最初にどん底(ボトム)に落とされるのも、最後まで取り残されるのも貧困層だ

最初にどん底(ボトム)に落とされるのも、最後まで取り残されるのも貧困層だ

どん底(ボトム)に落ちれば落ちるほど、その克服は思った以上に困難となる。絶対貧困にまで落ちると、這い上がることもできないほど悲惨な状況になってしまうのだ。この現象はインドだけではない。すべての国でそうなのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

貯金や資産は危機の緩衝材

インドはコロナによってアジアで最も大きなダメージを受けている国だ。2020年9月の段階で500万人の感染者と言われていたのだが、それから1ヶ月経った10月11日には感染者が累計約700万人を突破したとインド政府は発表した。

すでに欧米やブラジルを超えて、アメリカに次いで世界第二位のコロナ汚染国となってしまった。死者も10月11日の報告の時点で10万人を超えている。

コロナの拡大は鈍化しているのだが、11月には「ディワリ」というインド最大の祭りが行われることになっており、これによってコロナは再び拡大してしまうのではないかという危惧がある。(ブラックアジア:ディワリ。インドが一年で最もロマンチックになる「光の祭り」

これによって、2020年のインドの経済成長は絶望的なまでに悪化してしまい、マイナス9%になるのではないかとアジア開発銀行は予測している。

2021年にはコロナのワクチンが開発されて出回ることになるはずなので、来年からは再び経済成長の軌道に戻ることが期待されるが、先のことは誰にも分からない。

分かっているのは、せっかく貧困層が這い上がることができる環境ができていたのに、再び遠のいてしまったということだ。インドはまだまだ極度の貧困が残っており、カースト制度のような不平等な社会的因習も残っていて不平等の極みだ。

コロナによって大ダメージを受けているのも、ボトムの中のボトムにいる人々である。格差はまた大きく開いていく。

言うまでもないが、不況が襲いかかった時、何も持たない人たちは、大きな資産や貯金を持つ人たちよりも先にどん底に落ちる。貯金や資産は危機の緩衝材である。金持ちは、ある程度の不況でも保有する資産や貯金で助かることができる。

しかし、何も持たない層は一瞬で危機に落ちる。食費にも事欠き、光熱費も家賃も払えなくなる。追い出され、路頭に迷い、打つ手がなくなる。危機に対するダメージは貧困層の方が富裕層よりも数十倍も大きいのである。

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最貧困の弱者を助けることはできるのか?

どん底(ボトム)にのたうち回っている弱者を、社会は助けることはできるのか。最貧困の弱者は、危機の中で助かることができるのか。これは東南アジアのスラムに沈没していた時、私がいつも感じていた疑問だった。

必死で働いていても、どん底から抜け出せない人もたくさんいる。その日を生き抜くことすらもできないほど貧しい中で、自助努力は限られている。

こうした人たちを救うことができると信じて尽力するNGO団体もあれば、行政機関もある。しかし、どん底の人々は彼らを救おうとする人たちに比べてあまりにも膨大であり、その状況も深刻だ。

インド圏の貧困は先進国に住む私たちの想像を超えるものだったのである。

日本は「相対的貧困」で深刻さを議論している。相対的貧困も確かに深刻な問題である。しかしインドでは、日本の貧困など「お遊びにしか過ぎない」と思わせるような超貧困、すなわち絶対貧困がそこに満ち溢れていた。

家族が路上に寝て、子供がゴミを漁って食べられるものを探し、通路で排便し、夜の路上で静かに性行為をするような人々が数千万人、数億人単位で放置されている国、それがインドだったのである。

私が著書『絶対貧困の光景』で書いた物乞いの女性たちは、10年経っても物乞いだった。(アマゾン:絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち

この10年、インドは新興国として発展し続けて中産階級も増えてきたが、路上を見ると、10年前と何一つ変わらない絶対貧困で暮らしている人たちが群れをなして存在していたのだ

インドは今や世界で最も児童労働が放置され、人身売買が放置されている国である。未だに人身売買で連れてこられたセックスワーカーたちが売春宿の前に立ち、未成年の少女の売春も存在する。インドは強烈なまでの貧困がそのまま野放しにされている。

では、こうした「どん底の弱者」は、やがてそこから抜け出すことができるようになるのだろうか……。

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

自分で抜け出すための行動ができたか?

東南アジアに関して言えば、ここ最近は「助かる人」の方が増えていた。それはNGO団体や行政が何かしたというよりも、経済成長がゆっくりとインド社会を潤し始めたからだと言える。

インドは資本主義を意識するようになり、「経済成長こそが現代社会の基礎」であることを悟って政治が変わり、そこから徐々にではあるのだが、最貧困の人たちにも「運」が回ってくるようになった。

今までインドの貧困層はまともな仕事がなかったが、そこに賃金を得られる仕事が生まれるようになって、人々は継続的に収入を得られ続けられるようになった。そんな社会的な変化が人々の社会全体を底上げした。

経済成長によってインドの貧困層にも夢も希望も生まれ、絶望から抜け出せるようになった。経済発展は、間違いなくどん底(ボトム)に生きる人たちを広く浅く助けることにつながっていく。

しかし、貧困からの脱却には「順番」がある。

資本主義の世界では、田舎よりも都会の方が仕事にありつける確率が高い。そして怠惰な者よりも勤勉な者の方が仕事にありつける確率が高い。さらに無学な者よりも学がある者の方が仕事で出世しやすい。

分かりやすく言うと、田舎で暮らす最貧困の人々よりも、都会に暮らす最貧困の人たちの方が先に貧困から抜け出せる可能性が高い。

また、その中でも雨が降っても風が吹いてもきちんと働きに来て、長く働ける体力や能力や勤勉さを持った人たちから先に貧困から抜け出せる可能性が高い。

そして、字が書けたり読めたり、計算できる人の方が先に貧困から抜け出せる確率が高い。さらに節約して生きるとか、将来のために貯金するという資本主義的な知識が備わっていくと希望が生まれる。

そう考えると、最初にどん底(ボトム)から抜け出せるかどうか、あるいは最終的にどん底から脱することができるかどうかは、運と共に、資本主義的な行動ができて、勤勉で、向上心のあるかどうかも大きく影響することに気づく。

地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから

この現象はインドだけではない

問題がある。あまりにもどん底(ボトム)の生活が長すぎると、「勤勉で向上心のある人が先に助かる」ということに気づくのに時間がかかるのだ。

自分の身のまわりで勤勉で向上心がある人がいても助からなかったケースを数多く見てきているし、それが重要だと言って教育してくれる人間はどん底に生きる人たちの世界では少ない。

そのため、最も深い貧困に堕ちている人たちほど、それに気づかない。すでに夢も希望も失い、自分たちの生活を良くすることなど不可能だと思い込んでいれば、どうしても勤勉や向上心に結びつかない。

勤勉と言っても、栄養状態も生活環境も悪ければ、その勤勉を維持するのも大変だ。病気になりやすく、身体が弱りがちで、精神的にもダメージを繰り返し受けて勤勉から遠ざかる。

また、学校で勉強して字も読めるようになった方が最終的には得すると気づいても、最貧困の家庭ほどそれに対応するのに遅れる。

なぜなら、「学校で字を覚えるよりも街で物乞いして稼ぐ方が先だ」という切実な生活にあるからだ。そうしないと生活が成り立たないのであれば、向上心よりも経済サバイバルの方が優先されても仕方がない。

勤勉で向上心のある人が先に助かるというのは、どん底に堕ちれば堕ちるほど気づきにくくなり、気づいてもそれを実行することができない。

世の中が豊かになる過程で、常にどん底の人たちが取り残されてしまうのは、こうした諸々の事情が足を引っぱってしまうからでもある。

自助努力は必要なのだが、自助努力ではどうしても限界があるのがどん底の人たちの生活環境だ。落ちれば落ちるほど、社会が見えなくなる。その結果、何が自分たちを救うのかも分からなくなり、取り残される一方と化す。

どん底(ボトム)に落ちれば落ちるほど、その克服は思った以上に困難となる。絶対貧困にまで落ちると、這い上がることもできないほど悲惨な状況になってしまうのだ。この現象はインドだけではない。すべての国でそうなのだ。

コロナによって真っ先にどん底に落ちたのは、世界中どこでもどん底(ボトム)の人たちである。そして、事態が収束しても最後まで取り残されるのもどん底(ボトム)の人たちである。

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