VUCA(ブーカ)。焦燥感や不安感ばかりが募り、怒りの感情を悪化させていくもの

VUCA(ブーカ)。焦燥感や不安感ばかりが募り、怒りの感情を悪化させていくもの

「VUCA」が指し示す四つの要素「変動性・不確実性・複雑性・曖昧性」は、もはや捉えどころのない人生の巨大な障害なのである。どうしていいのか分からない。何をしていいのかも分からない。だから、焦燥感や不安感ばかりが募り、怒りの感情を悪化させていく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

荒れ狂う「VUCA」という大波にただただ翻弄される

1990年代からアメリカ軍によって使われるようになり、それがコロナ禍の中で今の時代を指し示す「大きな要素」であるとして注目された言葉がある。

Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)

この4つの言葉の頭文字を合わせたのが「VUCA(ブーカ)」である。今、ビジネス用語として広く使われるようになった「VUCA」という言葉を見つめながら、私はビジネスとはまったく無縁のところで生きている若者のことを考えていた。

特に歌舞伎町のシネシティ広場でオーバードーズしたり、不意に自殺してしまったり、社会に対して敵意を向けながら事件を起こしている若者たちのことだ。彼らの人生は、まさに「VUCA」だったので、彼らの顔を思い出さずにはいられなかったのである。

彼らの人生はどっちに転ぶか分からないような「変動性」がある。彼らの人生は「不確実性」に満ちている。彼らを取り巻く環境は「複雑性」だ。そして、何が正しいのか間違っているのか分からず漠とした「曖昧性」に覆われている。

いつか歌舞伎町で「今度はいつ来るの?」と聞いた時に「分かんない。明日死んでるかもしんないし」と答えた若者もそうなのだが、彼らはすべてに対して「どうなるのか分からない」のだ。

それこそ、VUCA(ブーカ)の中で生きていると言ってもいい。彼らは、荒れ狂う「VUCA」という大波にただただ翻弄され、沈んで、二度と浮かび上がることのない結末を辿ろうとしているかのようだ。

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絶望感が長く続いた後に、別の感情が生まれる

先が見えない、将来が見えない状況は、多くの人々に不安や焦り、絶望などのネガティブな感情をもたらす。

なぜなら、人は自分の人生に何が起こるかわからないと、自分の未来をコントロールできないと感じ、不安や恐怖を抱くからである。また、将来がどうなるか分からないと、生きる目的や目標を見失い、絶望感に陥ってしまうこともある。

そして、こうした絶望感が長く続いていった時、今度は別の感情が生まれてくるようになる。

それが「怒り」である。

自分を苦しめている社会に対する怒りもあれば、この社会でうまくやっていくことができない自分に対する怒りもある。自分を必要としていない社会に対する怒りもあれば、うまくやっている人間たちに対する嫉妬の入り混じった怒りもある。

大半の人は、こうした危険な感情をうまく処理することができるのは間違いない。感情を抑えるための理性や知性やノウハウがきちんと機能して、自分をコントロールして、最大限にダメージを抑えて人生を生きる。

しかし、誰もがそんな器用なことができるわけではない。誰もが感情のコントロールに成功するわけではない。社会に踏みつけにされ、叩きのめされ、ひどい目に遭わされ続けているうちに、「怒り」を抑えられなくなる人もいる。

「VUCA」が指し示す四つの要素「変動性・不確実性・複雑性・曖昧性」は、もはや捉えどころのない人生の巨大な障害なのである。どうしていいのか分からない。何をしていいのかも分からない。だから、焦燥感や不安感ばかりが募り、怒りの感情を悪化させていく。

「VUCA」で人生がどんどん悪化していき、どうしてもうまく生きられないのが決定づけられているような人生であることに怒りを感じ、それが積み重なっていくに従って、ある時その怒りのマグマは臨界点を超える。そして、それは爆発する。

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今の日本は「VUCA」のベクトルはどちらなのか?

社会が混乱している時と安定している時では、混乱している時の方が事件が多くて治安が悪い。秩序も乱れている。それは誰でも直感的に理解できる現象である。社会が混乱している時というのは、「VUCA」が極限まで高まっている時である。

先進国と途上国では、明らかに途上国の方が事件が多くて治安が悪い。秩序も乱れている。やはり途上国の方が「VUCA」が高いからである。

人は安定していると精神的にも余裕ができて、混乱していると精神的にも不安定になる。変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まれば高まるほど、すなわち「VUCA」が高まれば高まるほど人の感情も悪化していく。

それでは、今の日本は「VUCA」のベクトルは高まる方向にあるのか、それとも低くなっていく方向にあるのか、どちらなのだろうか。

社会問題が山積みになっている日本では「VUCA」のベクトルは高まる方向にあるのは明白だろう。要するに、日本という国は将来が見えない国に転がり落ちている最中なのである。

何をどうしたらいいのか分からない曖昧模糊としたものを覆い尽くしていき、うまく乗り切って成功した人と、うまく乗り切れなかった人が極度に分離して、負け犬と言われて見捨てられる人々が大量に増えていく社会になる。

だからこそ、これからの日本には彼らの怒りが充満して、それがさまざまな事件を誘発していくようになっていく。

すでに日本では元首相であった安倍晋三が狙撃されて殺されるというような、重大な事件すら起こっている。大事には至らなかったが、岸田文雄首相にも爆弾が投げつけられている。

政治家を狙ったテロが起こるというのは、終戦後からこれまでの日本では考えられなかった。しかし、今の日本でそういう事件も起こるようになっているというのは、それだけ社会が混沌化してきていることを示す兆候でもあると言える。

日本は「VUCA」に飲み込まれていくのだろうか?

亡国トラップ─多文化共生─
『亡国トラップ─多文化共生─ 隠れ移民政策が引き起こす地獄の未来(鈴木 傾城)』

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