孤独・孤立が広がって止められない現実。日本人を追い詰める孤独のリスクとは?

孤独・孤立が広がって止められない現実。日本人を追い詰める孤独のリスクとは?

孤独・孤立は、個人の心身にさまざまな悪影響を及ぼす。また、人々のつながりの希薄化で社会の活力が低下し、犯罪も増加し、自殺者も増える。互いに助け合うことができなくなり、社会全体が脆弱になっていく。今、日本社会ではこうした傾向が裏側でじわじわと進んでいる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

日本社会に孤独・孤立が覆い尽くすようになった

時代が進むにつれて、若者からリアルなコミュニケーションがどんどん希薄になっており、対人関係に苦手意識を持つ若者が爆発的に増えている。人と、うまく付き合えなくなってしまっている。その結果、多くの若者が孤独になっていった。

また、日本は高齢化が止まらないのだが、高齢になると退職して社会との接点が消える。あるいは、配偶者に死別されたりする。体力的にも出歩くことが減って友人との関わりが喪失したり、気力がなくなって付き合いも避けたりする。その結果、高齢者も孤独になってしまう。

孤独・孤立は、個人の心身にさまざまな悪影響を及ぼす。

孤独を感じている人は、うつ病や不安症などの精神疾患にかかりやすくなることが研究で明らかになっている。また、社会的なつながりが少ない人は、生活習慣が悪化したり、健康状態が悪くなったりするリスクも高まる。

そして、社会的なつながりの希薄化は、社会全体にとっても問題となる。社会の活力が低下し、犯罪も増加し、自殺者も増える。互いに助け合うことができなくなり、社会全体が脆弱になっていく。

今、日本社会ではこうした傾向が裏側でじわじわと進んでいるのだ。

日本政府もこの状況を深く憂慮しており、この状況に対処するためにわざわざ「内閣官房、孤独・孤立対策担当室」を作った。

『社会的不安に寄り添い、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について総合的な対策を推進するための企画及び立案並びに総合調整に関する事務を処理するため、内閣官房に、孤独・孤立対策担当室を設置いたしました』と政府は述べている。

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孤独を求めていないのに孤独になる人もいる

孤独は一概に悪いものであるとは言えない。私は野良犬のように過ごしているので、他の人たちに比べるとかなり孤独なほうだが、それで私の精神が蝕まれているようには見えない。

あと、孤独を肯定している人々も少なからずいる。たとえば、ニーチェはかなり孤独な人であったが、ニーチェ自身はそれが悪いとは思っておらず、「孤独は人間にとって最も貴重な贈り物」みたいなことも言っていた。

詩人のヘンリー・ディヴィッド・ソローは森の中に丸太小屋を建てひとりで暮らして孤独を積極的に楽しんでいた。ドイツの心理学者であるヴィルヘルム・レーゲは「孤独は社会的なつながりから逃避することではなく、自分自身と深く向き合うための重要な時間である」と考えた。

心理学者ユングは「孤独は個人の成長にとって必要不可欠」であると主張した。作家ジョージ・オーウェルも「孤独は人間の自由を守るために必要」であると主張した。ヴァージニア・ウルフは「女性にとって孤独は創作活動の源泉」と述べた。

孤独であるからこそできることもあって、創作活動をする人は孤独を好むことが多いし、シンプルライフをする人も自分の生き方を貫くために孤独に身を置くことが多い。結局、孤独な時間を自分自身と向き合う時間として使っているとも言える。

しかし、積極的に孤独を肯定して孤独を「コントロールできる」のであればいいのだが、孤独を求めていないのに孤独になる人もいて、それが問題なのである。

人を求めているのに得られない寂しさは、心を萎縮させる要因となる。他者とのつながりを渇望しているのに「誰からも相手にされない」のだ。その喪失感は心に大きなダメージを与える。

十数年も引きこもりだった人が家族が死んで救出されたとき、もう話せなくなっていたというケースもあった。寂しさによって心は閉ざされ、感情が抑制される傾向になっていく。これによって心の健康が損なわれる土壌ができ上がる。

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孤独・孤立が心のバランスを崩し、心を蝕んでいく

寂しさは心の状態を徐々に悪化させ、最終的には心の破壊につながっていく。自分は社会に必要とされていない、自分は社会から排除されている、自分は「要らない人間なのだ」という感情が渦巻いて、強い希死念慮に結びつく。

私は書籍『病み、闇。』の中で、「死にたい」と願う若者たちを何人も取り上げているのだが、彼らは親にも学校にも友人にも社会にも必要とされていないという感情を持っていた。自分は「要らない人間なのだ」と無意識に思っていたのだった。

長期間にわたってこのような孤独感や孤立感が続くと、心は徐々に弱体化し、抵抗力を失っていく。そして、リストカットやオーバードーズで、一歩一歩「死」に向かって突き進んでいく。

ある女性は「死に損ない」という言葉をメールアドレスに使っていた。それほどまで「死」を思っていたのだった。

本当は孤独で寂しくて、それを埋めたいと思っていたのだが、それが埋められないというのが彼女の現状だったのかもしれない。心は本来、他者とのつながりや支えが必要な存在である。

つながりが欠如すると孤独・孤立が強調され、心は不安や絶望に晒され、その結果として心の破壊が進行していく。うつ病や不安障害といった状態も、孤独・孤立が元凶になることも知られている。心のバランスが崩れ、心を蝕み、心の破壊が進行する。

孤独に耐えうるレベルは人によって違う。一週間でも孤独な状態になれば精神的におかしくなる人もいるが、1年も孤独でも何とも思わない人もいる。孤独に耐えられるレベルは個人によってまったく違う。

しかし、求めている人とのつながりが得られない状態が長く続くことで心の健康に悪影響を与え、心の破壊が進行するのは間違いない。

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経済苦もまた孤独を加速させていく元凶である

日本社会で、この孤独・孤立が伝染病のようにじわじわと広がっているというのは、間違いなく悪い兆候である。

政府は何とかしようとして「孤独・孤立対策担当室」を作ったが、政府の対応よりも孤独を加速させる社会現象のほうが強いので、孤独・孤立はますます広く深くなってしまう可能性が高い。

若者はSNSやオンラインコミュニケーションが中心となり、対面を避けるようになっているし、職場もテレワークの普及によって、コミュニケーションの機会が減っている。また弱肉強食の資本主義が加速して競争社会が激化すると、他者とのつながりを深める余裕がなくなっていく。

そして、高齢者も家族や友人との関係が希薄化していくばかりで、都会では共同体も崩壊しているので孤独な高齢者は孤独なまま放置されて、ただテレビを一日中見つめて孤独死してしまう。

折しも日本は経済的にも衰退していこうとしている国なのだが、実は経済苦もまた孤独を加速させていく元凶であるのは知られていない。

失業、収入減少、経済的困難といった問題を抱える人は、積極的に人と関わろうとは思わない。むしろ、小さく縮こまり、人を避けようとする。経済苦で将来に対する不安やストレスが強いのだから、他者との交流を避け、孤立する選択をするのは自然なことでもある。

孤独や孤立は単なる個人の問題ではなく、社会全体が抱える重要な課題なのだが、日本ではまだ孤独のリスクは意識されていないので、どこまでも孤独・孤立が広がっていくのではないか。私は日本の未来にまったく楽観視していない。

病み、闇。
病み、闇。: ゾンビになる若者、ジョーカーになる若者(鈴木傾城)

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