年金制度の改悪に激しく抗議するフランス人。しかし何をされても黙っている日本人

年金制度の改悪に激しく抗議するフランス人。しかし何をされても黙っている日本人

フランス人は数百万人以上が抗議デモの中で「我々は従順な羊ではない」と叫んで政府に反旗を翻した。ところが日本人はデモひとつ起こさない。政府が何をやっても従順な羊のように従う。フランスのやり方が良いと言っているわけではないが、日本人はあまりにも従順すぎるのではないか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

年金改革を強行したフランスで大規模デモ

フランスが荒れている。そして、収拾がつかなくなっている。

2023年1月、エマニュエル・マクロン大統領は「年金の支給開始年齢を62歳から64歳へ段階的に引き上げる」という案を発表した。「年金の受給年齢を引き上げる」というのは、要するに高齢者に「もっと働け」という意味である。

2年余分に働かせ、2年余分に年金を納めさせる。怒った高齢者がすぐに反対デモやストライキを計画してフランス政府に対して反対の意を表明したのだが、フランス政府は折れず3月にはこの法案を強行突破で成立させてしまった。

他のEU諸国では年金支給が65歳から始まる国もあるわけで、62歳は「早すぎる」というのがフランス政府の判断だった。実はかつてフランスも65歳だったのだが、1980年代に60歳に引き下げられていたのだった。

しかし、あまりにも早すぎるというのでこれが1990年代には62歳に引き上げられた。しかし、それでも今のままでは年金財政の負担が重くのしかかり、今のうちに是正しておかなければ財政の逼迫は必然なので、64歳ということになった。

フランスは早期リタイア・長期バカンスが文化として定着している国であり、国民の多くは早期にリタイアして外国や国内の避暑地でのんびり暮らす生活を計画している。日本では高齢になっても働くのが当たり前になりつつあるが、フランスは逆で62歳を超えて働く人は滅多にいない。

高齢になったら働かないという文化にフランス人は生きていたのである。これが政治の力で無理やり覆される。

フランスは都市機能が正常に動かなくなってしまった

放置していたら、64歳が65歳に、65歳が67歳になるという恐れをフランス人は持っている。なぜなら、隣国ドイツは67歳にまで引き上げられていたからだ。フランスも、64歳を皮切りに、どんどん年金の支給開始年齢が引き上げられる可能性は高い。

だから、フランス人はこれに怒ったのだった。

怒ったのは高齢者だけではない。中高年も若者も、自分たちのリタイアがどんどん遅れることには大反対である。ここで歯止めをかけておかないと、なし崩しに改悪が進んでいく。

そのため、抗議デモには若者から高齢者までが参加して、数万人規模、数十万人規模で反対の声を上げた。大規模デモはすでに4月に入ってから10回を超えている。総勢350万人がデモに参加したという観測もある。逮捕者は230人以上である。

さらに労働組合も「フランスを停止させろ」というスローガンで大規模ストライキを敢行した。フランス国鉄もストライキ、パリのメトロもストライキ、市バスもストライキ、ゴミ収集もストライキ、焼却場もストライキとなった。

これによってパリはゴミまみれとなっており、もはや観光どころの騒ぎではなくなった。「憧れのパリ」に到着すると、街はゴミまみれで悪臭が漂っているのである。パリ市内だけで9400トン以上のゴミが放置されているのだから凄まじい。

悪臭だけではない。これによってネズミが大繁殖して、商業ビルの中にもネズミが這い回るようなことになってしまった。ビルの1階どころか4階までもネズミが出没するというのだから尋常ではない。

医療関係者はこのネズミが病原菌を人間に感染させてレプトスピラ症の感染者が爆発的に増えてしまう可能性をも指摘している。さらに大規模抗議デモのたびにゴミの山が燃やされるという事態にもなって、ゴミの堆積はますます悪化している。

パリはゴミまみれとなっており、もはや観光どころの騒ぎではなくなった。「憧れのパリ」に到着すると、街はゴミまみれで悪臭が漂っているのである。パリ市内だけで9400トン以上のゴミが放置されているのだから凄まじい。

この荒れ果てた状況を私たちは注視しておく必要がある

さすがにパリ市民もこれには閉口して、ゴミだけは何とかスト中断できないかということになって、3月の末にはいったん中止になった。ところが、このような状態になってもフランス政府は折れない。

そのため、現在では再び状況が悪化して、今度は「無期限のストライキに入る」ということになるという話にもなっている。

航空のストライキも発生して、これまで数千時間もの遅延が発生している。もはや、フランスの航空機のスケジュールは正確性を担保されていない。チケットを取っても、スケジュール通りに飛ぶかどうかも分からない。その前に自分の便が当日に存在するのかどうかも分からない。

もはや、フランスは都市機能が正常に動かなくなっており、経済が大混乱となっている。この騒動の落としどころがどこになるのかは誰も分からなくなった。政府と国民のチキンレース状態と化している。

反政府運動も盛んになり「マクロンは辞めろ」「マクロンはフランスから出ていけ」と言う声が日増しに高まっている。マクロン大統領の求心力は低下しており、政治的にも孤立状態となった。大統領の支持率は3月の時点で28%である。

そして、再びマクロンの対抗馬として右派政党「国民連合」(RN)率いるマリーヌ・ルペンが脚光を浴びている。

マリーヌ・ルペンは「年金受給年齢64歳を62歳にするどころか、1980年代の時のように60歳に引き下げる」とも主張しているからである。現マクロン政権が頑なであればあるほど、ルペンの「国民連合」の支持が広がることになる。

フランスがこれからどうなるのかは私たちには不明だが、この荒れ果てた状況を私たちは注視しておく必要がある。なぜなら、私たち日本人も「無関係ではない」事態だからである。

フランスがこれからどうなるのかは私たちには分からないが、この荒れ果てた状況を私たちは注視しておく必要がある。なぜなら、私たち日本人も「無関係ではない」事態だからである。

フランスで起きていることは私たちに無関係ではない

何が無関係ではないのか。それは日本もまた岸田政権が年金の「改悪」を議論しているからだ。

・国民年金と厚生年金の加入期間延長する。
・パートを厚生年金強制加入させる。
・マクロ経済スライドで年金を減額する。

この3つが議論されている。フランスでは62歳の支払いを64歳に延長するということで今回の抗議デモと暴動が起こっているのだが、日本は65歳までの支払い延長を目論んでいる。

間違いなく日本人の老後は悲惨なものになっていくだろう。生活環境の悪化は避けられない。65歳まで年金の支払いが続き、年金受給年齢はどんどん後ろに延ばされていく。場合によっては70歳とか74歳とか、それくらいまで延ばされる可能性すらもある。

では、日本人はフランス人のように暴動を起こしているのだろうか。

いや、日本人は日本政府がいかに増税しても、社会保険料を引き上げても、年金額を減らしても、社会保障を劣悪化させても、まったく抗議も暴動も起こさない。何をされても奴隷のように黙ってそれを受け入れる。

フランス人は数百万人以上が抗議デモの中で「我々は従順な羊ではない」と叫んで政府に反旗を翻した。ところが日本人は「デモひとつ起こさない」のである。政府が何をやっても「従順な羊」のように従って、黙って屠殺されるのだ。

フランス国民のやり方が良いと言っているわけではないが、日本人はあまりにも従順すぎるのではないか。

日本政府の横暴は放置しておけばどんどんエスカレートする。そうであれば、私たち日本人もどこかで声を上げなければならない段階にまできているのではないか。フランスで起きていることは、私たち日本人も「無関係ではない」というのはそういうことだ。

亡国トラップ─多文化共生─
『亡国トラップ─多文化共生─ 隠れ移民政策が引き起こす地獄の未来(鈴木 傾城)』

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