もはや国に頼れる時代は完全に終わった。そして日本は、本格的に貧困者が増える事態が避けられなくなっている。全体を見れば、社会構造は貧困に向かっている。そうであれば、もう「貧困を抜け出すにはどうすればいいか」という議論は終わったと言っても過言ではない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
単身世帯の半数は「ほとんど貯金がない」層となっている
日本は単身世帯が増えている。総務省統計局の『平成27年国勢調査』によると、すでに一般世帯の34.6%、すなわち1841万7922世帯が単身世帯となっている。
今後、結婚数はさらに減少し、高齢化もさらに進む。そのため単身世帯の増加は止まらず、国立社会保障・人口問題研究所によると、2025年には単身世帯が1996万世帯になってしまうのではないかと予測している。
結婚している世帯と単身世帯では、単身世帯の方が貧しい。具体的に、単身世帯の平均貯蓄額はどうなっているのか。2020年に金融広告中央委員会が調べた「家計の金融行動に関する世論調査(単独世帯調査)」によると以下のようなデータとなっている。
資産範囲 | 割合 |
---|---|
金融資産をまったく持っていない | 36.2% |
100万円未満 | 17.2% |
100万〜200万円未満 | 6.9% |
200万〜300万円未満 | 4.3% |
300万〜400万円未満 | 4.0% |
400万〜500万円未満 | 2.9% |
500万〜700万円未満 | 5.1% |
700万〜1000万円未満 | 4.3% |
1000万〜1500万円未満 | 4.5% |
1500万〜2000万円未満 | 2.6% |
2000万〜3000万円未満 | 3.1% |
3000万円以上 | 5.6% |
無回答 | 3.4% |
何も持っていない層は36.2%、100万円以下を合わせると53.4%、実に単身世帯の半数は「ほとんど貯金がない」層となっている。日本は今もなお先進国だ。しかし、先進国だから全員が豊かになれるとは限らないということだ。社会は二極分化し、「底辺」が限りなく広がっている。
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バブルが崩壊した1990年以後、まったく状況が好転しない
追い込まれているのは高齢者だとか若者ばかりではない。全世代が等しく二極分化している。
日本はとっくの昔に高齢者が満ち溢れる国となったが、まったく預金を持たないで破綻してしまった高齢層の生活保護受給者も、うなぎ上りに増えている。考えなければならないのは、コロナ以前から日本はそうなっていたのだ。
こうした高齢層の貧困は、一時的な貧困ではない。なぜなら高齢者は心身が衰えているのが普通であり、時期が来れば働けるようになるわけではないからだ。働けない高齢者は一生働けない可能性が高い。
一方の若年層も、相変わらず身分の不安定な非正規雇用や低賃金で苦しんでいる。コロナ禍で最も地獄を見たのが彼らだった。彼らは「景気の調整弁」として不景気に切り捨てられるからだ。
そのまま何年も非正規雇用で過ごすと、もう正規雇用に入るのは難しい。一生を非正規雇用者として不安定な身分で苦しむことになる。
こうした中で女性の単身者も増えているが、女性の場合はもっと正社員になるのが難しく、若い頃は何とかなっても30代を超えると絶望的に仕事が見付からなくなっていくのが現状だ。
日本経済はバブルが崩壊した1990年以後、長期低迷を余儀なくされている。
そこに就職難、政治の無策、若者を非正規雇用者にする小泉政権の構造改革、グローバル化の進行、少子高齢化による人口減、2009年から2012年までの民主党(現・立憲民主党)の円高放置……と数々の悲劇が重なって、日本の底辺で経済的弱者と生活困窮者が増大することになった。
日本人の経済的な苦境は、家計貯蓄率が2013年にいよいよマイナスに突入したことでも見て取れる。金融資産の取り崩しは、とっくに始まっていた。
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どん底の貧困層を涼しい目で見ている荒廃した弱肉強食の世界
金融資産を持っている裕福な世帯は時代背景がどうであれ、ずっと資産を増やし続けている。貯蓄ゼロの世帯が増えているのに、一方で平均貯蓄額は年々上がっているのだが、これは奇異な現象ではない。
端的に言えば、「貧困層は増えているのだが、金持ちはさらに金持ちになった」という現象が起きているということだ。
ちなみに金持ちがより資産を増やしたというのは、金持ちが24時間働いたということを意味しているわけではない。
こうした金持ちはみんな株式資産を持っているが、2013年から日経平均が上昇し、さらに株式市場の総本山であるアメリカ株もまた上昇していることから、労せずして資産を膨らませたのである。
これが資本主義の中の金融のマジックで、労働力と資産の増加は一致しているわけではない。
「一生懸命に働く」という道徳は今も社会のどん底《ボトム》では成り立っているのだが、それが巨大な資産を生み出すことは絶対にない。巨大な資産は、「金で金を生む」というやり方で生み出す世界になっているのだ。
これが、持つ者と持たざる者の乖離を深めている。
高度成長期の時代に日本が成し遂げた一億総中流の世界は、もうとっくに消え去った。今は、株式を大量に保有できる層がまったく汗をかかないで資産を増やし、どん底の貧困層を涼しい目で見ている荒廃した弱肉強食の世界と化している。
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これから日本人がしなければならないのはどういう議論なのか?
雇用は不安定になり、給料の伸びは限定的で、高齢層が引退して生活苦に追い込まれ、貯蓄ゼロ世帯も増え、生活保護受給もどんどん増えている。少子高齢化は止まらず、年金受給者は増える一方である。
社会保障費が膨れ上がっており、政府は出費を避けたいと考えている。年金は破綻しないと言っているが、年金支給開始の年齢は基本65歳に引き上げられており、さらに引き上げられる気配がある。
政府は年金を破綻させないために「受給開始年齢をどんどん後にしている」というのが現状なのだ。そのうち、どうにもならなくなって年金額が減らされるか、年金支給額は70歳ということになるのかもしれない。
まさか70歳と思うかも知れないが、このまま推移するとそうなってもおかしくない。厚生労働大臣は「個人の選択で年金の支給開始年を75歳程度にまで広げることができないかを検討する」と述べたこともある。
60歳で定年を迎えた人が、仮に70歳まで年金をもらえないとなると、10年はアルバイトのような仕事で働くか、貯金を食いつぶして生きて行かなければならない。しかし、10年も貯金を食いつぶしていれば1000万円ある人でも70歳になった頃は貯金ゼロになる。悠々自適はない。
もはや国に頼れる時代は完全に終わっている。そして、いよいよ日本は本格的に貧困者が増える事態を避けられなくなっている。全体を見れば、社会構造は貧困に向かっている。
そうであれば、もう「貧困を抜け出すにはどうすればいいか」という議論は終わったと言っても過言ではない。
少子高齢化の問題も、低賃金を生み出す非正規雇用の問題も、格差を生み出すグローバル化の問題も、なし崩しに進んでいる隠れ移民政策(留学生・技能実習生・単純労働者・インバウンド)による多文化共生も、日本人は何一つ真剣に向き合うことも、考えることも、止めることもできなかった。
今となっては、何かするにしてもどれもが手遅れに近い。
そうであるならば、これから日本人がしなければならないのは、「日本をどうするか」ではなく「貧困に慣れるにはどうすればいいのか」という議論が現実に即しているように見える。
日本を成長できる国家にしなければならないが、このままどん底《ボトム》に落ちる覚悟も一方でしておく必要がある。現実主義者であるならば……。
まわりを見ると、たいして金もないのに、昭和世代の中流家庭(家族、持ち家、車、旅行、趣味)の生活をしている人が多くいる。なんか、そういう生活をするのが一種の権利みたい思っている気がする。
バブル崩壊以降、(一部の人を除いて)昔の中流生活うち何かをあきらめないと、預金なんでできないと思う。
預金というバッファを保ちつつ、贅沢な暮らしをしなければ、下層に滑り落ちないで済む。
バッファを借金でまかないだすと、あっという間に、下層に落ちる。
たぶん、これからが正念場だが、もうすでに決着はついている。