ティッピングポイントというのは『物事がある一定の閾値を超えると一気に全体に広まっていく際の閾値やその時期、時点のこと』と説明されている。
人間は自然破壊の上に文明が成り立っていることを十分に認識している。そして、自然破壊が続くと、いつか「ティッピングポイント」を踏み越えるであろうことも意識している。
自然はどんなに破壊しても必ず修復するわけではない。もはや回復できない地点があるのだ。しかし、人間はそれを分かっているとしても止めることは決してない。
なぜか。なぜなら、快適な文明生活を送るためには「自然破壊という犠牲はやむを得ない」と無意識に考えているからだ。今の快適さを捨てるくらいなら、自然を破壊した方がマシだというのが本音なのだ。
快適さのためには、快適さを破壊する生物を殺戮することも厭わない。人間は自らに都合の良い生物は可愛がるのだが、そうでない生物は容赦なく殺す。(ブラックアジア:人間の二重性。ペットは溺愛されるが、害虫・害獣は容赦なく殺される)
その結果は何をもたらすのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。
暴走の過程でメリットを享受
暴走が止まらず、行き着くところまで行ってしまうのは大きな理由がある。それは、暴走の過程で、十分なメリットが享受できているからである。
資源獲得のための乱開発も、抗生物質乱用も、農薬の進化も、長期的には人類に大きな災厄をもたらす。しかし、短期的には大きなメリットがあるので行き着くところまで行く。
文明の発達のためには資源の掘削が必要だが、資源の掘削は自然破壊をどんどん押し進める。その結果、ジャングルは破壊されて微妙な食物連鎖の中で生存してきた多くの生物が絶滅していく。
地球温暖化の原因になって人間の住環境もまた苛烈なものになっていく。また工業化によって深刻な大気汚染も起きるし、公害も止まらない。
増え続ける人間は住環境の確保のために森林をも破壊するのだが、森林の破壊は、崖崩れや洪水や砂漠化や土壌汚染を生み出している。水質汚染も深刻化し、飲料用水の確保が年々難しくなっていく。食品汚染も起きる。砂漠化も起きる。
しかし、それが分かっていても人類は環境破壊を止めることは決してない。短期的には充分すぎるほどのメリットをもたらしているからだ。メリットがある以上は止まらないのである。
今の生活を維持することと、自然破壊を止めることのどちらが重要なのかと問われると、誰もが今の生活を維持する方を選ぶ。自然破壊という不都合な事態が裏で進行していても、自分の生活が快適になるのであれば自然破壊は無視される。
どんなに自然が破壊されたとしても、人々はそんなことに見向きもしない。ライオンやトラやキリンが絶滅しそうであっても関係ない。オランウータンの住処がなくなろうと関係ない。
それは自分の問題とは思えないので「他人事」として処理される。しかし、こういった環境破壊も、壊してはいけない限度を超える日がいつか来る。それが人類を自滅させる可能性がある。
しかし、自分の生きている間は文明が続く可能性も十分にある。だから、最終的には破滅がくるとしても「関係ない」というのが多くの人の本音だ。
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生き延びた個体が世代を重ねて強くなる
人間社会の裏側で梅毒や淋病が爆発的に蔓延している。日本も他人事ではないどころか、むしろ日本の風俗のあり方は最終的な大きな災厄をもたらす。(ブラックアジア:日本の女たちは性病まみれになっていくのか?)
「日本女性が性病まみれになる」と言っても「清潔好きな日本女性が性病まみれになるなど信じられない」と言う人が大半なのだが、その認識は甘い。日本の風俗は性病に無防備すぎるのだ。無防備である以上、性病まみれになっても不思議ではないというのが私の意見だ。
こうした病気は「今のところ」は抗生物質で治る。
抗生物質は非常に多くの生命を救っている。それまで克服できなかった多くの病気は抗生物質で治るようにもなった。(ブラックアジア:誰でもできる。確実に効かないクスリを見抜く方法とは?)
だから人間の寿命は伸び続けている。それはとても素晴らしいことであり、誰にも異論がないことではある。
しかし、病原菌は急激に抗生物質に対して耐性を持つようになって、抗生物質で死なない「スーパー病原菌」が広がるようになっている。
既存の農薬で死なないスーパー雑草や、農薬で死なないスーパー害虫の例を見ても分かる通り、すでに人間が作り出した殺虫剤を克服した危険な生物が新しく生まれている。
抗生物質も農薬も、完全に有害生物を殺し切れないので、生き延びた個体が世代を重ねて強くなっている。
抗生物質の開発は、一見「悪い病原菌」を見事に殺しているように見える。ところが、それと同時に「悪い病原菌」をさらにバージョンアップさせているのである。人間が、より凶悪な生物を意図せずに作り出しているのだ。
地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから
自らの手で自らを絶滅させる生物を育てる
最近、ベトナム・タイビン省の住民の間で約7割の住民が、強力な抗生物質であるコリスチンに耐性を持つ大腸菌を保有していることが分かった。
コリスチンは最後の切り札とも言われる強い抗生物質なのだが、すでにこの強力な抗生物質に耐性を持つ菌があって、それが他の病原菌に移ればどんな抗生物質も効かない「スーパー耐性菌」が出現する。この調査は大阪大学の研究チームが行ったものである。
イギリスのアストン大学の研究チームは、イギリス内の医療機関7カ所で採取された昆虫1万9937匹を分析した結果、このように発表している。
採集した昆虫の9割で人体の健康を害するおそれのある細菌が見つかり、このうち、ハエ目の昆虫に寄生していた細菌の半数以上が抗生物質に耐性を持つこともわかった。
もう危機的な時代はそこまで来ているのである。
生物はより耐性を持って自然淘汰しているだけなのだが、その自然淘汰がより人間にとって危険になっていく。
麦は踏まれれば踏まれるほど強くなると言われている。同じことが病原菌にも雑草にも害虫にも起きている。人間が殺しきれなかった病原菌や害虫が、より強靭になって人類に襲いかかる。
それが、どんな結末を生み出すのか誰もが気付いているはずだ。いずれは人類が手も足も出ない何らかの病原菌・雑草・生物が生まれて、まるで復讐するかのように人類を淘汰してしまうかもしれない。
それが今日なのか明日なのか、来年なのか10年後なのかは、誰にも分からないが、いずれ起きる。自然が人間を滅ぼそうとしているのではない。人間が自ら自分たちで絶滅の芽を産み育てている。
しかし、人間はそれでも止めない。(written by 鈴木傾城)
いずれは人類が手も足も出ない何らかの病原菌・雑草・生物が生まれて、まるで復讐するかのように人類を淘汰してしまうかもしれない。
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資源獲得のための乱開発も、抗生物質乱用も、農薬の進化も、長期的には人類に大きな災厄をもたらす。しかし、短期的には大きなメリットがあるので行き着くところまで行く。暴走の過程で、十分なメリットが享受できているのであれば、問題はすべて先送りされる。それが現実だ。https://t.co/cB1EKVrZ4p
— 鈴木傾城 (@keiseisuzuki) July 15, 2019
いつも興味深く拝読しており、鋭い視点の記事をよくツイッターなどでシェアさせていただいております。
スーパー耐性菌の件は私もかなり気になっていたテーマです。この対策については最近ファージ治療のアプローチが見直されており、効果が認められつつあるようです。
https://honz.jp/articles/-/46024
助けるべきか弱い人々がたくさんいる一方で、種全体としては意外としぶといところもあるように思います。こうした恩恵が貧しい人たちにも回れば良いのですが。