新型コロナウイルスは、人々の意識を変化させる巨大なパラダイムシフトになる?

新型コロナウイルスは、人々の意識を変化させる巨大なパラダイムシフトになる?

新型コロナウイルスの問題が長引けば長引くほど、人々はグローバル化に対しての「警戒心」や「不安感」を強めていくようになる。そして、いろいろなところで無意識にグローバル化に対するブレーキが生まれるのではないか。人々に植え付けられた意識の変化は新しい時代の転換を生み出すかもしれない。そういう目で私は社会の変化を観察している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

誰でもグローバル化よりも自分の命の方が大切

それぞれの国が中国・韓国・イタリア・イランからの渡航者を入国禁止するようになっている。日本人もあちこちの国に入国禁止されるようになっている。日本も中国・韓国・イランからの渡航者を事実上の入国禁止措置を出した。

「ヒト・モノ・カネ」の自由化を保証していたEU(欧州連合)各国も、イタリアからの流入を警戒し、国境を閉鎖したり、入国禁止措置を出したりしている。

これまで「何があってもヒト・モノ・カネの自由化を阻むな」と強硬に主張していたグローバリストですらも「閉鎖」に賛成している。

興味深いことに中国の武漢から広がった新型コロナウイルスがもたらしているのは、グローバル社会の分断である。

グローバル化を推し進めていた多国籍企業から各国の企業のエスタブリッシュメントたちも、もはやグローバル化を一時的に中断させるしかなくなってしまっている。

グローバル化を無防備に進めていたら新型コロナウイルスが大量に入り込んで自国がウイルスで大混乱してしまうのだから致し方がない。

この「分断」は全世界の津々浦々に新型コロナウイルスが行き渡るか、あるいは特効薬としてのワクチンが開発されるまで続く。それまで、世界が分断されることに異を反する人はほとんどいないだろう。

世界の分断によって世界経済は凄まじく停滞する。全世界の株式市場は一足先に大暴落に見舞われているのだが、実体経済の悪化はその後にやって来るので、それこそ世界大恐慌のような状況になってもおかしくない状況になっている。

それでも、「分断するな」「誰でも受け入れよ」「グローバル化を守れ」という人はほとんどいないだろう。誰でもグローバル化よりも自分の命の方が大切だからだ。

しかし、忘れてはならないことがある。グローバル化は新型コロナウイルスが「分断」するよりも先に人々はすでに疑問を持っていたことを……。

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投機屋が大儲け、国民はリストラの嵐だった事実

グローバル経済は正しいものなのか。人々がグローバル経済に不満を持つようになったのは、10年前の2008年9月15日のリーマンショックからだったことは記憶されてもいい。

金融市場が吹き飛び、世界中の政府が瓦解していく銀行を「国民の税金」を使って救い出すようになってから、世界中の人々はグローバル経済に疑問を持つようになっていった。

金融関係者は、高額のボーナスや年俸をもらってギャンブルをしていた。そして、成功したら儲けは自分たちの懐にねじ込んで、失敗したら政府に尻ぬぐいさせた。

グローバル化を推進し続ける政府は、その強欲な資本主義のギャンブラーどもを助けて、国民には痛みを強いただけだった。

その後、政府の金融緩和で金融市場はいち早く復活し、またもや投機屋が大儲けするようになった。しかし雇用は大して回復せず、多くの国民はリストラの嵐に巻き込まれていった。

そして、多国籍化した企業はそれぞれの国の法の抜け道を研究して税金すらも合法的に回避するようになり、一方の国民はグローバル化から収奪されるばかりとなったのだ。

その結果、ヨーロッパでは徐々に保守政党が台頭して公然と「反EU、反グローバル化」を叫び出し、アメリカでは反格差デモが起きるような事態になっていった。

それぞれの国で起きている国民の意識変化は、実はすべてひとつのキーワードで結びついている。それが、「グローバル経済への疑問」だ。

グローバル化は、本当に正しいのかと、人々はリーマンショック以降、自問自答するようになった。そして、多くの人が「グローバル化は国民を幸せにしない」と気付いたのだ。

ところが、エスタブリッシュメントはこうした変化を歯牙にもかけずにグローバル化を推し進め、反対する人々を「極右」だとレッテルを貼って排除しようとしていた。

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常にグローバル化を推進する政府に対する不信感

グローバル化は新型コロナウイルスが世界を分断する前からすでに「分断寸前」になっていた。つまり、人々の間で「内部分裂」が起きていた。政府は常にグローバル化を推進する。国民は常に痛みを強いられるので反発する。

ユーロ各国で起きている反移民・反難民のうねりは何を意味していたのか。それは、多国籍企業が推し進めるグローバル化推進の反対である。

多国籍企業が利益を上げるために安い人材を必要とし、それを移民や難民を入れることによって解決する動きに人々は懸念していたのである。

いち早くグローバル化を推し進めたアメリカにも問題が起きていた。グローバル経済が推し進められた結果、アメリカでは貧富の差が非常に激しいものになっていった。

上位1%が富を独占し、99%を貧困に追いやるような、極端な格差がじわじわと進んで解消できなくなった。

アメリカ人たちは統計など出されなくても、リーマンショック以降、何が起きているのか知っていた。深刻な格差が広がっていたのだ。

だから、グローバル経済を推し進める政府に対して、アメリカの国民は反対するようになって2016年にはドナルド・トランプという異質の大統領を生み出したのだ。世界各国で次々と起きていた事件は、バラバラの事象ではない。グローバル経済への抵抗に集約されている。

グローバル化を推し進めるエスタブリッシュメントと、国民の間の「内部分裂」が起きていたのだ。

そして2020年、突如として新型コロナウイルスが登場した。

このウイルスはたった2ヶ月あまりで全世界を完膚なまでに「分断」した。グローバル化は、たった2ヶ月あまりで分断されるほど脆弱なものであったことを人々は知った瞬間だった。

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人々に植え付けられた意識の変化が社会を転換させるか?

ただし、新型コロナウイルスはワクチンが開発された瞬間に急速に解決する。その瞬間にグローバル化は巻き戻す。あるいは全世界が封じ込めに失敗し、全世界に完全に行き渡った時点でグローバル化は巻き戻す。

それがいつになるのか分からないのだが、新型コロナウイルスの問題が長引けば長引くほど、人々はグローバル化に対しての「警戒心」や「不安感」を強めていくようになる。

そして、いろいろなところで無意識にグローバル化に対するブレーキが生まれるのではないか。

「なるほど、グローバル化したら病原菌も自国に入ってくる」と人々は考えるようになる。そうであれば、無防備にグローバル化しない方がいいのではないか、という気持ちになる人も増えるだろう。

場合によっては、差別や嫌悪ではなく恐怖や不安で特定の民族を避けたいという気持ちになる人々も出てくるだろう。

あるいは「グローバル化はこのような事態になると途端に回らなくなる。それならば、グローバル化もほどほどにした方がいいのではないか」とリスクを意識する経営者も増えるだろう。

さらには「グローバル化によってインバウンドを目指しても、また新型コロナウイルスのような問題が起きたらそのたびに経済が大ダメージを受ける」と各国政府も考えるかもしれない。そうなると、インバウンドに偏重するのは危険なのではないかと内省する国も出てくるだろう。

そのため、新型コロナウイルスは、人々の意識を変化させる巨大なパラダイムシフトになる可能性もある。無防備に進められていたグローバル化への不安感がグローバル化にブレーキをかけるのだ。

新型コロナウイルスの問題はいずれは解決する。しかし、人々に植え付けられた意識の変化は新しい時代の転換を生み出すかもしれない。そういう目で私は社会の変化を観察している。

『「国家」の逆襲 グローバリズム終焉に向かう世界(藤井 厳喜)』

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