アフリカを揺るがす蝗害(こうがい)。放置すれば深刻度は500倍の規模になる

アフリカを揺るがす蝗害(こうがい)。放置すれば深刻度は500倍の規模になる

今、東アフリカを恐怖のどん底に突き落としているのは「サバクトビバッタ」という種類のバッタだ。日本で言うところの「トノサマバッタ」とよく似たバッタだ。群れをなして飛び、視界一面を覆い尽くすこのサバクトビバッタは、現地では「黒い悪魔」とも呼ばれている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

2020年6月までにバッタの数が500倍に増大する

今、私たちは中国発の異常な伝染病である新型コロナウイルスの問題に焦点がいっているのだが、アフリカではそれどころではない。今、目の前にもっと深刻な脅威が襲いかかっている。

それが「蝗害(こうがい)」である。

いったい、蝗害とは何なのか。「蝗」というのは「イナゴ(バッタ)」のことなのだが、要するにバッタが想像を絶するほど大量発生して、農作物をすべて食い尽くしてしまう現象である。

被害に遭っているのはアフリカの一国ではない。エチオピア、ケニア、ソマリア、ウガンダ、南スーダンの農作物が壊滅的ダメージの危機にある。

バッタくらい、大きな網で捕まえて処分すればいいと日本人は何となく思ってしまうのだが、アフリカで大量発生しているバッタはそんなレベルではない。

地を覆い尽くし、空を覆い尽くし、広大な草原を覆い尽くし、山や川を覆い尽くし、もはやホラー映画を凌駕するほどの群れとなって空間をすべて埋め尽くす。私たちの日本人が想像する「バッタの群れ」を超えるものである。

今、アフリカ東部で発生している蝗害は、ここ数十年で最悪レベルの現象になっている。国連はこのように述べる。

『何らかの対処をしなければ、2020年6月までにバッタの数が500倍に増大する』

今は2月だから、これから4ヶ月間に蝗害は500倍の規模になってより深刻なことになるというのである。

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今、アフリカで起きている蝗害(こうがい)

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イナゴは温暖化の世界では「勝者」になる生物

今、東アフリカを恐怖のどん底に突き落としているのは「サバクトビバッタ」という種類のバッタだ。日本で言うところの「トノサマバッタ」とよく似たバッタだ。

このバッタは大型で移動距離も大きく、アフリカではしばしば大量発生してアフリカを悩ませている。

旧約聖書『出エジプト記』にも、アフリカからやってきたイナゴの大群がエジプトを襲う場面が描かれているというのだが、そのイナゴというのもこの「サバクトビバッタ」だった。

そして、新約聖書のヨハネの黙示録では、「アバドン」という名で登場する堕天使がイナゴの大群を率いて「人々に死さえ許されない5ヶ月間の苦しみを与える」と書かれている。

聖書以後も、しばしばアフリカ、エジプト、アラブ諸国にはサバクトビバッタの大量発生が農作物を全滅させている。

群れをなして飛び、視界一面を覆い尽くすこのサバクトビバッタは、現地では「黒い悪魔」とも呼ばれている。

興味深いことに、サバクトビバッタは仲間が増えると身体の色が「黒くなる」ことで知られている。サバクトビバッタの身体が黒くなっているというのは、不吉の兆候だったのである。

2020年の東アフリカで起きている黒い悪魔は、過去数十年の中でも類を見ないほど巨大なものであると各国政府が発表している。

ソマリア政府はすでに蝗害(こうがい)で国家非常事態を宣言している。

しかし、上空から薬を散布しても間に合わないほどの大量発生が現地で起きており、被害の中心になっているソマリアから周辺国にどんどん広がって収拾がつかない様相になっている。

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2020年は人類にとって災厄の時代となっているようだ

アフリカでは2014年もマダガスカルで蝗害(こうがい)が起きているのだが、それにしても、なぜここ数年で「最悪」の度合いが深まっているのか。科学者は「温暖化の影響である」と述べている。

イナゴ科の生物は温暖化の世界では「勝者」になる生物であり、温暖化になればなるほどイナゴの発生は増えていく。

かつて中国の毛沢東時代、スズメが畑を食い荒らすというのでスズメ狩りをして撲滅したら、今度はイナゴが大量発生して、結局は畑が壊滅状態になったという例があった。

自然環境は食物連鎖と自然環境の中で巧妙な均衡の中で成り立っている。この均衡が崩れると、ある生物が大量繁殖して問題を引き起こすことになる。

イナゴの大群はかつての日本でも報告されている。どこの国でもイナゴの大量発生は必ず起きる。しかし、日本や西欧ではあまりイナゴの大量発生は一般的ではないし、国を破壊するレベルまで悪化することもほとんどない。

イナゴ科は繁殖するためには「背の低い草と砂と水」が必要なのだが、アフリカは背の低い草と砂はあるのだが、水がない。通常、砂漠地帯はほとんど雨が降らないからである。

しかし、近年になって地球温暖化が進むようになってアフリカでは雨が降りやすくなってきている。すると、足りなかった水が確保できるようになる。自然環境の微妙な均衡がここで崩れるのである。

水が確保できると草が枯れないでどんどん増えていくのだが、草が増えていくとイナゴ科は繁殖しやすい環境になる。「イナゴ科の生物は温暖化の世界では勝者」というのはそういう理由からである。

アフリカがバッタの数が500倍に増大する前に、この問題を解決できるのかどうかはまだ分からない。もし解決できなければ、東アフリカの農作物は壊滅して今年は飢饉が発生するのは確実な状態になる。

アジアでは新型コロナウイルス。アフリカでは蝗害(こうがい)。2020年は人類にとって災厄の時代となっているようだ。

『バッタを倒しにアフリカへ(前野ウルド浩太郎)』

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