本日は『ブラックアジア・インドネシア編』を電子書籍しております。これはラピュタ出版から出ていた『ブラックアジア 堕ちた女が棲む孤島』に未掲載だった5編を加えて電子書籍化したものです。ご関心のある方はどうぞお読み下さい。(鈴木傾城) 『ブラックアジア・インドネシ編』を電子書籍化 本日は『ブラックアジア・インドネシア編』を電子書籍しております。これはラピュタ出版から出ていた『ブラックアジア 堕ちた女が […]
初めてビンタン島を訪れたのは雨期の頃だった。空はどんよりと曇っており、タンジュン・ピナンに降り立つと小雨が降っていた。雨足は強まるばかりで、ホテルに着いた時はすっかり濡れそぼっていた。暗く、陰鬱だった。 それから私はたびたびビンタン島を訪れているが、この島はいつも陰がつきまとっているように思えた。 ビンタン北部にはリゾート地がある。しかし、そこには訪れたことがなく、ビンタン南部の陰鬱な場所しか知ら […]
人生を捨てた女の目を、あなたは見つめたことがあるだろうか。それは、とても強烈なものだ。 寂然(せきぜん)の瞳というのだろうか。ままならぬ人生に長らく耐え、もの哀しさを抑えた瞳。それでいて、猛烈な意志の強さをまだ失っていない瞳。 エラの眼差しを忘れることはないだろう。 貧困、家族との別離、そして差別と言った理不尽な仕打ちに耐えながら、何百人、何千人の男に身体を預けて来た女の、激しいけれども、たとえよ […]
目的もなく、はっきりとした予定もなく、ただひとりで好きなように地を這うのが私の旅だ。そこに行けば何があるのか分からないので、そこに行く。何もないかも知れない。しかし、何もないということが印象に焼き付いて、忘れられなくなる。 インドネシアのリアウ諸島に「モロ島」という島がある。そこに行ったのも、ただ行ってみたいと唐突に思っただけで、予定に組み込んでいたわけでも、何かを探していたわけでもなかった。 た […]
自分が好きになった相手を思い浮かべて欲しい。好きになった相手に、自分と同じ「波長」を感じないだろうか。人は、自分と同じ心理・境遇・人生・悩み・欠点を相手から感じると、「同じ匂いがする」とか「波長が同じだ」と表現する。 相手のやること、なすことが自分に似ている。自分と同じ欠点があるので、行動や心理が読める。あるいは、相手の置かれている立場が似ている。 だから、相手の気持ちが説明されなくても分かる。そ […]
人は誰でも自分の人生で、どうしても忘れられない人と出会うことがある。自分の心をときめかせてくれる人がいる。 優しくて、一緒にいると安心できて、触れ合うことに喜びを感じることができる人。出会った瞬間に、本当に何の違和感もなく受け入れられて、自分の探し求めていた何かにぴったりと当てはまる人。 振り返って見ると、インドネシアで出会ったミミンはそんな女性だったのかもしれない。出会ったときから彼女は華奢で、 […]
売春する女性が男を誘う言葉は「彼女は淫乱だ」と世間を錯覚させるに充分なほど直接的かつ刺激的だ。 「ボンボン・グッド。ニャムニャム・グッド」「チキチキ・グッド。サービス・グッド」 タイ・カンボジア・ベトナムではセックスのことを「ボンボン」と言うと通じる。マレーシア・インドネシアでは「チキチキ」という。 いずれにしても「わたしのセックスはいいわよ」というフレーズだ。一種の常套句と化しており、直接的なわ […]
はじめての性体験は、誰でも強烈な印象として脳裏に刻まれているはずだ。それは人によって素晴らしかったり、あるいは惨めなものだったりする。 真夜中の退廃した世界で生きる女性は、初体験とは別に、もうひとつの体験をしなければならない。それは、売春ビジネスでの初体験だ。 愛ではなく、金で自分の身体を売る。結婚のあとの性体験は祝福されるが、売春での性体験は社会から批判される。 売春ビジネスに堕ちた女性は、それ […]
インドネシア・リアウ諸島のある島で、港町からずっと外れた山奥の村に沈没したとき、見えて来たのは激しい荒淫の嵐が通り過ぎて、今は静かに生きるだけの年を経た女性だった。 彼女たちは、外国人に対しても温かく包み込んでくれるように接してくれる。 彼女の暮らすリズムがただれた時間をつぶす自分のリズムとよく合っているので、一緒にいると本当に落ち着く。 彼女は軽く沐浴(マンディ)をして髪が濡れたまま売春村の入口 […]
「現地妻」という女性の生き方がある。男は本土で妻や子供を持っている。それを分かった上で、男が現地に来たときだけ「妻」になる。 同じ国で、同じ国籍同士であれば、それは「愛人」なのだが、国が違えば「現地妻」になる。海外出張している日本人の男も、結構な数の男が「現地妻」を持っている。 タイでもインドネシアでも中国でもマレーシアでも、どこでもそうだ。一流企業の男も、中小企業の男も関係ない。みんな妻には素知 […]
自分がどのような身体の動かし方をしているのか、最初から最後まで自覚している人はいない。人は無意識で自分の身体を動かす。ちょっとしたしくさ、ちょっとした視線の動き、身体の動き、手の動き。無意識であっても、すべて意味があるのだという。 上目遣いの目付き、またたきの回数、組んだ腕、貧乏揺すり。それらは精神的な緊張の状態を意味するボディー・ランゲージの可能性がある。腰の悪い人は無意識に腰に手をやり、胃の悪 […]
欲望の渦巻くアジアの夜の街は、マラム(夜)になってもさまざまな人間があたりを徘徊している。 近くの村からは自家栽培した芋や野菜を天ぷらにしたものを売りに来る老人もいるし、いつまでも寝ないで駆け回って遊んでいる子供も多い。 客を待っているのか、暇を持て余しているのか、根の生えたように売春地帯で暇をつぶすオジェッの運転手もいれば、ある女性に惚れているらしく、彼女の側を離れようとしないオジェッの若い男も […]
リヤンティという名のインドネシアの女性と出会ったその日、男という生き物とは「いったい何なのか」が分かったような気がした。 リヤンティと出会ったとき、彼女は赤ん坊と遊んでいた。そのときの彼女の赤ん坊を見つめる「目」と、彼女が夜のビジネスを終えて男を見る「目」は同じだった。だから、はっと気がつくものがあった。 そうだった。赤ん坊も、男も、女の身体に依存している。男は赤ん坊のときに女性の乳房を与えられ、 […]
インドリィという娘の転落はどこにでもある話だった。彼女は不器用な女性で、人見知りはするし、それほど聡明でもない。そんな女性が何もない田舎から都会に出てきて、働くところが見つからないまま転落して夜の世界に堕ちていった。 それは絵に描いたような転落話で、「ありふれた話だ」と多くの男が見向きもしない。しかし、それは彼女自身にとっては、ありふれた話ではない。 自分の人生に起きている失意の出来事に驚き、そし […]
女性はいずれ若さを失い、華々しさを失い、男たちにちやほやされなくなり、やがては恋愛の第一線から退いてしまう。それで女性の人生は終わってしまうのだろうか。 実は、案外そうでもなさそうだ。インドネシアの山奥に棄てられた女たちを見てきてそう思う。 そこは売春が渦巻く堕落した村のはずなのに、老いた女性たちがとても慈愛を受けた生活をして、静かに、優しく人生を送っている。熱い身体で男たちを悩殺してきた女性が、 […]
今までさまざまな女性を思い起こして、その女性の不幸を思い返して哀しい気持ちになったり、どうしているのかと想い返したり、気にかけたりすることがある。 中には、とても不幸を感じさせるガラス細工のように壊れそうな娘の思い出もあり、それをふと思い出しては、切なく哀しい気分になることもある。 アニス。彼女もまた、そんな女性のひとりである。 今、目の前に一枚の写真がある。水色のワンピースと肩の部分がシースルー […]
知られたくない秘密を何とか必死で隠そうとする女性がいる。その秘密は分かりやすいものもあれば、最後まで窺い知れないものもある。ポピーもまた秘密を隠した女性だった。 ポピーはなぜ、そんな態度だったのか。あの妖気はどこから来ていたのか。 なぜ、抱えるほど大きなハンドバッグを持ってきたのか。その中には何が入っていたのか。なぜ、それが必要だったのか。なぜ、ビンタン島よりジャカルタのほうがクリーンだと言ったの […]
ちょっとした表情、しぐさが気になる。意味深な視線が気になる。どうしてもそれを知りたい。そして、「謎」を知るために、その女性を追いかける。意外にそういう経験がある男は多い。 秘密は男を惹きつけるのだろうか? どうやら、そのようだ。インドネシア・バタム島で知り合ったリア・ピーについては、まさに彼女の「当惑」がいったい何だったのか、その秘密が知りたくてしかたがなかった。 いったい、リア・ピーはなぜ、そん […]
彼女の名前はシタと言った。清楚で端正な顔立ちをした娘で、歳はあえて訊かなかったが25歳前後に見えた。インドネシア領バタム島で出会ったのだが、彼女の出身はバンドゥンだった。 バタム島の夜のビジネスに関わっている娘たちは、大抵が近くのスマトラ島やカリマンタン島から出稼ぎに来ている。ここバタムでバンドゥンから来たという娘に会うのは彼女が初めてだった。 ジャカルタで夜のビジネスに従事している女性の多くはバ […]
インドネシア・バタム島。ここには夜の世界に棲息する男たちの誰もが「良い」と口を揃えて認める有名なカラオケ屋がある。 『ハリウッド』だ。名刺には『スポーツ・マッサージ&ミュージック・ラウンジ』とある。「スポーツ・マッサージ」が何か別のものを意味していることは誰もが知っている。 インドネシアは建前と本音が明確に区別される国であり、置屋もまた名刺には建前を装っているのだ。 間違えても「セクシャル・マッサ […]
夕方も過ぎて徐々に暗くなって来ると、インドネシアの巴淡(バタム)島ナゴヤの喧噪は、少しずつ薄らいでいく。走っている車は相変わらず減ることはないが、人の姿は心なしか少なくなって来るのが分かる。 開いていた雑貨屋やマーケットが閉じられ、一日の仕事を終えた人々は家族の待つカンポン(集落)へ帰って行くのだ。昼間は痛みを感じるほど強烈な光と紫外線を放射していた太陽は落ちて行き、空の色が濃紺へと変化していく。 […]
シンガポールに近いインドネシア領バタム島……。夜が更けてハイエナの時間がやって来ると、蒸し暑い夜の街に出向いて一軒の店に入った。”Queen Bee’s”(クイーン・ビーズ)である。 昼間、何気なく街を歩いているときに偶然見つけた店だった。日中でも目立つロゴが気を惹いた。普通のパブ・カラオケ屋はネオンのライトで夜に目立とうとする。しかし、そんな看板は昼間にはネオ […]
シンガポールから船で30分から40分ほどの距離に、その「売春島」がある。中国語で書くと「巴淡島」。 日本語で巴は「は」、淡は「たん」と読むので無理すれば「はたん(HATAN」』とも読めないことはない。 実際にはバタム(BATAM)なので、なかなか近いと思う。 中国人が語呂合わせで作ったような、この「巴淡島」という漢字が好きだ。巴(ともえ)は波頭(なみがしら)をイメージ化したものを指している。淡(あ […]
彼女の名前はヘリナと言った。インドネシア・ジャワ人である。まるで優雅な黒豹のようだった。 軽く波打ったショートカット・ヘアはその野性的な表情によく似合っていた。無駄な贅肉など一切ついていないスリムな身体にぴっちりと張りついた黒の衣服は彼女の美しさを際立たせていた。 インドネシア・ビンタン島の、カラオケ屋を模した売春宿「サンライズ」にぶらりと入って、青やピンクに灯された蛍光灯の下に15人ほどの女性た […]
インドネシア・ジャカルタから遠く離れた離島に降り立った。そして、真夜中になると島の中心部にモトバイクを飛ばしてもらった。一本のどこまでも続く舗装道路をバイクは順調に走る。他に走っているバイクなど一台もない。 「真夜中は危険だ」とバイクの運転手は顔をしかめるのだが、真夜中にさまようハイエナはこの時間が本番だ。危険だと言われても困ってしまう。危険を承知で夜の街に出かけ、強盗に襲われたら、それまでと観念 […]