北朝鮮の金正恩が、異母兄である金正男をマレーシアで女性工作員を使って暗殺した事件が大きくクローズアップされている。衆人環視の中、空港で暗殺事件が発生するのだから、まるで映画のような事件だ。
しかし、2017年2月2日に起きたウラジーミル・カラムルザ氏の事件はほとんど報じられていない。
カラムルザ氏はプーチン大統領を批判する政治団体「開かれたロシア」の幹部だったのだが、この日、突如として体調を崩して倒れ、モスクワの病院に救急搬送されていた。
3日後、採取された検体をフランスの専門家が分析した結果、水銀を含む重金属が検出され、何者かに毒殺を謀られたことが明らかになっている。
助かる可能性は高いと言われているが、今も病院で絶対安静の状態が続いている。
この反プーチン派の政治団体「開かれたロシア」は、元石油王ミハイル・ホドルコフスキーが創設した団体なのだが、この男は10年近くプーチンにロシアの刑務所に放り込まれていた男だった。
復讐に燃えているが、プーチン大統領の方が組織的にも能力的にも一枚上手だ。
ロシア人は暴君であっても強大な指導者を好む
ミハイル・ホドルコフスキーは、2013年に政治取引でプーチンから恩赦をもらってロシアから放逐されているのだが、暗殺を恐れてイギリスやフランスを行き来しながら反プーチンの活動をしている。
今回、ミハイル・ホドルコフスキーではなく、カラムルザ氏が狙われたのは、間違いなくプーチンによる「恫喝」であるのは間違いない。
ロシアのウラジーミル・プーチンは2000年に大統領になってから首相時代から現在の大統領復帰まで含めると足がけ17年にも渡ってロシアを率いる世界最強の実力者だ。
この実力者の強大な権力に逆らうのは、凄まじく危険であるというのは、今までロシアで起きた数々の事件を見れば分かる。
プーチンは政敵には決して容赦しない。そして、そのような姿勢を、実はロシア国民が支持している。ピョートル大帝の時代からロシア人は暴君であっても強大な指導者を好む傾向がある。
エリツィン時代にどん底に落ちたロシアは、プーチン大統領の時代になってから復活した。
石油価格の上昇と共にロシアは経済的にも立ち直るようになった。ロシアが石油価格の上昇と国家の再建をうまく結びつけられたのは、間違いなく政治的豪腕を持っていたウラジーミル・プーチンのお陰だ。
ロシア政府の動向は、プーチンが1997年に出した論文「市場経済移行期における地域資源の戦略的計画」が元になっているのに気がつく。
その中でプーチンは何を言っているのか。
それは、ロシアに眠る莫大な地下資源(石油・天然ガス)をすべて国家が管理して、それを武器に対外交渉をすればロシアは発展できるという趣旨である。
2000年からプーチン大統領が方向性にしたのは、まさにその「地域資源の戦略的計画」であり、今でもその論文の骨子がロシアの発展のすべてである。
「光あるところに影がある」のがプーチンの政治
石油・天然ガス・鉱物資源。エネルギーや資源は現代文明に欠かすことができないものであり、ロシアはこうした資源を豊富に持つ。
この資源を武器にして政策を押し進めて結果を出しているのがウラジーミル・プーチンである。ロシアに必要なのは欧米とのバランスであり、そのためには政治的・経済的な戦略行使が必要だ。
欧米の政治は長期戦略(日本では陰謀と言われる)が裏側にあって、自分たちのシナリオに持ち込むために様々な手を打っている。伝統的にそういう動きをするのは当たり前だと考えている。
ウラジーミル・プーチン大統領は欧米の政治家たちの真意を見抜きながら、かつロシアが有利になるように対抗することができる唯一の政治家だ。
それはロシアの情報機関であるKGB出身であることが下地になっており、「情報を見抜く力」があることを意味している。
ウラジーミル・プーチンがそれをうまくやっているのであれば、それを変える必要はないというのがロシア国民の総意だろう。
ただ「光あるところに影がある」のも世の中の常であり、プーチンのまわりには常に暗くよどんだものが漂っている。
陰謀・工作・暴力・恐喝・暗殺……。
かつてKGBがロシア国民を監視し、欧米を振り回してきた手法をプーチンは今でも政治に応用している。
政敵を追い落とすために女性スキャンダルを利用するようなこともしているし、屈強な身体を持った男たちを派遣して政敵を恫喝するようなこともやっている。
そして、プーチンの政治の特徴は、ジャーナリストが片っ端から不審死することである。反プーチンのジャーナリストはとりわけ不審死の危険にさらされている。
分かっているだけでも7年間で120人以上のジャーナリストが死んだり行方不明になっている。
反プーチン派記者、アンナ・ポリトコフスカヤ
よく知られているのはアンナ・ポリトコフスカヤという女性ジャーナリストだ。
彼女はプーチン政権を公然と批判し、チェチェン紛争でもプーチン政権が、チェチェン人を拉致・監禁・拷問している事実を発表したりしていた。劇場占拠事件についてもプーチン政権のやらせだとも言っていた。
証言を集め、証拠を突きつけてプーチン大統領の暗部を暴き出す手法は国内外で注目を浴びた。その結果どうなったのか。
2006年10月に射殺された。
プーチンがやったという声が上がったが、プーチン政権はチェチェン人ふたりを逮捕した。その後にFSB関係者4人が逮捕されているが、2009年6月26日、被告4人は証拠不十分で無罪判決となった。
このアンナ・ポリトコフスカヤが称賛していたのが、他の誰でもないオリガルヒ(新興財閥)のミハイル・ホドルコフスキーだったのだ。
このユダヤ系ビジネスマンこそが、実は反プーチン派の急先鋒だった。
「市場経済移行期における地域資源の戦略的計画」で、プーチンは資源を国家管理に置くべきだという論文を書いてそれに沿ってロシアを動かしているのを、もう一度思い出して欲しい。
ミハイル・ホドルコフスキーはロシア最大の石油会社ユコスを手中にしていた男だった。
しかもその男は自分の政敵でもある。プーチンにしてみれば必然的に叩き潰すべき相手だった。
ミハイル・ホドルコフスキーはユコスとシブネフチを合併してそれをアメリカ最大の石油会社エクソンモービルに売り飛ばそうとしていた。
逆に言えば、エクソンモービルがヘンリー・キッシンジャーなどの重鎮を使ってミハイル・ホドルコフスキーをロシア最大の石油王に仕立て上げ、最終的にその石油企業を乗っ取ることでロシアの資源を制圧するというのがエクソンモービルがこの当時に描いていたシナリオだった。
しかし、プーチンはエクソンモービルの好きにさせなかった。
水銀に放射能。政敵は毒殺で葬るプーチンの流儀
2003年10月、ミハイル・ホドルコフスキーは脱税で逮捕され、シベリアの辺境にある刑務所に放りこまれた。
プーチンはこの男をいつでも殺すことができたが、ユダヤ人ネットワークを刺激しないために生かし続け、2013年になってやっと保釈して国から放逐した。
このミハイル・ホドルコフスキーの弁護を引き受けていたのはフランス在住のロシア人女性弁護士だった。
彼女は2008年に家族もろとも体調を崩して水銀中毒の症状を示した。車の座席下から水銀球のようなものが散らばっているのを彼女の夫が発見した。
水銀はプーチンの趣味なのかもしれない。
2010年12月にも、ドイツで活躍するプーチン批判のジャーナリスト夫婦(ビクトル&マリナ・カラシニコフ)が体調を崩して病院で検査を受けると、血液から大量の水銀が検出されたという。
なぜ殺さずに水銀中毒にさせるのか。もちろん、それは他のジャーナリストに対する警告であり、恫喝でもある。これは恐怖を拡散させてプーチン批判をさせないための恐怖統治のシステムである。
こういったプーチンの裏工作を引き受けているのがFSB(ロシア連邦保安庁)だった。使うのは銃や水銀だけではない。アレクサンドル・リトビネンコには放射能が使われた。
アレクサンドル・リトビネンコは、プーチンがチェチェンに弾圧を加えるきっかけになったロシアの高層アパート連続爆破事件は、「プーチンのやらせだと」言った人物だった。
そして、アンナ・ポリトコフスカヤと同じように、「モスクワ占拠事件もプーチン政権のやらせだ」と指摘した。
2006年11月。アレクサンドル・リトビネンコは急に体調を崩して倒れたが、ロンドン警視庁が調査すると放射性物質であるポロニウム210が大量に検出された。
このポロニウム210というのは、ウランの100億倍もの放射能を持つ劇薬なのだという。倒れてから1ヶ月もしないうちに、リトビネンコは壮絶な被爆死をすることになる。
プーチンはもちろんあの冷静で紳士的な態度を崩さず、リトビネンコの死に対する関与を否定した。
このようなプーチンの闇をロシア人は誰でも知っている。世界もそれを知っている。そして結論はどうなのか。ロシア国民はそれでもウラジーミル・プーチンを必要だと言っている。
恐(おそ)ロシア…
とは、2チャン民にしてはよく言ったものですね。
まったく気がつかない間に毒を仕込まれて原因不明の体調不良が続いて死ぬ。しかも家族共々。これは怖い。敵対する者達への恫喝としてこれほど効果的なものは他に思いつかないですよ。恐怖統治の真骨頂ですね。
ミハイル・ホドルコフスキーさん、めちゃ目つき怖いです。流石オソロシアで成り上がった男ですね。しかしポロニウムで殺すとかよく考えますよ。正に殺しのレシピですね。