「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人が転がり落ちていく

「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人が転がり落ちていく

世の中には、誰に言われるまでもなく自分に最も有利なように立ち回って要領よく生きていける人がいる一方で、自らの人生に降りかかった問題にうまく対処できなくてどん底にまで堕ちてしまう人もいる。

「スマートフォンが壊れて圏外になる」という些細な問題から、なぜか売春にまで身を落としてしまったという女性は、そうした「うまく生きられない」人の最たるものかもしれない。

知的能力が劣るわけではない。普通に日常生活を送っている。にも関わらず、いろんな部分で不器用さが露呈して問題を引き起こす。

例えば、口数があまりにも少な過ぎたり、感情表現がうまく行えなかったり、物事を考え過ぎてしまったりする人がいる。あるいは、融通が効かなかったり、パニックになりやすかったり、優柔不断だったり、想定外に弱かったりする人もいる。

普通の人であればうまく回避できる問題が回避できずに深刻化する。細かい部分で日常に多くの問題を抱える。そうすると、毎日がトラブルの連続になり、次第にうまく生きられなくなってしまうのである。

あなたのまわりにもそんな人が何人か見当たるはずだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

自分を破壊してしまうまでの不器用さ

問題があれば、解決するために自分の問題を説明したり、苦境を脱するために助けを求めたりする。しかし、「人に説明する」ということ自体が、苦手すぎてできない人も中にはいる。

以前、私はこの「人に説明する」というのがほとんどできない女性に会ったことがある。彼女は私が質問すると、常に答えに詰まって「私、中卒だから……」と口癖のように言って自分の説明下手を弁解した。

そして、ずっと沈黙したり、それを取り返すように早口に話したり、話が飛んだりして、最後には支離滅裂になって何が言いたいのかが分からなくなった。

彼女のことは電子書籍『デリヘル嬢に会う – 彼女はあなたのよく知っている人かもしれない』の中の「中卒であることを気に病む」という章に書いたのだが、今でも強く印象に残ってる。

自分のことなのに、本当に説明ができない……。

実は、生活保護の現場や日雇労働の現場では、彼女と同じように「人に説明する」というのがうまくできない人が大勢いて、本当に困っているのに生活保護が受けられなかったり、日雇いの仕事が取れなかったりする。そのため、本当に困っているのに人に頼れないし、現状を打開できない。

本人も「自分は説明が下手で他人に分かってもらえない」というあきらめがあって、所持金ゼロになって街をさまよう最悪の事態になっても何もできない。

普通の人ならきちんと説明することで簡単に事態を打開できることができない。苦しんでいるのにそれが説明できない。このような「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人は実際に大勢いる。

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最後の最後になっても何もしない

こうした「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人たちは、不器用であるがゆえに、状況を見て臨機応変に対応するということができない。

カネがない。そんな時に、よりによってスマートフォンが壊れた。そうであれば、普通の女性であれば、ショップに説明して何とかしてもらうとか、親や友人に修理代を立て替えてもらうとか、できることを片っ端からやろうとするはずだ。

しかし、不器用な女性は「カネがないのにスマートフォンが壊れた」という状況に追い込まれてしまうと、壊れたスマートフォンを握りしめて、事態を打開することができない。

いくつかの案を考えて、次々に試してみるということができない。融通が効かない。仮にもし何かを思いついたとしても、行動は遅く、作業も遅い。

困難に追い込まれた時、窮地を脱するために普通の人は自分にできるあらゆる手立てを片っ端から試して何とかしようと必死でもがく。

たとえば、生活苦に陥ってカードローンをして返済日が数日後に来て返せないと思ったら、親や同僚や友人に頭を下げてもカネを工面しようと動く。完全に万事休すであれば、消費生活センターや区役所や、その他どこかの相談所に駆け込むなり何とかする。

しかし、極度の不器用さを持った人は、ただ呆然と立ち尽くして事態が取り返しがつかないほど最悪の状況になるまで放置する。「返済日が来ても返せない。このままではマズイな」というのは分かっている。状況判断はできている。

ところが、返済日まで「何もしない」のである。そこで借金をしている先から取り立ての電話がきたり、誰かが「返せ」とやって来たりすると、そこではじめて「このままではいけない」と何かをするのだが、その時はすでに何ともならない。

借金だけではない。たとえば、虫歯や歯周病などがどんどん悪化していくと、次第に口臭が隠せなくなったり、歯がボロボロになって抜けていったりする。早めに治療をしていれば治る。しかし、手遅れになるまで何もしない。

「問題」は認識しているのだが、最後の最後になっても何もしない。決断をできず、できたとしてもあまりにも遅すぎる。

『野良犬の女たち ジャパン・ディープナイト(鈴木 傾城)』

状況に流され続けて、最後に破滅

「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」というのは、そういうことである。

彼らを見て何か知的能力に問題があるのではないかといぶかる人もいる。確かに、知的能力にも問題がある人もいる。

しかし、逆に知的能力に問題のない人もいる。よくよく話をしてみれば、いろんなことを考えていたりするのが分かるので、決して知的能力だけが問題の起因ではないというのを私は知っている。

中には、普通の人よりも思考が深い人たちもいるのだ。

そもそも、普通に日常生活を送っている人が必ずしも深い思考を持って生きているわけでもない。何も考えていなくても、器用に日常を送れる人もいる。逆に不器用な人の方が、いろんなことをむしろ深く考えていたりすることもある。

極度に不器用な人は、自分から何かを取りに行くという積極性が欠けており、人生は常に受動的だ。現代社会で最も重視されている基本的な行動パターンである「PDCA(計画・実行・評価・改善)」を自分の人生で回せない。

実行の前に計画を立てる段階でつまづく。計画がないから実行もない。追い込まれて助けが必要になっても、極度の不器用さが仇になって助けを求めるための説明もできない。そして、状況に流されて、流され続けて、最後に破滅に至る。

最底辺で生きている人たちの中には、このような「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人たちが大勢いる。また、世界の売春地帯にも日本の風俗にも、こうした女性が誰の助けも求めることができないまま呆然と生きている。

「あの時にこうしていれば堕ちなかったのに、なぜそうしなかったのか」と責める人もいるのだが、それができたら堕ちていない。そして彼らは往々にして「もっと早く動いていれば大事にならなかったのに、そこで何もしないで堕ちたのだから自己責任だ」とも言われる。

しかし、彼らは自分を弁護する言葉が出せない。不器用だからである。

世の中には、そうした「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人がいて、彼らがアンダーグラウンドに転がり落ちて、そこを転々と這い回っている。ここ最近、私は真夜中の暗闇の中で、そうした女性とばかり会っている。

世の中には、「自分を破壊してしまうまでの不器用さ」を抱えた人がいて、彼らがアンダーグラウンドに転がり落ちて、そこを転々と這い回っている。ここ最近、私は真夜中の暗闇の中で、そうした女性とばかり会っている。

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