ソマリアが内戦にまみれて無法地帯になっているが、それが収まらない理由とは?

ソマリアが内戦にまみれて無法地帯になっているが、それが収まらない理由とは?

ソマリアが荒れている。ソマリアは東アフリカに位置する国家で、長年にわたる内戦と干ばつによって深刻な政治的・経済的混乱に陥っている国だが、政府の統治能力が弱体化し、国土の大部分は武装勢力によって支配されている。ソマリアの混乱が収まらないのは理由がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

ソマリアは完全なる無法地帯と化している

ソマリアが荒れている。ソマリアは東アフリカに位置する国家で、長年にわたる内戦と干ばつによって深刻な政治的・経済的混乱に陥っている国だが、政府の統治能力が弱体化し、国土の大部分は武装勢力によって支配されている。

無法地帯になって武装勢力に支配されているという構図では、ハイチに似ている点も多い。(ブラックアジア:ハイチが完全なる「修羅の国」に。国全体が大混乱に陥ってマッドマックス状態

ソマリアの内戦と政治的混乱は、今にはじまったことではない。1991年にシアド・バーレ独裁政権が崩壊してから、国連はPKO介入をしたが混乱は深まるばかりだった。

映画『ブラック・ホークダウン』はこの混乱を描いた戦争映画であったが、当時のソマリアの内戦の様子がリアルに再現されている。この映画以後もソマリアはずっと内戦状態が続いていて今に至っている。

内戦の原因のひとつは、ソマリアの地域間の対立と民族的な分裂だった。ソマリアはイスラム教の民族で構成されるが、国内にはさまざまな民族集団が存在し、それぞれが政治的な影響力を持って対立が先鋭化した。

地域の権力闘争は続き、外国からの武器供給や軍事支援によって内戦が激化した。この混乱の結果、ソマリアは完全なる無法地帯と化して経済的にも荒廃し、人道的な危機に直面した。

基本的なインフラは破壊され、もはや国家としては機能していない。完全なる失敗国家であり、食糧不足、医療の崩壊が発生し、大量の餓死者や難民を出している。

現在もソマリアは政治的不安定さと内戦の脅威にさらされている。国際社会はソマリアの安定と経済の復興を支援するために努力している。根本的な解決策はまだ見いだされていない。その結果、発生しているのが「海賊問題」である。

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救援団体ですらもソマリアに入れないほどの状況

ソマリア沖は世界でも有数の海賊被害地域として知られている。2000年代後半には、海賊の活動が活発化し、年間数百隻の船舶が襲撃された。海賊は船員を人質として拉致し、身代金を要求することで巨額の利益を得るようになっていた。

近年は国際社会による対策強化により海賊の活動は減少しているが、最近になってこの海賊がふたたび猛威を振るうようになっており、2023年11月以降で少なくとも14隻の船舶が海賊に襲われている。

このソマリアの海賊が出没する紅海・アデン湾は世界の貨物船の約17%が往来する最重要海運であり、ここを運航する船舶が襲われるというのはどこの国でも他人事ではない。実際、最近になって被害に遭った船舶はイギリス、トルコ、マルタ、インド国籍と多国籍だ。

海賊になっているのは、貧困で追いつめられた国民である。ソマリアの貧困と失業は、長期間にわたる内戦、そして内戦による経済崩壊、さらに気候変動などの複合的な要因によって解決の緒すらもない。

あまりの無法ぶりで、外国からの投資や経済支援どころか、救援団体ですらもソマリアに入れないほどの状況である。

ソマリアの経済は農業に依存しているところもあるのだが、長期の干ばつや洪水などの気候変動で農業生産は減少して、しばしば飢餓が発生する。

このような状況なので経済は動いていない。仕事もない。ソマリアの失業率は相当高いというのは想像できるが、無政府状態なので大雑把な統計データすらもない。行政も機能せず、学校も満足に運営されていないことから、教育水準も相当低い。それが、テロや武装組織の台頭や海賊を生み出す背景になっている。

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無法地帯で台頭するのは、常に暴力組織である

2022年10月29日、ソマリアの首都モガディシオの教育省庁舎前の交差点で、爆弾テロが発生した。死者は少なくとも100人、負傷者が300人超にのぼる大惨事であった。イスラム過激派組織「アル・シャバブ」の仕業だった。

アル・シャバブはアルカイダ系のテロ組織なのだが、アルカイダは本拠地だったアフガニスタンでは影響力をなくしている。しかし、一部は無法国家となったソマリアに潜伏して、今も強大な力を温存しているのだった。

実際、アル・シャバブはソマリアの一部地域を支配し、イスラム教のシャリア法を厳格に適用することを主張し、市民にそれを強いている。

アル・シャバブは西洋の影響を排除し、シャリア法に基づくイスラム国家の樹立を目指しているので、しばしば非イスラム教徒や異なるイスラム派に対する攻撃をおこなう。ソマリア政府だけでなく、国際機関なども標的だ。とくにアメリカに対する憎しみは深い。

ソマリア政府は治安維持のために欧米に頼りきっているのだが、とくにアメリカが深く関与しているので、アル・シャバブの攻撃対象はおのずとソマリア政府になっているのだった。

それにしても、アル・シャバブの資金源は何なのか。

誘拐や身代金の要求などの犯罪行為も資金調達の手段として利用されているのだが、他にも武器の密輸や、ドラッグの密輸なども行っている。支配地域からは「税金」と称して市民や店から金を巻き上げて、金を出さない市民は拉致したり、暗殺したりもしているようだ。

無法地帯で台頭するのは、常に暴力組織であるのがソマリアを見てもわかる。

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イスラムのテロ組織はどれもしぶとく生き残る

アル・シャバブが扱っているドラッグは3つある。ハシシと呼ばれるマリファナ系のドラッグ、そして覚醒剤、ヘロイン、コカインである。ハシシはソマリア国内で栽培・製造されており、アル・シャバブにとって重要な収入源となっている。

アフガニスタンのテロ組織タリバンはケシからヘロインを精製して、それを外国に密輸しているが、アメリカのCIAも裏工作の資金を得るために、それらのドラッグの密売に関与しているという噂もある。

テロ組織、武装組織、ギャング、マフィアにとってドラッグは常にビジネスの重要な収入源であるのがわかる。人類はドラッグの快楽を欲しているので、イスラムのテロ組織もドラッグの密輸で資金を得ながら増長していくことになるだろう。つまり、タリバン系も、アルカイダ系も、ISIS系もしぶとく生き残るのだ。

たとえば、ISISは2019年に指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディを失って、組織は瓦解したと見られているがそんなことはない。

2024年3月22日。ロシアの首都モスクワ郊外のコンサート会場で、複数の男が銃を乱射して143人が死亡するという事件があったが、このテロ事件では下火になって忘れかけられていたISIS(イラク・シリア・イスラム国)が犯行声明を出している。

ISISはシリア、イラクでの軍事活動が弱体化していたのだが、生き残ったISISのメンバーたちの一部はアフリカに潜伏している。そのアフリカの国のひとつがソマリアだった。

2023年1月、アメリカのオースティン米国防長官は、「ソマリアに潜伏していたISISの指導者を殺害し、指導者以外にも約10名の関係者を殺害した」と報告している。

しかし、ISISは今も過激思想に惹かれる人間たちを引き寄せており、タリバンやアルカイダ系のテロ組織とも緩やかな連携を保って世界各国で力を温存している。そして、ロシアの劇場襲撃テロのように、人々が忘れた頃にテロを引き起こす。

無法地帯と化しているソマリアは、そのテロ組織の「シェルター」になっている特異な国であるともいえる。これらのテロ組織はソマリアの治安が安定したら行き場所を失ってしまう。そのため、ソマリアが無法地帯であり続けることを望んで、内戦の長期化をしかけることになる。

ソマリアの地獄はまだまだ終わりそうにない。

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