◆さよなら、女たち。セチア・ジャヤで出会ったヌーリ

◆さよなら、女たち。セチア・ジャヤで出会ったヌーリ

初めてビンタン島を訪れたのは雨期の頃だった。空はどんよりと曇っており、タンジュン・ピナンに降り立つと小雨が降っていた。雨足は強まるばかりで、ホテルに着いた時はすっかり濡れそぼっていた。暗く、陰鬱だった。

それから私はたびたびビンタン島を訪れているが、この島はいつも陰がつきまとっているように思えた。

ビンタン北部にはリゾート地がある。しかし、そこには訪れたことがなく、ビンタン南部の陰鬱な場所しか知らない。この島を想い出すたびに「底知れぬ陰」を感じるのは、そのせいなのかもしれない。

ホテルはわざと町外れの郊外にした。快適ではなくても、治安が悪くても一向に構わなかった。

どちらにせよ、堕落エリアに入り浸りになるのだから、安全を求めても無駄なことだ。安全を確保できないのなら、せめて堕落の場所に近いところがいい。

夜中の路地をさまよって堕落にたどり着けるなら、それがもっとも自分の適した場所だ。

島に入ってオジェッの運転手と情報交換をしていたので、最初に選んだホテルは、そういう意味では自分の意向に沿った場所であった。このホテルのまわりには売春宿が数多く隠されていたのである。

何日か経ったある日、とある売春宿に足を向けた。「セチア・ジャヤ」である。

朝から激しい雨が降っており、午後になってそれがやむと、ゆっくりとセチア・ジャヤに向かう道を歩いて行った。

このうらぶれた舗装もされていない路地が好きだ。右側の高い壁と左側の緑が、この道を歩く者を外の世界と断絶させ、深い孤独を感じさせる。

この路地の向こうに、堕落が隠されている。まるで秘密の隠れ家に続く道のようで、それが私を軽く興奮させるのかもしれない。

この時、オジェッの運転手をしている男リッキーと一緒だった。リッキーは英語が堪能で、しかもここ数日間でいろんなところを案内してもらっていたが、かなり信頼できた。

セチア・ジャヤがただのホテルではなく、実は売春宿だというのも、この男が教えてくれた。

ぬかるんだ道をバイクで連れて行ってくれるというのだが、私は歩きながら、のんびりと熱帯の風景を眺めるのが好きなので「歩いて行く」と言った。どのみちセチア・ジャヤは……

(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア インドネシア編』にて、全文をお読み下さい)

ブラックアジア・インドネシア編
『ブラックアジア・インドネシア編 売春地帯をさまよい歩いた日々(鈴木 傾城)』

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