東南アジアの背徳区(Red-light District)で、私はレディーボーイ(トランス・ジェンダー)と濃密にかかわろうとは思わなかった。
その理由はシンプルで、もともとレディーボーイたちに関心がなかったのが大きい。私は東南アジアのアンダーグラウンドの「女」たちにぞっこんだったので、レディーボーイには手が回らなかった。
そして、常に思っていたわけではないが、彼らのHIV(ヒト免疫不全ウイルス)キャリアの高さに懸念を持っていた。アンダーグラウンドにいるHIVの陽性者は「私はHIVに感染しています」「エイズです」など、親切にいってくれるわけではない。
徹底的に隠すだけでなく、相手に感染させようという暗く邪悪な意図が隠されていることも珍しくない。これは、アンダーグラウンドでは俗にいわれる「復讐のためのセックスワーク」である。
女性のセックスワーカーなら安心だというわけではないが、レディーボーイたちに較べると確率的には低いだろうという思惑もあった。もちろん、レディーボーイ全員がHIV感染者ではないし、偏見はまったくない。彼らの存在を受け入れている。しかし、友人としてはつき合うが、それ以上はない。
2019年までは定点観測の意味もあって、東南アジアの背徳区には継続的に通っていた。しかし、以後のパンデミックや、昨今の円安もあって、長らく東南アジアの背徳区には行っておらず、HIVのハイリスクからは遠ざかっている。
しかし、ほんの半年前にシンガポールのゲイランで起きていた事件を見て、またあの頃の生々しい感覚を思い出した。
ゲイランに立ってセックスワークをしていた38歳のシンガポール人のレディーボーイは2007年(17歳)のときにHIVとC型肝炎に感染していることを病院で告げられていた。しかし、彼は2016年からゲイランに立ち続けて、相手にはHIVに感染していることを告げていなかった。
ゲイランでは50ドルから350ドルで性的サービスを行っていた。
コメントを書く