ミャンマーは経済成長に取り残された極貧国家になって深い闇を生み出すのか?

ミャンマーは経済成長に取り残された極貧国家になって深い闇を生み出すのか?

今のミャンマーを見ると、東南アジアで取り残された唯一の極貧国家になってしまうのではないかという気もしている。今のまま推移していくと、そうなってしまう可能性が高い。政治の混乱で極貧世界を生み出した国は、深く強烈な裏社会をも生み出す。ミャンマーに注目している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

ただでさえ苦しいミャンマーの国民はより追い込まれた

軍事クーデターでアウンサンスーチー氏を拘束して無理やり国軍支配に持っていったミャンマーは、その後のコロナ禍のこともあって世界から忘れ去られ、もはや世界から見捨てられたような状況になっている。

ミャンマーはアウンサンスーチーの時代になってから、外部からの投資資金を受け入れてやっと経済成長の入口に入ったのだが、この国軍のクーデターによって国際社会から経済制裁を科せられて再び投資資金も途切れてしまった。

国軍のクーデターに異議を唱えるミャンマーの民主派市民は激しい抗議デモで対抗したが、事態は膠着して今もなお事態は悪化したままだ。

国軍支配に抵抗する市民は、1500人も殺され、1万1000人が逮捕されるような事態となっている。経済のボイコットやストライキの多発ですでに失業者も1年で100万人発生したのではないかとも推測されている。

ミャンマーの人口は5441万人なので、そのうちの160万人が失業したというのは、凄まじいインパクトである。すでに国民の半数は絶対貧困となっている。(ブラックアジア:国民の48.2%が絶対貧困。ミャンマーは近いうちに「飢餓国家」になっていく

世界銀行はミャンマーのここ一年のGDP(国内総生産)は、前年から18%減となったと報告した。ミャンマーは軍事クーデターによって民主主義も否定され、経済が萎縮していくばかりの国と化したのである。

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国際社会はまったくミャンマーに目を向けていない

ミャンマーの国家的信用も喪失してしまったことから通貨チャットも暴落してしまい、輸入するあらゆる商品の物価が高騰して、仕事はなくなったのに物価は二倍になってしまった。

ミャンマー国内では、もう燃料油や食用油も手に入らないほど困窮化している。ただでさえ苦しいミャンマーの国民はより追い込まれていくことになった。

ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官は2月1日、「できるだけ燃料油の節約をお願いしたい」「食用油の消費をできるだけ少なくすれば輸入を減らせる」と国民に演説するほど深刻なのだ。

ASEANもミャンマーの対応を巡って意見が割れており、救済がうまく進んでいない。まして国際社会はまったくミャンマーに目を向けていない。

ミャンマー国民にとって不幸だったのは、コロナ禍が重なってしまったことだ。これによって世界中の指導者は自国の対応に追われてミャンマーどころではなくなった。そしてミャンマーでもコロナ禍で自粛を余儀なくされた。

軍事政権との闘争で経済が止まり、ストライキで経済が止まり、コロナ禍で経済が止まったのだから、悪いことがすべて重なった状態である。さらに不幸なのは、去年の9月あたりから石油価格がどんどん上昇していったことだ。

2021年の暮れに入ってから鎮静化しつつあるように見えた石油価格は、今年に入ってからは猛烈に値を上げていった。先進国の国民にも石油価格の上昇による値上げに悲鳴を上げているが、ミャンマーは絶望的に追い込まれた。

資源高騰はまだ続く可能性が高い。

今、ロシアとアメリカがウクライナを巡って一触即発の様相を見せていて、事態は緊迫している。この問題がこじれると、石油も天然ガスも小麦もより高騰してしまう事態もあり得るので、ミャンマーはひとたまりもないだろう。

すべての問題がミャンマーを地獄に突き落とそうとしているのである。

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ミャンマーの経済はより傷つき、絶望的な状況に

2021年12月10日。ミャンマーでは「沈黙のストライキ」を各地で行れた。国軍に抗議デモをするのではなく、ただ国民全員でいっせいに仕事を休み、外出も控え、商店も休業して軍に対する抵抗を示す。それが「沈黙のストライキ」だ。

軍や警察はその動きを察知して、この「沈黙ストライキ」をやめさせようとしたが、当日は閑散としてヤンゴンも人通りが消えた。

一方で国軍は自分たちを指示する集団に「国軍支持デモ」を行わせている。先日は、このあからさまな「やらせデモ」に手榴弾が投げ込まれて40人が死傷するという事件も起こっている。

こうした対立と衝突が長引くほど国民生活もまた追い込まれていくのだが、抑制する側も抵抗する側も止まらない。

国軍は市民を弾圧し、市民は政治をまったく信用せずに暮らし、仕事もなければ物資もない。これが今のミャンマーの状態である。

客観的に見ると、国民が追い込まれて死んでいくのが先か、それとも国軍が絶えられなくなって崩壊するのが先かというチキンレースだが、どちらにしても痛みは大きい。ミャンマーの経済はより傷つき、絶望的な状況になっていくだろう。

ミャンマー国軍の裏には中国がいる。そのため私たちが思っている以上に軍事政権は長持ちするかもしれない。しかし、国軍が孤立化しているのは確かであり、今の独裁政治がずっと維持できるかどうかは未知数だ。

ミャンマーが民主化する夢を完全に捨てるのはまだ早いと私は思っている。

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ミャンマーが私の最後の放浪地となるのかもしれない

私は、極貧世界は東南アジアから消え去っていき、「ブラックアジア的な世界はもう消えるのだろう」「少なくとも東南アジアで貧困世界のアンダーグラウンドを見ることはもうないのだろう」と思っていた。

しかし今のミャンマーを見ると、東南アジアで取り残された唯一の極貧国家になってしまうのではないかという気もしている。今のまま推移していくと、そうなってしまう可能性が高い。

政治の混乱で極貧世界を生み出した国は、深く強烈な裏社会をも生み出す。その裏社会というのは、言うまでもなく無法の犯罪組織の拡大、暴力の横行、人身売買、売春横行、ドラッグ蔓延……などである。

民主化されて国が落ち着くまでは、アンダーグラウンドは一時的に広がる。ただ、国に民主国家としての秩序が生まれ、法が厳格化し、貧困が薄らいでいけばアンダーグラウンドも萎縮する。

コロナ禍以前のミャンマーはヤンゴンのインヤー湖周辺に、小規模な歓楽街が散見されていたのはよく知られている。『DJ’s bar』や『Disco BME』みたいな店もあったと報告を受けている。

軍事政権が消え去って民主国家が再び戻ったら、ミャンマーも1993年以後のカンボジアで生まれたようなアンダーグラウンドの世界が、ふと現れるかもしれない。

コロナ禍はいずれ終わる。今年中に終わる可能性が高い。その後に何らかの形でミャンマー国軍が排除されてミャンマー国内が奇跡的に民主化されるかどうか、ここに私は注目している。

今の段階でどう転ぶのか判断するのは時期高尚だ。

ブラックアジア・カンボジア編
『ブラックアジア・カンボジア編 売春地帯をさまよい歩いた日々(鈴木 傾城)』

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