インドネシアの首都ジャカルタ・コタ地区ジャラン・テー(Jl.Teh)にある置屋で会った娘のことを思い出すと、とても複雑な気分になる。彼女の名前はリリーと言った。猫のような目を持ったキュートでかわいらしい娘だった。
この置屋は舗装もされていないわき道にある寂れて汚れた建物のひとつであり、看板さえ出ていない。店かどうかは一見してまったく分からないし、入り口は狭くて飾りらしい飾りもなく殺風景この上ない。
ジャカルタにいるとき、コタの街を歩いて歩いて歩き回り、やっといくつかの置屋を見つけた。しかし、本当のところは気がつかないで通り過ぎた置屋の方が多い。
見逃すのも無理はない。看板もなくポン引きもおらず、ピンクのネオンもなければそれらしきサインもない。店はほとんど隠されたような状況で、通りすがりの人間にはまったく分からないようになっている。
それでいて内部には女性が溢れかえっているのだから、インドネシアほど表と裏の乖離が激しい国はない。
店が隠されているのは、この国がイスラム教の国だからである。イスラム教は禁欲的なキリスト教徒とは違い一夫一婦制ではないし、セックスを禁じているわけでもない。
しかし、倫理には厳しく売春宿のようなものが目立つのは決して好まない。特にイスラム原理主義者は社会の風紀の乱れを厳しく監視して、西洋的なものや反イスラムと感じたものに対しては容赦なく攻撃する。
夜の店も派手にやると襲撃される恐れがある。だから、インドネシア人の経営する売春宿は華人のものに比べると、表向きには非常に地味な作りになっている。
タイのように外国人に配慮するような素振りは一切ない。リリーと出会った置屋も……
(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきた売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア』。本編に収録できなかった「はぐれコンテンツ」を掲載。電子書籍にて全文をお読み下さい)
コメントを書く