとわ...
インド編身体が溶けてしまいそうなほど蒸し暑いカルカッタの郊外で、奇妙な男を見た。まったく手入れをしていない髪や髭が伸び放題になり、全裸で、白い粉を身体に塗りたくり、杖のようなものを持って歩いているのである。噂に聞いていたサドゥーだった。サドゥーとは、ヒンドゥーの修行僧、あるいは遊行僧とでも言えばいいのだろうか。インド社会の中で存在を許されているサドゥーとは、この解脱を求め、物質世界を離れ、神に近づくために修行する聖なる人々を指す。物質的な欲望はすべて廃するので、サドゥーによっては衣服もまとわ...
インド編性行為の「一連の動き」を厳格に決めている女性がいたとしたら、あなたはどう思うだろうか。最初は、騎乗位、次は正常位、動きのスピードはこれくらい、と決められていて、それから外れると殴られる。まるで流れ作業のように進行させられ、それから外れることは絶対に許されない。それが「唯一絶対の性行為」だと思い込んだ女性がこの世にいる。しかも彼女の中ではそれが「常識」で、とにかくそれ以外の進行は許されないと頑なに信じ込んでいる。とても不思議な「思い込み」なのだが、そのような思い込みが刷り込まれた女性が...
インド編あなたは手っ取り早く金が欲しいだろうか? 真夜中のアジアに沈没していると、様々な人間が、様々な「手っ取り早く金になるビジネス」を持ちかけてくる。バンコクでは「パスポートを売ってくれ」と言われた。日本人のパスポートは高く売れる。それを、買い取ってもそれを転売すれば金になる。利益は折半だと言われた。「結婚して日本に連れて行ってくれ」と提案されたこともあった。「日本に入ることができたら金を払う」という。偽装結婚だ。日本に連れて行くと金になる。そうかと思えば、インドネシア・バタム島では親しく...
インド編インド・コルカタの売春窟ソナガシはコルカタ最大の売春地帯であり、エイズや性病の蔓延する汚染地帯でもある。アンジェラという女性が、このソナガシの中ほどの建物の三階に、息を殺すようにひっそりと生きていた。彼女のいたこの売春窟は、異様な雰囲気が漂っている場所だった。部屋には窓が一切なく、完全に密閉されていた。階段のわきでガスコンロから大量の火を放出させながらひとりの男が何か食べ物を作っている。薄暗闇の中で、めらめらと燃える火が悪魔的で、階段を上がりながら奥へ奥へと入り込むと、もしかしたらも...
インド編人身売買されて売春宿に放り込まれ、精神を病んだ若い女性を知っている。彼女は感情を失い、まるで小さな人形のようにイスに座り、ほとんど何もしゃべることもなかった。何か問いかけても、彼女の声はほとんど聞き取れないほど小さく、人間としての生気が消えかけているように思えた。(コルカタの売春地帯で、デビーは人間性を叩きつぶされていた)あとで彼女は拉致されて売春宿に放り込まれたのだというのを知ったが、猥雑で混沌としたエネルギーがうねっているようなインドの売春地帯で、彼女の醸し出す雰囲気はとても不気...
インド編食うに食えない、命がけの男たちの切羽詰まった血走った目。必死の表情。そして逃げても逃げても追いかけてくるゾンビのような執念深さ。それはストリート・ピンプの姿だ。ストーカーに追い詰められている女性が世の中にはいる。彼女は、監視され、どこまでも執拗に後を付けられ、プライバシーにまでのぞき込まれる。そんな女性の精神状態を男も体験したければ、インド・ムンバイのカマティプラに行けばいい。きっと同じ恐怖を味わうことができる。殺伐とした売春地帯では、ストリート・ピンプに取り巻かれることになる。そし...
インド編インドをさまようようになると、さまざまな人間に会い、さまざまな光景に遭遇する。ストリート・ピンプ。道に立つ原色の売春女性。彼女たちの子供。彼女たちの客。屋台で働く男。身体の一部が変形した奇形者。麻薬中毒患者。そして性的な倒錯者ヒジュラ……。その誰もが良くも悪くも非現実的で、滑稽で、圧倒的な存在感がある。インドではどんな存在があってもおかしくない。だから、とても不思議な化粧をして、まったく予期しない行動を取る女性がいてもおかしくない。コルカタの売春地帯、ソナガシにとても奇妙で行動が予測で...
インド編 閲覧注意ずいぶん改善されてきたとは言われているが、未だに現実に起きている苛烈な差別がある。ダリットと呼ばれる人たちへの差別だ。「前世は犯罪者だ」と生まれたときから言われ、「だから差別されて当然なのだ」と結論づけられた人。それが、ダリットである。もしあなたがダリットの女性として生まれていたら、生まれながらにして両親は虐げられ、嘲笑されているのを見て育つ。家は極度に貧しく、仕事もなく、いつも飢えている。そして、年頃になると、突然知らない男たちに拉致されてレイプされる。しかし、誰も助けてく...
インド編インドでは警察が異様なまでに腐敗していて、警察を相手取った告訴が毎年約6万件もある。そのうちで逮捕される警察官は20人や30人でしかない。告訴の半数以上は「根拠がない」という理由で却下されている。どういうことか。警察官が行ったダリットに対する拷問や、暴力、不当な鞭打ち、レイプは、闇から闇へと葬られているということだ。警察官はブラーミンと結託しており、ダリットがブラーミンを訴えると、訴えたダリット自身が二次被害に遭う。ブラーミンに対する告訴を取り下げないと殺すと伝える傲慢な警察官も多いとい...
インド編 途上国に行けば、どこでも線路に非常に近い場所、ほとんどギリギリの場所にバラック小屋が建ち、人々が暮らしている。タイでもそうだ。フィリピンでもそうだ。そしてインドネシアでも、カンボジアでも、インドでもそうだ。どこの国でも、みんな判で押したように「線路沿いのうるさい場所」に大勢の人たちが住み着いている。どうして、そうなるのか分かるだろうか。そこは、本当にうるさく、危なく、とても揺れるような場所だ。それなのに、たくさんの人たちが次から次へと粗末なバラック小屋を建てて暮らし始める。もし、その...
インド編アジアの夜の街をさまよい歩く男の姿を見ればいい。歓楽街は陽気で、馬鹿げていて、あちこちで乱痴気騒ぎが行われている。そこで、男たちが飲んで騒ぐ。多くの男たちは享楽に浮かれて身を持ち崩しているように見える。彼らは性欲に支配されているように見える。しかし、東南アジア・南アジアの巨大歓楽街や売春地帯を仔細に見つめたとき、ふと気がつくのは、流れ流されてやってきた男たちにも、深い陰(かげ)があるということだ。女たちが陽気を装っているのと同様に、男たちもまた陽気を装って陰を見せようとしない。しかし...
ブラックアジア「第三部」で、インドの売春地帯の現状を取り上げていたとき、この国のめちゃくちゃな女性差別と女性に対する暴力は、絶対にいつか国際問題になると信じていた。これはブラックアジア「第三部」を順番に読んで頂ければ、私が何が言いたいのか分かるはずだ。この国は、私たちが知る以前から、女性たちにはずっと地獄だったのだ。(ブラックアジア「第三部」)ブラックアジア「第三部」は、インド売春地帯を記した日本で唯一のまとまった記録物だと思う。なぜ、インドの売春地帯のレポートがないのかというと、この国の売...
インド編インドの売春地帯は本当に荒んでいて、どこを訪ねても晴々とした気持ちになることなどまったくない。それはニューデリーだろうが、コルカタだろうが、ムンバイだろうが、同じだ。荒廃の状況はそれぞれ違うのだが、どうであっても荒廃しているのは間違いない。ムンバイ郊外にあるガート・コパールも同様だ。この売春地帯はインドの列車が通る線路脇に作られたスラムから派生した売春地帯である。建物は強い豪雨でも来れば吹き飛んでしまいそうな粗末なバラック小屋が建ち並び、列車が通るたびに地震のように揺れた。過去に何度...
インド編売春宿で水を飲むというのはよくあることだ。少なくとも女性は親切で水を差し出してくれる。それは拒絶できない。インドでは相手の差し出す水を飲むことによって、相手のカーストや人を受け入れたという意味がある。もし女性を受け入れたと示したいなら、コップに差し出された水はどんな水であれ、受け入れなければならない。だから、彼女たちが見るその前で水を飲み干す。しかし、もし女性が邪心を抱いて睡眠薬を混ぜていたとしたら、ひとたまりもない。もし、インドの売春地帯で睡眠薬を盛られたらどうなってしまうのか。私...
インド編 閲覧注意インドではヒンドゥー原理主義派とイスラム教徒が激しく対立し合っている。どちらも相手のコミュニティに突如として大群で押し寄せて、子供も女性もまとめて殺害し、建物を放火して襲いかかる。宗教対立とは「皆殺し」が正当化される対立である。こういった対立と武力を背景にして、そのどちらにも「武闘派」が生まれて来る。この武闘派が暴力団の核となる。ムンバイの売春地帯を支配しているのが、そうやって生まれてきた暴力団である。これらの宗教で結束した暴力団は小さなグループが群雄割拠し、内部でも骨肉の...
インド編インドの売春地帯に放り込まれた女性は、文字が読めないどころか、まったく教育を受けたこともないことが珍しくない。そんな中で、激しい自己主張を繰り広げ、生きるために信じられないほど荒々しく、粗野になった女性も多い。売春地帯では年中、どこかから女性の罵声や悲鳴が聞こえてきたり、女性同士が殴り合って喧嘩している姿を見る。欧米や東南アジアの売春地帯では、男というのは「誘う」ものだが、インドの売春地帯では鷲づかみにして「引きずり込む」ものだ。男が抵抗すると、どうなるのか。もちろん思い切り殴りつけ...
私たちは教育を受けた。そして、教育を受けて「得たもの」はあっても、「失ったもの」はないと思う。しかし、それは完全に間違った思い込みだ。実は、教育を受けることによって、「非常に大きなもの」を失ってしまう。あなたがそれに気がつかないのは、すでに教育を受けていて、失ったものがあることなど最初から知らないからだ。アルコールの心地良さを知らない子供はアルコールを求めない。考えることもない。知らないからだ。知らないというのは存在しないということである。同じく、教育を受けると「激しく強い快楽」が得られなく...
インド編インド・コルカタのムンシガンジ・スラムの一室で窓の外を眺めていると、ギャングの一団が見えた。女性を威圧するような目つきで歩く男たちの姿は、遠くから見ていてもどこか背中が冷たくなるような緊張を覚える。「ほら、ギャングがいる」一緒にいた女性に言うと、彼女は恐る恐る窓の外を眺めたが、やがて静かに窓を閉めた。彼女の大きな目はどこか不安げだった。ギャングたちを怖がっているのがその挙動で分かった。饒舌な彼女から声が消えたのは、無意識に自分の存在を消そうと思ったからだろう。ムンシガンジにはギャング...
インド編想像してみて欲しい。あなたの両親は掃除や死体処理の仕事をしていて、あなたもその仕事しか就けない。あなたは教育を受けられなかった。あなたは字も読めないし計算もできない。あなたはいつも殴られ、いじめに遭って逃れられない。警察もあなたの敵で助けてくれない。あなたが女性なら、知らない男にレイプされても泣き寝入りするしかない。反抗すると虐待される。たとえば、人糞を食べさせられるかもしれない。灯油をかけられて燃やされるかもしれない。自分だけでなく、家族まで巻き添えになって殺されるかもしれない。そ...
インド編はじめてムンバイに入ったのは、真夜中だった。空港からタクシーで中心街に入る際、じっと外の光景を見ていたが、絶句するしかなかった。(ここは戦争でもあったのか?)くすんだバラック小屋。焚き火。道ばたで崩れ落ちるようにして眠っている莫大な人々の群れ。道路の片隅にうずくまって、じっとこちらを見つめる陰気な目。暗闇でゆらめいている真っ赤なサリー。想像を超える貧困の光景に、言葉を失ってしまった。目の前の光景は、本当に尋常ではない。まるで爆弾が投下され、死体が累々と重なった戦場を思い起こさせるほど...
バングラデシュ編アジアの雨期は、身体を壊した人間にはとても辛い。昔は豪雨に当たろうが、泥の中に転がり落ちようが、まったく意に介さなかった。今はそうではない。傘をさして歩くのもつらいし、道が薄い川のようになって排水溝に落ちていく中を歩くのはもっとつらい。濡れるのも嫌がるようになった。あれほど雨期の売春地帯の想い出があって、多くの国で雨期を楽しんできたのに、今はスコールがやってくる前の湿った臭いを嗅ぐだけで、もう宿の自分の部屋に戻って、一歩も動きたくなくなってしまう。無尽蔵の体力を持っていたとき...
インド編あなたは、太陽が憎いと思ったことがあるだろうか。私はある。インドで、生まれて初めて太陽が憎いと思った。熱帯の国が好きだったはずだが、インドで膨大な熱を放出する燃える赤い球体に文字通り、殺意を覚えた。来る日も来る日も続くこの灼熱地獄に苦しめられていると、だんだん自分の中でどこか正常な感覚が壊れていく。身体の内部から熱くなって悶え苦しむ。何しろ、真夏のコルカタの気温は簡単に40度を超す。かつては湿原地帯だったコルカタの真夏は、この国を統治したイギリス人を何百人も病気にして死に追いやったが、...
インド編インドでは出会う女性すべてが、禍々しいまでに強烈だ。強烈な個性、強烈な行為、そして信じられないまでの強引さと予期せぬ行動……。日本や東南アジアで培ってきた常識や暗黙の了解は、インドの女性にはまったく通用しない。気質も、性格も、行動様式も、何もかもがまったく違う。常識が通用しないし、合理性も、一貫性もない。そして、大きなものがひとつ欠けている。それは「モラル」だ。ソウビターという女性がインド・コルカタにいた。完全にインド人としての特質を併せ持った性格の女性だった。常識が通用せず、強引で、...
インドのアーンドラ・プラデーシュ州はインド大陸の南東部にあってテルグ語を話す人々が住んでいる。この州はインド屈指のIT産業の地ハイデラバードのある州として知られているのだが、2014年にこのハイデラバードを含むテランガナ地区が独立して新しい州になった。なぜこの地区は独立したかったのか。それはアーンドラ・プラデーシュ州のほとんどは農業が主体の貧乏州であり、ハイデラバードは完全に異質だったからだ。逆に言えば、世界を代表するハイデラバードは「古いインド」を捨てたかった。この話は5年近く紛糾して揉めに揉...
インド編インドの売春地帯で知った顔が増えてくると、あちこちの女性と話し込むことも増える。女性たちも、異国から来た男に慣れてくると、暇つぶしにちょうどいいと思うのか、帰ると言っても帰してくれない。話の内容は、どの女もほとんど決まっている。他の女の悪口か、自分はいかに金がなくて生活がつらいかという愚痴である。そして、最後には「金をくれ」「バクシーシ」となる。どうしても男が金を出さないと、金切り声を上げて、罵ったり泣き落としにかかったりする。他の国の人たちのように最後まで談笑というわけにはいかない...
インド編寡黙なデリアと、威厳のある老人のふたりに導かれてデリアの部屋に入る。狭い部屋はむっとした空気に包まれており、じめじめして気持ちが悪かった。デリアは小さな木枠の窓を開けた。外側から金網が頑丈に張っていて、誰も入れないし、逃げられないようになっている。(ああ、ここもケージ(鳥かご)なんだな……)何となくそんなことを考えた。こんなものは壊そうと思えば壊せるが、心理的な圧迫感はある。ムンバイの売春宿では建物が檻になっていて、女性たちが中に閉じこめられているのは見てきた。フォークランド・ストリー...
インド編路上で寝たことがある人はいるだろうか。どこかの建物の隙間で、あるいは高速道路の下で、あるいは公園のベンチで寝たことのある人はいるだろうか。ホームレスとは、それが日常になっている人たちだ。今、日本ではホームレスが増えているのだが、ホームレスの人でも金が入ればまずは「部屋」を求める。屋外で寝るというのは、本当に厳しく危険なことだ。登山が趣味だったり、ツーリングが趣味だったりする人は、屋外で寝る経験をしたことがある人も多いはずだ。しかし、そうでない人にとって、路上で寝た経験のある人は少ない...
インド編インドでは「異質」が文化の中にあらかじめ組み込まれている。どんな極端な異質であっても、それは受容されている。受容されているので、障害者の立場も、意識も、先進国とはまったく違う。先進国で障害者は、社会から隔離されることが多いが、インドではそうではない。福祉が整っていない代わりに、インドでは障害を「見せ物」にして金を得ることが可能だ。哀れを誘えば誘うほど、障害の度が重ければ重いほど、そしてそれが異様であればあるほど、人々は障害の価値を理解して、彼に対してバクシーシ(喜捨)を行う。いきおい...
バングラデシュ編コルカタで何人も忘れられない女性ができたが、売春地帯の人間の入れ替わりは激しい。女性は在籍していた売春宿から、何の前触れもなく忽然といなくなる。大抵はインドの他の歓楽街を流転しながら売春ビジネスを続けているのだが、何人かの女性は故郷に帰ったと聞いた。彼女たちの故郷……。それはインドのどこかの地方ではなく、隣国バングラデシュのことだった。コルカタで知り合った女性の何人かはバングラデシュから流れてコルカタにやって来ていたのだ。インドは文化も身分もそうだが、人種もまた魑魅魍魎を思わせ...
バングラデシュ編(前編はこちらです)バングラデシュ……。インドから分離独立し、その後はパキスタンから再独立した国。政治が剥き出しの私利私欲で混乱している国。コルカタには、そんな国から来た女性がたくさん混じっていた。彼女たちが不思議な魅力を発散しているのを見るにつけ、バングラデシュに対する想いが募った。やがて、どうしてもバングラデシュには行かなければならないという気持ちになっていた。本当はバナラシでガンガー(ガンジス川)でも見学するつもりだったが、バングラデシュを思うと、もうバナラシのような観光...
バングラデシュ編バングラデシュはアジアでも有数の最貧国だ。追い詰められた女性も多くいて、国内に多くの売春地帯がある。首都のダッカの西にも「ファリドプル」という売春地帯があるのだが、イスラム圏の国家のわりには意外に大きな売春地帯となっている。このファリドプルで2010年頃、少女たちが4人立て続けに死んでいき、パニックに陥ったことがあった。しかし、その原因がやがて判明した。ステロイドが原因だった。バンクラデシュで、若い売春女性に危険なドラッグを投与しているというニュースが初めて出たのは、2010年4月8...
バングラデシュ編バングラデシュは旅するには、ハードな国だ。アリチャ・ガットに向かう道すがら、大混雑のバスの窓際に座っていた私は、あまりの暑さと、息苦しさと、急ブレーキの連続で気分が悪くなり、嘔吐寸前まで達していた。古い車体はよく揺れたし、バスの中は汗の臭いが充満していた。バスに乗り込むときは元気よく泣いていた赤ん坊も、今は猛烈な暑さにぐったりしてしまっている。母親が濁ったペットボトルの水で赤ん坊の顔を湿らせて心配そうに我が子の顔を見つめていたが、それ以上は何をすることもできない。バングラデシ...
バングラデシュ編バングラデシュの売春地帯はインドの売春地帯に慣れていればまったく問題ない。しかし、インドと違うのは、バングラデシュの売春地帯のほうがはるかに衛生的に問題があるということや、女性たちが深刻な問題を抱えているということだ。バングラデシュの女たちはエキゾチックで魅力的なのだが、まったく衛生的ではない。そもそも衛生という観念がないので、そういうものだと覚悟を決めていくべきである。そこを乗り越えると、女性たちはインドよりも素朴で、ときには信じられないほどの美しい女性にも会える。ただ、バ...
バングラデシュ編バングラデシュの首都ダッカから20キロほど南東に下ったところに、ナラヤンゴンジというよく発展した郊外都市がある。ドレッショリー川とシトロッカ川の交差する地点にあるこの街は200年以上も前から港町として栄えていた。どこの国でも、港町の近くには必ず売春地帯がある。ナラヤンゴンジもご多分に漏れず、早くから船員相手の売春地帯がタンバザールとニムトリ地区に生まれていた。そのビジネスは営々と続けられて膨張し、ついにバングラデシュ最大の売春地帯としてその名を馳せるようになった。ここで生まれ、育ち...
バングラデシュ編バングラデシュの政党は、配下に暴力団を持っている。そして、その暴力団が売春地帯を支配している。つまり、バングラデシュにある売春地帯はすべて、その地域の政治家の利権の温床なのだ。ナラヤンゴンジのタンバザール地区にある同国最大だった売春地帯も、また民族主義党系の暴力団からショバ代として利権を吸い上げられていた。それが、この長い歴史を持つ売春地帯の悲劇のはじまりだった。 ナラヤンゴンジの売春地帯の崩壊は、バングラデシュの政治闘争と同じく、推測と噂と嘘と欺瞞に彩られている。今となっては...
バングラデシュ編ゆっくりと寝たかったが、バングラデシュ・ダッカの朝は車の振動とクラクションの音と人々の叫び声や何かで寝てられなかった。仕方がなくベッドから起き出して安ホテルを出た。行く当てもないので、寝ぼけ眼のまま近くにあったレストランに入る。内部は暗く、テーブルもイスも明日には壊れそうなほど古く汚れていたが気にしなかった。起きたばかりでまだ半分寝ているような状態で食事を頼み、出された水を飲んだ。出された水は恐らく井戸の水だと思う。コップの水を飲み干すと、底は水苔のような汚れで真っ黒になって...
バングラデシュ編このようなこともあり、この日は通常の倍以上の時間をかけてタンガイル入りした。この地方都市はアリチャやナラヤンゴンジとは違って、あまり歴史を感じさせない。砂塵が舞い散っているせいか、まるで砂漠が近くにあるような、乾いた感じの雰囲気を醸し出している。ヒンドゥー教徒も多く、街中にヒンドゥー寺院もあった。リキシャの群れを横目で見ながら売春地帯に入っていくと、昼間だと言うのに、すでにそこは様々な人々でごった返していた。やはりこの街もまたアリチャ・ガット向こう岸の売春地帯と同じく、少し歩...
バングラデシュ編バングラデシュの売春地帯「ファリドプル」の奥に、ひとりの女が立っていた。クリーム色のパンジャビー・ドレスを着てグレーの模様の入った布を肩にかけ、人を避けるようにして立つ彼女の姿は、妙に薄気味悪い雰囲気を漂わせていた。歳は20歳を過ぎたくらいだろうか。異様に痩せていて、私を見つめる目は無関心に近かった。ただ黙って立って、売春地帯を行き来する男たちを見つめているのだが、心はどこか他にある、いや心というものは、すでになくなってしまったかもしれない……そんな風に感じさせる女性だった。誰も...
バングラデシュ編 閲覧注意バングラデシュ・ダッカ郊外の道沿いに路上生活者がテントを張って住んでいる場所がある。以前からそこが気になっていたのだが、何度かその道を行き来しているうちにやはり好奇心を抑えることができず、ふらふらとそのテントハウスに入っていった。数十人が暮らすその絶対貧困者のテントハウスの人々と話すうちに打ち解けたが、そこでスラムの人々は奇妙な男を私に紹介してくれた。人々から呼ばれて出てきた男は、右頬から溶解するように皮膚が垂れ下がり、喉から右腕までその溶解が続いていた。右腕は少し...
インドのガンジス川(ガンガー)は「聖なる川」なのだが、「聖」だからと言って美しいわけではない。むしろ、その逆に非常に汚染された汚れた川である。それは、インド中から多くの人たちがやってきて、この聖なる川で沐浴し、聖なる川に死体を流し、ゴミを捨て、サリーを洗い、灯籠を流し、排泄するからである。まさに、ゴミだらけの川だ。どれくらい汚いのかというと、2007年には世界で最も汚染された川ワースト5に選ばれるくらいだと言えば理解できるかもしれない。しかし、人々はそれを物ともせずやってきて、この川に浸り、感激...
インドは女性にとっては非常に危険で生きにくい国なのだが、子供たちにとっても同じだ。2013年3月6日、インド政府はインド国内でここ3年間で23万6000人の子供が行方不明になったことを報告している。そのうち、7万5000人の子供の行方は現在も所在が分からず、未解決事件になっているのだという。2012年10月には、AFP通信は年間5万人と報告しているが、いずれにしても、インドの子供の行方不明は桁違いの数字であることが分かる。子供が失踪した場合、それは子供自身の意思ではない。事故に遭って遺体が見つからないというのもある...
インド編長らく、インド売春地帯のことを書いてきたので、インドの売春地帯をさまよっていた時を振り返り、思うことをここで書いておきたい。インド・バングラデシュの売春地帯は、ひとことで言うと、憎しみと犯罪に満ちた場所だった。ネズミの這い回る汚れたインドのスラムの部屋で、大多数の女たちが見せたのは、親愛の情ではなく、無関心と敵意だった。あらん限りの理不尽なバクシーシの要求と、悪罵を浴びせられた。ギャングは金を毟り取り、女たちは殴りかかってきた。さらに精神的に病んでしまった女性と、性病の蔓延……。インド...

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