私はこれからも他人の嘘や相手の本当の性格を見抜くことはできないだろう

私はこれからも他人の嘘や相手の本当の性格を見抜くことはできないだろう

騙される前提で物事を組み立てるというのは、ある意味「人を見る目がない」という非力を認めるようなものだ。「これだけ人生経験をして人を見抜けないのか」と言われれば、まったくその通りなので情けない部分はある。しかし、現実に人が見抜けないのであれば、これは仕方がない対処だ。私はこれからも他人の嘘や相手の本当の性格を見抜くことはできないだろう。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

巧妙に仕組まれた詐欺、よく練られた嘘

振り込め詐欺が猛威を振るっている。2018年のデータでは、認知件数は1万6496件、被害総額は29億3020万円。検挙件数は5159件。検挙人数は2686件。

他にも融資保証金詐欺、還付金等詐欺、ギャンブル必勝法情報提供詐欺、異性交際斡旋詐欺……とあらゆる詐欺が吹き荒れている。

2019年5月14日には、タイ・パタヤで15人の日本人が振り込め詐欺に関与していたとして一斉逮捕されているのだが、この15人は分かっているだけで800人を騙し、8900万円を騙し取っていた。

このような振り込め詐欺の事件が起きると、必ず「こんな手口で騙されるのはどうなのか? 騙される人はよほど間抜けなのではないか?」と言う声が出てくる。これは「自分は騙されない」という自信がある人たちの声である。

その自信は根拠があるものだろうか?

私たちは誰でも「仕掛けられた詐欺など簡単に見抜ける」と思っている。しかし、振り込め詐欺だけでも1万6496件の被害届があって総額30億円の被害が出ていることを見ると、現実はそう簡単に詐欺を見抜けるような状況ではないというのが分かる。

巧妙に仕組まれた詐欺、よく練られた嘘、マニュアルとシナリオに裏打ちされたワナは、なかなか見抜けないのが本当のところではないか?

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専門家でも他人を見抜けない理由

通常、マフィアは容易に他人を信用することはなく、側近は家族で固め、仲間には鉄の掟を守らせ、親しげにやってくる他人を排して秘密主義を貫く。

彼らは巨大な犯罪グループで常に警察の監視下にある。そのため、警察に尻尾をつかまれるのを極度に恐れ、信用できない人間に危ない仕事を任せることは決してない。

チンピラに扮した刑事が自分たちの組織に潜り込んでくるのを知っており、そうした潜入捜査官がいたら、たちどころに「処分」する。マフィアはそれほど他人を信用しない組織である。

しかし、ジョゼフ・ピストーネという実在のFBIの潜入捜査官は、ニューヨークのマフィアの内部深くに潜入し、6年間も潜入し続けてきた。最も他人を信用しない犯罪組織の中でジョゼフ・ピストーネは尻尾を出さなかった。

ジョゼフ・ピストーネの存在は、いかなる猜疑心の強い人間であっても、やはり仕組まれると、他人を見抜けないということを実証している。

私自身は、どんなに訓練を受けた人であっても、他人の嘘を一から十まで見抜ける人はいないと感じている。これは、ファミリー以外の誰も信じないマフィアのみならず、逆に犯罪捜査官でも、心理学者でも、教師でも同様だ。

私たちはこういった人の心理を読む専門家は、普通の人よりも嘘を見抜く力があると勘違いするのだが、実は普通の人と大して変わらないという研究データもある。巧妙に仕組まれた詐欺、他人の嘘は見抜けないのである。

「いや、経験を積めば、それだけ他人の嘘が分かるはずだ」
「こういった人たちは直感が鋭いはずだ」

私たちはそのように思うのだが、どんな職業の人でも、どんな慎重な性格の人でも、仕組まれた詐欺や嘘を見抜く力は向上しない。

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相手の確証バイアスに乗っかる

仕組まれたワナが見抜けないのは、「確証バイアス」が働いてしまうからだ。「確証バイアス」とは、ひとことで言うと「先入観での思い込み」である。

人は誰でも、人を過去の経験で判断する。過去に出会った人と目の前の人に、何らかの特徴があった場合、その特徴によって「あの人はこうだったから、この人もこうに違いない」という無意識の先入観が働いてしまう。

その先入観は、目の前の人を分析して出てきた結論ではない。過去の経験から推論されたものだ。この先入観が人を見る目を歪ませてしまう。これが「確証バイアス」の正体だ。

たくさんの人と出会った人であればあるほど、この「確証バイアス」が無意識に働く。その結果、嘘を見抜くことができなくなってしまうのだ。たとえば、日本では以下のような思い込みがとても強い。

「きちんとした身なりの人は、真面目な人だ」
「肩書きの偉い人は、人格の正しい人だ」
「自分を褒めてくれる人は、理解してくれる人だ」

だから、詐欺師は大きな嘘を信じ込ませるために「きちんとした身なりと話し方」をするし、「肩書き」を偽って自分を社会的に大きく見せることを徹底して、相手の確証バイアスに乗っかる。

だらしない格好の善人よりも、きちんとした格好の悪人の方が好ましいと感じるのは、人間の心理として仕方がない面もある。だから、他人の嘘が見抜けない。

高齢者がいつも詐欺のターゲットになって騙されるのは、やはり確証バイアスがあまりにも強く働いてしまうからだと言われている。身なりや態度で、完全に相手を信用してしまうのだ。

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人の嘘を見抜くことはできない

では、経験がない人間の方が人の嘘を見抜く目があるのかと言えば、そうでもない。人生経験がない部分で、不審な部分が読めずに簡単に騙される。人生経験がないと他人の嘘が見抜けないし、人生経験がありすぎると確証バイアスがかかって他人の嘘が見抜けなくなる。

それならば、「バイアスをかけずに人を見る練習をすればいい」という話になる。しかし、それも実際には難しい。なぜなら、こういった確証バイアスは無意識に働くものだからである。

そう考えると、人間はどちらの転んだとしても、他人の嘘を見抜くことはできないというのが正解であると考えた方が事実に即していると言えるかもしれない。

日本でも海外でもそうだが、夜の世界をうろうろしていると、好感度が高いが本当に信用していいのか分からない人間が山ほど寄ってくる。あからさまに怪しい人はさすがに排除するが、怪しくない人が一番怪しいので完全に排除するのは難しい。

夜に出会う異性にしても、その人が自分の理解者なのか、それとも裏のある人間なのか相手の本質まで見抜けない。意気投合しても、相手は自分を騙すために合わせてくれているのかもしれない。

相手は私からカネをふんだくろうとしている犯罪者なのか、それとも素朴で素直な人なのか、蓋を開けてみないと分からないのである。だからこそ、私は自分が「他人を見抜ける」という根拠のない自信を絶対に持たないようにしている。

最初から「他人を見抜く目はないし、絶対に騙される」という前提で生きている。常に「致命傷を負わない準備をしてから、その人を信じる」というスタンスだ。

騙されないように努力するのではなく、誰かに騙される前提で、仕組まれた詐欺やワナに巻き込まれても、「何もかも盗まれて終わり」にはならないようにする。これは、「人の嘘を見抜くことはできない」という限界を見越した行動だ。

相手を見抜くことよりも、ワナに落ちても致命傷にならない方向で準備しておけば、ワナをくぐり抜けて生還することはできる。相手が犯罪者であっても、詐欺師であっても、それなりに対処ができる。

騙される前提で物事を組み立てるというのは、ある意味「人を見る目がない」という非力を認めるようなものだ。「これだけ人生経験をして人を見抜けないのか」と言われれば、まったくその通りなので情けない部分はある。

しかし、現実に人が見抜けないのであれば、これは仕方がない対処だ。私はこれからも他人の嘘や相手の本当の性格を見抜くことはできないだろう。だから、裏切られても致命傷にならない準備をして、出会った人を思い切り信じたいと思っている。

『誰もが嘘をついている〜ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』グーグルの元データサイエンティストが分析した人間の本性。データを見ると、人間の本性が剥き出しになって見えてくる。結局、人間は「取り繕う」動物だったのだ。

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