◆映画『ヒルビリー・エレジー』今後も貧困層は這い上がることができない理由

◆映画『ヒルビリー・エレジー』今後も貧困層は這い上がることができない理由

ドナルド・トランプが副大統領候補として選んだのは、J.D.バンスという上院議員だった。1984年8月2日生まれの39歳なのだが、彼の半生は自伝『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』に描かれ、後にそれが名匠ロン・ハワード監督で映画化されている。

この映画を見てみた。

彼の住んでいたのはラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる貧困地域で、彼もまた貧困層出身で、ドラッグ依存症に苦しむ母親や、育ての親である祖母との関係が描かれている。

貧困でもがく家族、聡明だったのにドラッグ依存から抜け出せずに追いつめられていく母親、悪い仲間に引きずられそうになって落ちていく主人公のJ.Dを何とかまともな方向に連れ戻そうとする祖母……。

アメリカの「ホワイト・トラッシュ(白人のクズ)」とも呼ばれる彼らの境遇と、そのやるせなさが胸に響く。

ヒルビリーというのは、アパラチア山脈の丘陵地帯などに住んでいる白人を指すのだが、そこに住む白人たちは「貧しい白人」の象徴ともなっている。彼らのファッションは「プアールック(貧しい見かけ)」とも呼ばれて、ひとつのジャンルを形成しているほどだ。

つまり、ヒルビリーというのはアメリカではよいイメージで捉えられていない。「田舎者」という意味合いが強いのだが、その田舎者という言葉が含有しているのは、「貧困」「低学歴」「古くさい」というマイナスのものばかりである。

彼らが、貧困と格差の怒りで政治に閉塞感を感じ、「すべてをぶち壊してくれる」と思ってワシントンに送り込もうとしているのが、ドナルド・トランプであり、ヒルビリー出身の副大統領候補であるJ.D.バンスだったのだ。

現代アメリカの社会問題である「貧富の差による分断」の貧しい側の人々が、どのような人々なのかを知るには、これほど優れた映画はない。

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