自粛だの隔離だの外出制限などというのは、金持ちだけに許された「贅沢」であって、貧困層にとっては最初から無理なものだったのだ。それでも政府が強権を行使して国民に自粛を強制すれば、餓死者や自殺者が続出することになる。これは推測ではない。収入が断たれた上に自粛から逃れられないのであれば、人々には逃げ場などないのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
私たちの愛する東南アジアで起きていること
タイでも中国発コロナウイルスの感染者は2613人を超える事態となっており、観光地プーケット島での感染者の増加がタイでも最も問題となっている。(ブラックアジア:【投稿】非常事態宣言発令下のタイ。プーケットはどのようになっているか?)
カンボジアではコロナウイルスの感染者は122人ほどで、タイほどひどい状況にはなっていないのだが、毎日のように感染者が出てきており、いつ感染爆発するのか分からない状況だ。ベトナムは感染者が266人である。やはり外出制限が行われている。
東南アジアで最初にひどい状況になったのはマレーシアだった。現在のところ4987人の累計患者がいる。クアラルンプールのモスクでの大規模集会から広がったマレーシアの感染爆発は、行動制限が行われた後も突発的な感染者拡大が何度も起きている。
このマレーシアに迫るほどの患者急増となっているのがインドネシアである。現在は4839人となっている。インドネシアは感染したら死ぬ確率が高い国となっており、危機的な状況である。
そして、3月の下旬から4月の初旬にかけて約2000人もの規模で感染者を出しているのがフィリピンである。現在、5223人となっているのだがマレーシアを抜いて東南アジア最悪の汚染地区と化した。
爆発的な感染は貧困層で起きており、不十分な医療によって死者が激増する可能性が挙げられている。
シンガポールはどうか。シンガポールは3月までは「封じ込めに成功している素晴らし国」と言われていたが、もうすっかり過去の話となった。現在の感染者数は3252人となっている。4月9日から感染爆発が止まらなくなった。
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それぞれの国の感染者数を俯瞰して見る
ひとまず、東南アジア全体でどうなっているのかを俯瞰して4月14日に「AEC NEWS TODAY」がまとめた数字があるので、これを見てみよう。東南アジアでの中国発コロナウイルスの感染者は、多い順から並べると以下のようになっている。
(1)フィリピン:5223人
(2)マレーシア:4987人
(3)インドネシア:4839人
(4)シンガポール:3252人
(5)タイ:2613人
(6)ヴェトナム:266人
(7)ブルネイ:136人
(8)カンボジア:122人
(9)ミャンマー:63人
(10)ラオス:19人
(感染者数は「https://www.worldometers.info/coronavirus/」で最新のものが見られる)
インド圏はどうだろう。このような状況になっている。
・インド:10,941人
・バングラデシュ:1012人
・パキスタン:5837
・スリランカ:219人
インドではシーク教徒の指導者がイギリスでコロナに感染してインド中の村に説法で回って感染を爆発的感染させたという例や、インド最大のスラムと言われているムンバイのダラピでの感染拡大があるので、これからさらに増えていく。
ちなみに感染者が10万人超えの国は以下の通りとなっている。
(1)アメリカ:598,737人
(2)スペイン:172,541人
(3)イタリア:162,488人
(4)フランス:136,779人
(5)ドイツ:131,100人
イギリスは現在9万3873人なので、1週間以内に10万人の感染国に入るかもしれない。
1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから
東南アジア最悪の汚染地区となったフィリピンのこと
ところで、東南アジアで最悪の感染者数となったフィリピンなのだが、フィリピンはドゥテルテ大統領の素早い動きによって3月15日からすでにマニラ首都圏封鎖の措置が施行され、他の地区でも外出禁止令が出されていた。
それなのに、いったいなぜこんなことになってしまったのだろうか。
それは、フィリピンでは貧困層が多くコロナに感染して死ぬよりも封鎖措置によって収入を失って餓死する可能性の方が高まって、自粛がうまくいかなかったからでもあると分析されている。
スラムの住民たちはかなりの数で路上でモノ売りをしている。あるいは物乞いで収入を得ている。あるいはゴミの廃品回収で暮らしている。収入は乏しくて日銭を稼がなければならない。
外出禁止令を守っていると、一家全滅してしまうのである。
さらにコロナウイルスはスラムの住民たちの間で爆発的に増えているのだが、スラムというのは狭いところで人々が密集した環境になっているので、「集まらない、近寄らない、密閉された空間にいない」という基本が守られない。
さらに彼らはマスクを手に入れるカネも環境もなければ、衛生に気を使えるような生活環境にもない。そして、具合が悪くても病院に行くカネもない。いったん感染が広がれば、もはやどうしようもないような社会環境の中で暮らしているのである。
だから、外出禁止令は守られず、運悪くスラムでの感染が広がってマレーシアを抜いて感染爆発に巻き込まれていった。特にひどかったのは3月31日で、この日一日だけで538人の感染者が発覚した。病院はすでに飽和状態で医療危機が起きている。
フィリピン政府は引き続き4月30日まで外出禁止令・移動制限措置を続けるつもりなのだが、「もう生活できない」として激しい抗議デモが発生しており、逮捕者が続出するような騒ぎにもなっている。
地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから
大量の企業倒産と失業者の群れと貧困層の増加
貧困層から見ると仕事がいけなくなるというのは、感染するのかしないのか分からないコロナよりも恐ろしいことなのだ。何しろ一日でも仕事ができなかったら、自分も家族も飢えて死ぬ。
別に途上国だけの話をしているのではない。都市封鎖の真っ只中にあるイギリスでも、約300万人以上が外出制限で収入が激減し、300万人以上が空腹を抱えているという実態をフィナンシャルタイムズ紙が明らかにしている。
自粛だの隔離だの外出制限などというのは、金持ちだけに許された「贅沢」であって、貧困層にとっては最初から無理なものだったのだ。それでも政府が強権を行使して国民に自粛を強制すれば、餓死者や自殺者が続出することになる。
これは推測ではない。収入が断たれた上に自粛から逃れられないのであれば、人々には逃げ場などないのだ。
さらに、こうした人たちが増えたら「抗議デモ」ではなく「暴動」が起きるような一触即発の事態になってしまう。
中国の武漢から始まったコロナウイルスの「地獄」は、今は「健康問題」の方に目が向いているのだが、自粛や外出禁止令や都市封鎖が生み出すのは大量の企業倒産と失業者の群れと貧困層の増加である。
IMF(国際通貨基金)は、2020年の世界経済の成長率はマイナス3.0%となって「大恐慌以来の経済悪化」と述べている。これは何を意味するのか。国際非政府組織オックスファムは、このように分析データを出した。
「1日1.90ドル以下で生活する貧困層は9億2200万人に増加する」
「5.50ドル以下で生活する人は40億人近くになる」
つまり、こういうことだ。世界を見回すと絶対貧困層は約10億人になり、貧困層は約40億人になる。
これが私たちの目の前で起きていることだ。これから私たちは極度の貧困層が世界中に溢れる悲惨な世界に落ちていく。日本はどうか。日本も例外ではない。今、起きていることを甘く見てはいけない。
下手すれば、働く人たちの4割は近くは仕事を失うかもしれない。人数にして2165万人。なぜ4割なのか。この4割は非正規雇用であり、景気の調整弁として切り捨てられる存在だからだ。
連日コロナ対策で、飲食店への補償/お見舞いが出るのか、出ないのか?出るとしても手続きが煩雑になる見込みで、いつ手に入るか分からない、申し訳ないがバイトは勿論、従業員も辞めてもらうしかないなど、報道されています。鈴木さんの言われるように日本人の4割が職を失う可能性があります。とにかく日本政府は庶民に金を出したくないようです。私は、政府の政策で大変重要な問題点がほとんど報道されてないと感じていることがあります。それは、貧富の差が、更に拡大することを、日銀がしているということです。ETFによる株の買い上げで、株式相場は若干の落ち込みはあったもののそれなりの水準を保っています。ということは、金持ちは現金が無くなれば株を売ってしのぐことが出来、持ち株資産の価値もキープ出来ているということです。それに対し、その日暮らしの人々、若干の貯めたお金をもとに飲食店をしている人達は、これから塗炭の苦しみを味わうことになります。もう、崩壊すると思っていたアベノミクスが、ここに来てとんだ作用を起こしていることを、皆知って声を上げてもらいたいと思います。日銀の金融政策そのものが、日本の将来に大きな問題を起こしかねない懸念は大きいですが、今はそれにふれなくても、目の前にこういう問題があります。
お気に入りのピンパブが三月半ばに突然一時閉店となり嬢たちが一斉に帰国しました。ロックダウンを見越しての対応だったようです。
本日(4/15)の情報です。
マニラ在住の嬢からは「より厳戒態勢になって警察官、医師、看護師、輸送担当以外の者は一切外出できなくなった」とのことです。
マニラ 近郊都市在住の嬢からは「食糧を大量に買い込んで困っている人たちに配り歩いた。本当に困窮している人たちがいる」とのこと。
この嬢は真面目な性格の優秀なダンサーで、平均より高い水準の生活をしているのでできたことだと思います。
他には、ここ数日連絡が途絶えた嬢がいてどのような状況か心配です。
みんななんとか生き延びて再会できることを切望しています。
連絡が取れていなかった嬢からの情報では、ここ数日Wi-Fiの調子が良くない、とのこと。
元々フィリピンはWi-Fi環境が他の東南アジア諸国と比較してもあまり良くないようですが、家に篭った人々が一斉に使用してさらに機能が落ちているのでは、と推測します。
フィリピンでは家に篭りきりの人々が退屈極まっているようで、「自宅で家族と踊ってみた」的な動画が頻繁に発信されています。
「お、この嬢は妹も可愛いじゃないか」などの思わぬ発見もあり、うひょひょと拝見しています(←不謹慎)
なぜか日本の庶民は「いざというときにはお上が助けてくれる」
とかいう何の根拠も無い思想を持っていますが、
もう自分でなんとかするしかない
と皆が気付き出すでしょう。
(ky)です。
4/28時点でアジア圏で感染が広まっているのは次の4カ国です。
インド: 29,451感染者、939名死亡, 716,733検査
インドネシア: 9,511感染者, 773名死亡, 79,618検査
フィリピン: 7,958感染者, 530名死亡, 89,889検査
バングラデシュ: 6,462感染者, 155名死亡, 54,733検査
見て分かる通り、インドネシア、フィリピン、バングラデシュは検査数が限られています。インド、バングラデシュは致死率がきわめて低いことでニュースになっていたりますが。一方、インドネシアは全34州すべてに感染が広がっており、致死率が 8%を超えています。
今日になってインドネシアでは新型コロナウイルス感染の症状を示し検査(または検査結果)を待っている間に亡くなってしまった人が2千人以上にのぼる(確認された死者の3倍近く!)という衝撃的な報道がありました。医療体制等の問題もあるでしょうが、それ以上に検査が絶対的に不足していて、実際の感染者数が既に数十万人以上、もしかすると百万以上、になっている、ということを示唆していると考えるのが妥当そうです。
人種や宗教を考えても、感染確認者に対する死亡率が1.6%程度ときわめて低い状態のマレーシアやタイと大きく異なるわけではありません(シンガポールはようやくバングラデシュなどからの外国人労働者が固まっている地域の検査に乗り出したために、ここ数日大きく感染者が増えたわけですが、ここでも圧倒的に無症状者が多いことが分かってきています)。栄養状態、基礎疾患、年齢構成、衛生状態などを考えても、インドネシアの死亡率の高さは異常なほどです。
日本でもおそらく知られていると思いますが、インドネシアは中国人観光客等も多かったにも関わらず、3月に入るまで感染者0を誇ってきて(国民もあまり信じていなかったようですし、3月中旬に政府も感染者が出ているのを実は隠していたと白状しています)、ろくな対策も取らないままでいました。そんな中、3月中旬ごろに大規模な宗教行事をやったことも感染を急拡大しました(タイ南部からもこうした行事に参加してタイに戻ってきたら感染が確認されたという事例が多数出ています)。さらに、現政権と宗教界とがうまく歩調を合わせることができず、モスクでの個人的礼拝はいまだに禁止できていないなど、他のイスラム教国に比べてもきわめて緩い対策しかできてきません。
ジャカルタ等ではPSBB (大規模な社会的制限)を4月中旬から(これも遅い)始めていますが、ある意味、日本で現在行われている自粛レベルで、効果が上がっているようにも見えません。24日から始まったラマダンに合わせてようやく州を超える移動を禁じるなど強制力が上がりましたが、かなり多くは既に帰省したりしてしまいましたし、現時点でも州の宗教的リーダーによっては感染拡大を軽視しているところもあります。
この先どうなるか大変心配なのですが、インドネシアの状況は、発展途上国、低めの中進国で大々的に感染が広がった場合にどうなるのかを示している、とも言えます。
まず何よりもどれくらい感染、死亡が広まっているのかがまったく統計的に見えてこない。日本も検査数が少なくいろいろ問題になっているようですが、それとは次元が違うレベルの分からなさです。そしてそもそも医療規模も医療水準も高くないため、大多数が放置状態になっていると考えられます。そんな中、多くの人は家でも仕事でも三密を避けるなど到底無理な状況にある。そして感染がほとんど全国に広がってしまってきている。
ここの読者、特に古めの読者の方々はインドネシアに特別な思い入れを持つ人もいようかと思います。私もこの感染禍の直前まで毎月一度以上の頻度でインドネシアに仕事で行き、タイに住んでいながらインドネシア語の方が(大したことはないですが)得意なくらいです。日本もいろいろ大変でしょうが、東南アジアのこうした危険性の高い国々の動向も気にしておいていただければ。
詳細な情報ありがとうございます!
インドネシアでは、バリ島などの観光地、その他の島などで状況が異なるのでしょうか?もしご存知でしたら教えていただけると幸いです。
(ky)です。
バリ島は2月に5千人の中国人が(感染の蔓延する)母国に帰りたくないと居座っていたわけですが、4月上旬まで80名強(死者2名)で治まっていました。しかし、ここにきて既に累計で200名以上の感染拡大が進んでいます。それでも死者数はまだ一桁なので、他よりはだいぶましですね。
ジャワ、スマトラ、カリマンタン、スラウェシの各主要島はすべて数百人以上のの感染者が出ています。比較的小さい島でもほとんどで感染例がそこそこ出ています。ですから、ほぼ全国に満遍なく蔓延してしまっていると考えざるを得ないですね。
ただ、やはり圧倒的に多いのはジャワ島であり、インドネシア全体のおよそ4割の感染者はジャカルタです。
また、感染確認例に対する致死率が高いというのがインドネシアの特徴ですが、これはジャワ島全域が特にひどく、スマトラ、南スラウェシも高め、カリマンタンは低め、という感じですね。
なお、最新情報は、”Indonesia’s latest official COVID-19 figures”でGoogleで検索していただきおそらく最初の方に出てくるJakarta Postのページが一番分かりやすいと思います。地図にマウスカーソルを当てると各州の感染者等が表示されます。残念ながら地図はほとんど真っ赤です。
Jakarta Postを確認しました。地図が恐ろしい色で染まっているのを戦慄の思いで見ています。
動画コンテンツの墓場の様子からも深刻な状況が窺えます。ジャカルタでは土葬が一般的のようですね。
さっそくの情報提供に感謝申し上げます。