プーチン大統領の任期は2024年まで続く。盤石に見えるプーチン大統領だが、それはプーチン大統領が外側に向けて見せている「イメージ戦略」であって、内情はそれほど盤石なわけではない。ロシアは2人に1人が「貧困層」であり、この層がプーチン政権に不満を持ち始めているのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
約2000万人、人口の14%近くが貧困層のロシア
ロシアの最大の社会問題は何か。ロシアもまた「貧困と格差」である。
社会主義が破綻してソビエト連邦が崩壊したのが1991年だったが、この社会主義の破綻と混乱はロシアの通貨であるルーブルを一気に紙くずにしてしまい、以後ロシア人は人口の半分が極貧に落ちるような貧困状態へと突入した。
1991年から1999年までのボリス・エリツィン時代のロシアは毎年毎年GDPが減少していて、1998年には10年前の半分にまで経済が縮小するという大惨事になっていた。
国内はハイパーインフレが吹き荒れ、この時代にロシアの女性たちが世界中で人身売買されて売春地帯に放り込まれていた。(ブラックアジア:マイクズ・プレイス。緑の虹彩を持った女性とロシアの崩壊)
1999年からウラジーミル・プーチンが登場し、エネルギー資源の価格上昇に乗ってロシア経済を軌道に乗せることに成功した。しかし、2014年からエネルギー資源が暴落したり、ウクライナ危機で経済制裁されるに従って、ロシアの経済情勢は再び悪化するようになった。
現在、ロシアの貧困層はどれくらいいるのか。2019年の報道では約2000万人が貧困層であると指摘されている。ロシアの人口は約1億4450万人なので、人口の14%近くが貧困層であることが分かる。
ボリス・エリツィン大統領が退陣した頃のロシアは約4000万人が貧困状態であったことを考えると貧困層は半減したことになるのだが、それでも人口の14%近くが貧困層であるというのは重い現実である。
プーチン大統領は2019年に貧困対策を加速させて5年で貧困層を半減させる大統領令を出している。
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「貧困層を半減させる大統領令」を出さざるを得なかった理由
ロシアに「史上最悪の合成ドラッグ」と呼ばれたクロコダイルが爆発的に広がるようになったのは2003年頃からである。
クロコダイルは人間の皮膚を壊死させて依存してから2年で身体中の皮膚が死に絶えてゾンビか骸骨のようになって死んでいく破滅的なドラッグだ。(ブラックアジア:クロコダイル。咳止め薬にガソリンやペンキを混ぜて血管に打つ依存者たち)
このような破滅的なドラッグが生まれた背景にはソ連が崩壊して10年にも及ぶ政治的混乱・経済的混乱でロシア全土に絶望感や厭世感が蔓延していたことと無縁ではない。
働いても生活を成り立たすことができない。貧困から抜け出すことができない。国も個人も未来が見えず、今後も苦しい生活が延々と続く。
人間をリアル・ゾンビにしてしまう狂気の合成ドラッグ・クロコダイルは、「もう生きていたところで仕方がない。即物的な快楽に溺れてさっさと死んだ方がマシだ」というそうした絶望感の中でロシアに蔓延していったのだった。
その後、プーチン大統領はエネルギー資源を軸にして経済成長を成し遂げたのだが、それでもロシアの最低賃金は月約2万円程度であり、ワーキングプア層が常に貧困層に転がり落ちる構図になっている。医師の時給ですら273円であると報告されている。
このワーキングプア層は人口にして約1210万人である。しかし、この約1210万人という数字はロシア統計局の「粉飾」した数字であり、ロシア経済の専門家は実際にはその6倍のワーキングプア層が存在すると言っている。
約1210万人の6倍と言えば7260万人になる。ロシアの人口から見ると、それこそ50%がワーキングプア層であるということだ。
それが実態なのであれば、なぜプーチン大統領が「貧困層を半減させる大統領令」を出さざるを得なかったのかが見えてくる。ロシアは2人に1人が「貧困層」であり、この層がプーチン政権に不満を持ち始めている。
1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから
失業率が4%台で落ち着いているロシア経済の裏側
米中新冷戦は、自由貿易に打撃を与えており、標的にされた中国も国内で不況が広がっているのだが、そうした中国経済の不調は世界経済を鈍化させることにつながる。
そのため、ロシアのエネルギー資源に依存した経済も、今の状況が続いている限りそれほど期待できる伸びにはならない。プーチン大統領はエネルギー資源の依存を減らして他の産業を伸ばすことを画策しているのだが、それもうまくいっていない。
ところで、ロシアの失業率は4%台に抑えられている。ワーキングプア層は低賃金で苦境に喘いでいるとは言っても、何とか仕事にありつけているというのが失業率4%という数字で見えてくる。
ところが、この4%台という数字にも政府による「ごまかし」が混じっていると指摘されている。失業率を下げるために、ロシア政府は失業者を公務員として大量に雇っている。その大半は職能が低い低賃金の公務員である。
日本では大学生の49.6%が「公務員になりたい」と回答するような国だ。今のところ、公務員はクビにならない上に給料も高いという現状があるからだ。(マネーボイス:大学生の49.6%が「公務員になりたい」と回答、日本はあと数年で救いようのない国になる=鈴木傾城 )
しかし、ロシアでは公務員になるというのは貧困層になるということなのである。しかも政府の財政が逼迫したら公務員の給料はますます減る上に、下手したらクビになってしまう。
エネルギー資源が大暴落してロシア経済を危機に陥れた2015年には、プーチン大統領はロシア内務省の職員約11万人を大量解雇する事態に陥った。さらにこの年はほとんどの政府省庁の予算が10%削られて、ますます公務員の貧困化が進んだ。
失業率が低いのは、失業者を公務員にすることで失業者を減らすというロシア政府の思惑があった。しかし、ロシア政府の財政は常に逼迫した状態なので、公務員の賃金は生活できないほど低い。その結果、ロシアでは公務員の汚職も蔓延している。
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実際には「反プーチン」の動きは常々湧き上がっている
外部からはロシア国内の状況はほとんど見えないので、表側から見るとウラジーミル・プーチン大統領は国民の大多数に支持されているように見える。
しかし、実際には「反プーチン」の動きは常々湧き上がっており、かなり大規模な抗議デモがしばしば起きる。
2019年も反プーチン派がモスクワ市議会選に立候補しようとして却下されたことに怒った国民が抗議デモを起こして2000人近くが逮捕されるという事件が起きていた。この抗議デモは何度も何度も行われ、そのたびに100人規模で逮捕者が出ている。
こうしたデモを扇動したり、逮捕の状況を映した映像を流すユーチューブにもロシア政府は圧力をかけて削除させたりしている。
プーチン大統領もまた言論の自由などまったく認めておらず、インターネット規制はどんどん強化されて「反プーチン」の言論を取り締まって、違反した者には罰金をかけたり拘束したりする。
言論統制と言えば、プーチン政権下ではプーチン大統領を批判したジャーナリストは次々と不審死しているのが実情である。
2006年10月に撃ち殺された女性ジャーナリストであるアンナ・ポリトコフスカヤはよく知られている。(ブラックアジア:毒殺の季節。プーチン大統領も政敵を毒殺で葬ろうとする)
しかし、殺されているのは彼女だけではないことに留意する必要がある。プーチン大統領は「反プーチン」の動きを徹底的に弾圧し、時には暗殺さえも辞さない「独裁者」なのである。
プーチン大統領の任期は2024年まで続く。盤石に見えるプーチン大統領だが、それはプーチン大統領が外側に向けて見せている「イメージ戦略」であって、内情はそれほど盤石なわけではない。
ロシアは2人に1人が「貧困層」であり、この層がプーチン政権に不満を持ち始めているのだ。ロシア人は強い指導者が好きだが、いつまでも貧困問題を解決できない指導者を支持する人間はいない。そのせめぎ合いが今のロシアで起きている現状である。
今年、仕事でロシアの地方都市に2週間ほど滞在しました。レストランも、スーパーも物価は日本の半分という感じでした。特に、アルコールが安く、ビールもワインも安く、ウオッカのコップサイズなど、こんなに安くていいのという感じでした。ただ、ワインをちょっと飲みすぎたら、夜中に気持ち悪くなり、吐いてしまいました。数十年前の日本の2級酒にやられた時と同じ感じです。添加物が多いか、体に悪いもの使っているか、どちらかか?両方でしょう。鈴木さんがレポート出来るようなこともありましたが、ここで述べるのは、遠慮しときます。
実際のところ減ったもののソ連以来の社会福祉は残っており、それほど暮らし向きが悪いのか?と言うと住んでみて親族もいる僕からすると傾城さんの記事は疑問が残ります。西側で大々的に報道される反プーチンでも見物に行くと数十人ぐらいが気勢を上げているだけで誇張されています。
プーチンは2024年まで続くのですか。でもプーチン以外にあの国を治められる人はいるんでしょうかね?プーチンがいなくなったらロシアはまた大混乱になってしまうような気がす。第三次世界大戦とか近いんじゃないかと。
アメリカに対抗して軍備を増強し新型ミサイルや新型戦闘機を開発する金があれば、その半分を国民生活の向上に回せばいいと思うのです。GDPで言えば韓国並、日本のGDPの3分の1のロシアが、軍備でアメリカに対抗するのは狂気の限りです。
NATOがロシアを攻める訳も無く、アメリカも同様ですから軍縮を推進すべきですが、独裁者は一体何を恐れているのでしょうか?
豊かな観光資源があるのですから、日本に対してビザを不要にすれば観光収入が増えるのにウラジオストックを除いては面倒なビザを要求されますから行く気になれません。
国力があるうちにグローバル企業の株式やインデックスファンドを政府が買い込んでおけば
国家の経済力が落ちても配当金を福祉に回しカバーできましたが
そういう知恵のある者はいくら利益を出しても
報酬があがらない社会主義的な政府関連の仕事には興味ないのでしょう。
ロシアのGDPは韓国並の上、韓国に比べて人口が3倍多いので一人当たりの所得が少ないのは分かります。
更に国民を豊かにしない軍備に大金を使って(GDPは上がるけど)、ミサイルやら戦闘機でアメリカと張り合う愚行をしているのは正気の沙汰ではありません。
国庫に金が無いので年金給付開始を男性65歳に引き上げたのですが、ロシア人男性の平均寿命が66.5歳ですから年金をもらえる前に4割前後の方が亡くなってしまうと言うのはブラックジョークです。
運良く貰えても平均で1.5年しか貰えないのでは生きる張り合いも無くなると言うものです。