人生に行きづまった人が「しばらく旅に出ます」と消えるのが正しい理由とは?

人生に行きづまった人が「しばらく旅に出ます」と消えるのが正しい理由とは?

人はその世界に長く馴染みすぎると、そこに自分の考えかたや生活のリズムや習慣が積み重なって、徐々にそれを変えることができなくなる。気がつけばそれが人生を貫く生きかたになる。たとえ、望んでいなくてもそうだ。そして、いったん身についた習慣は壊すのが難しい。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

会社ではなく公園に通って弁当を食べて家に帰る

『習慣という鎖は、はじめは軽すぎて感じられないが、やがて重くなって壊せなくなる』といわれる。

人はその世界に長く馴染みすぎると、そこに自分の考えかたや生活のリズムや習慣が積み重なって、徐々にそれを変えることができなくなる。そして、気がつけばそれが人生を貫く生きかたになってしまう。たとえ、望んでいなくてもそうだ。

たとえば、サラリーマンを10年以上も続け、その生きかたに最適化した人ほどサラリーマンという仕事をやめることができなくなる。

歳を取って退職したサラリーマンが、どうしても仕事に行かない生活に馴染めなくて、しかたなく同じ時間に起きて、背広に着替えて、いつもの電車に乗って、会社ではなく公園に通って、弁当を食べて家に帰るという話も聞く。

まじめに、そして律儀にサラリーマンという生きかたに馴染む努力をした人は、そうすることで厳しい世の中で生きていくことができた。そのため、いくら「違う生きかたもある」といわれても変えられない。

どこの世界でもルールがある。そのルールが潜在意識にまで染み込んで自分の習性になり、その習性が自分の行動ばかりか考えかたにまで影響を及ぼすのだ。

サラリーマンの世界でも、上司にはどのように従うのかとか、どのような挨拶をするとか、顧客対応はどのようにするのかとか、服装はどうするとか、言葉づかいはどうするとか、そういった暗黙知に近いルールが存在する。

それに馴染まないとサラリーマンとして生きていけないというルールがおびただしくあって、それに自分を最適化すればするほど、生きかたや考えかたや振る舞いが固定化されて変えられなくなる。

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「馴染んだ水からは逃れられない」という意味

「その世界に自分を最適化する」というのは、悪い話ではない。悪いどころか、絶対に必要であり、重要なことでもある。最適化できないと「まだ未熟だ」と思われる。そしていつまでたってもその社会のルールに馴染めないと、そこから排除される可能性もある。

たとえば、決められた時間に出勤せず、上司の方針には従わず、挨拶もできないような人がサラリーマンをやっても、評価されることはないし、その世界で生きていくこともできない。いずれ放逐される。

その世界に長くいるためには、できるだけ早くその世界に順応し、その世界のルールを覚え、自分の考えかたをその世界に合わせなければならない。自分がその世界でうまく生きていけるように自分自身が自分自身を最適化するのだ。

だいたい3年もすればその世界に馴染み、さらに長く続ければ、やがて潜在意識にまで習慣が染みつき、それが自分の生きかたになる。10年もその世界にいれば、もはや他の世界には移れないほど順応することになる。

つまり、その世界のルールが、自分の絶対的な常識と化す。常識は疑わない。ここまでくると、完全に最適化が終わった証拠でもある。もう完全に「その世界の人」になる。それが自分の生きかたになるのだ。

自分の決断や考えかたも、自分が最適化した世界の常識の中で行われるようになり、それ以外の考えかたは馴染めなくなる。

いったん自分の生きている世界に最適化されて、無意識レベルで馴染むと、ほとんどの場合は、あとで変えられなくなる。絶対に変えられないわけではないが、「身についた生きかた」というのは変えるよりも続けるほうが馴染むからだ。

だから、サラリーマンの世界で生きていた人は、失職しても次の仕事はサラリーマンを探す。良くも悪くもサラリーマンの生きかたに最適化されたので、その世界以外では生きていけないように思うのだ。

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自分がどこの世界に最適化されたのかを把握する

「馴染んだ水からは逃れられない」というのは、このあたりの事情を指している。不幸なことだが、その世界に自分の人生が最適化されたら、そこにいくら不満や嫌悪があっても抜けられない。

長く水商売や風俗の世界を生きていた女性も、自らをその世界に最適化している。その世界の独自の考えかた、習慣、生活スタイル、ルール、話しかた、言葉づかいなどを自分の潜在意識にまで到達するほど強く自分に課す。そして、その女性はそこから逃れられなくなる。

しぐさ、振る舞い、接客方法、駆け引き、カネの使いかた、カネに対する考えかた、などのすべてが、そこに最適化されていく。生き残るために最適化し、最適化することによって報酬を得る。

だから、いったんその世界にうまく最適化された女性であればあるほど、その世界から抜け出せない。もはや生きかたそのものがそこに馴染みすぎて、他の生きかたをする自分を想像することすらもできなくなるのだ。

そう考えると、「自分がどこの世界に最適化されたのか」というのを把握しておくのは、非常に重要なことであるということに気づくはずだ。何しろ、あまりにも長くその世界にいて、そこに最適化されてしまっていると、もう「馴染んだ水からは逃れられない」可能性のほうが高いからだ。

サラリーマンとして生きてきた人はずっとサラリーマンの発想をするし、事業家として生きてきた人はずっと事業家の発想から抜け出せない。

詐欺師として生きてきた人はずっと人をうまく騙す方法を考えるし、ギャンブラーとして生きてきた人はずっとギャンブラーの生きかたや発想をする。チンピラとして生きた人も、ずっとチンピラの生きかたや発想や振る舞いをする。

たとえ、逮捕されようが生活破綻しようが、とまらない。その生きかたに最適化されすぎてしまって、自分をとめられない。

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「しばらく旅に出ます」といって消える効用

たとえ、その生きかたが自分の不利益になるとわかっていても、すでに潜在意識の奥まで、その生きかたや、発想や、生活習慣が染みついてしまっているので、よほどの決意でもない限り、いったんゼロに戻してイチから自分を構築するというのがなかなかできない。

その世界に最適化されるというのは、無意識に行われて無意識に身についてしまうものだからだ。そう考えると、自分をどこに最適化させておくのかというのは、自分の人生にかかわることであるのがわかるはずだ。

もし、知らずして最適化した場所が自分のいるべき場所ではないと気づき、それが生きづらさにつながっているのであれば、その「誤った最適化」から逃れなければならない。

通常、そうなった場合は「自分自身を変えよう」と努力する人が多いのだが、それはたいてい失敗する。なぜなら、環境が変わっていないので、そこに最適化してしまった自分を変えようがないからだ。

自分の身につけてしまった最適化から逃れたいと考えるのであれば、「自分を変える」よりも、もっと効果的な方法がある。それは、「環境を変えてしまう」ことだ。環境を変えて、無意識下にまで身についてしまった考えかたのクセや振る舞いや話し方を壊してしまう。

似たような環境ではなく、まったく似ていない環境に身を置いて、そこで今まで身につけてしまった最適化をクリアにしてしまう。

もっとも素晴らしいのは、本当に自分が最適化しなければならない場所にいく前に、クッションとして、いったん数ヶ月、数年ほど海外に出て、完全にこれまでの「誤った最適化」を壊すことかもしれない。

海外に出てしまえば、日本で身につけた最適化なんか何の役にも立たないので、それをクリアにしやすい。さっさとクリアにしないと、次々とカルチャーショックが襲いかかってくる。クリアにしないと、海外では過ごせない。

海外に長く出るというのは、それまで身につけた日本の常識を完全に壊してクリアにしてしまう効果がある。意識的に日本の常識を捨て去ろうと考えれば、それまで身につけた「誤った最適化」は消え去っていく。

よく人生に行きづまった人は「しばらく旅に出ます」といって消えていく。それは、理に適った行動だったともいえる。そうやって環境を変えて、自分自身が身につけてしまった生きかた・考えかた・振る舞い・思考パターンなどのすべてを消し去って、真っ白なキャンバスに戻す。

自分がいた世界の常識みたいなものが捨てられたと感じたら、日本に戻って、今度は「本当の自分が望む新しい世界での最適化」をしていけばいいのではないか。

背徳区、ゲイラン
『背徳区、ゲイラン(鈴木傾城)』ブラックアジア鈴木傾城の暗部を描く小説。背徳区に生きる女の哀しい生き様と、ラストの心理的どんでん返しに酔え!

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