その人の脳が老化しているというのは、まわりは気づくのだが本人はなかなか気づかない。なぜなら多くの人は自分を客観的に分析することがなく、常に主観で捉えているからだ。そうでなくても、人間は自分を客観視できない性質がある。老いはまわりから見て歴然としているのに自分では認められない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
頑固になり、怒りっぽくなり、新しいことを嫌う
「最近怒りっぽくなった」「異性に関心がなくなった」「物忘れがひどくなった」「身近な人の名前さえ忘れるようになった」「若い人と付き合うことがなくなった」「知っている漢字が書けなくなった」「2つ以上のことを同時にできなくなった」「何を見てもつまらない」
いくつも当てはまっている人はいるだろうか? これがいくつも当てはまっていると、脳が老化(劣化)してきた兆候だ。
「脳の老化は萎縮と共にはじまる」と言われるのだが、最初に萎縮してしまうのが前頭葉である。頭部の前側を占めている部分だ。前頭葉は「高度な知的作業を担う部分」なので、ここが萎縮するというのは「高度な知的作業が退化する」ということにつながる。
年齢がいけばいくほど、前頭葉の働きは鈍くなっていく。それによって様々な現象が起きてくる。精神的な柔軟性が消える。自発性も消える。感情のコントロールが効かなくなる。創造性が消える。
つまり「頑固になり、怒りっぽくなり、新しいことを嫌う」ようになる。人が老いていくと、誰もが一様にそのようになっていくのは、「前頭葉が老化してしまったから」であると言える。
では、いつからこの老化は始まるのか。
人によって違うが、早い人は40代から老化が始まっていく。脳を使っていない人であればあるほど老化は進んでいく。手足の筋肉でもそうだが「使わなければ退化する」のである。もっと正確に言えば、使わないところから退化していく。
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人間の身体は省エネにできている
脳を使っていなければ、脳は退化する。考えなければ、考えられなくなる。人間の身体は省エネにできているので、使わなければ「必要ない」と身体が判断して退化させるようになっているのである。
私は交通事故で半年寝たきりになったことがあったのだが、立って普通通りに歩けるようになるまでリハビリが必要だった。右足を骨折してずっとギブスをしていたのだが、ギブスを外すと私自身が声を上げてしまうほど右足は細くなっていた。
なるほど、人間の身体は使わなければ退化するのだと感じた瞬間だった。ちなみに、普通に歩けるようになると、右足の太さは見る見る回復して通常に戻った。あのまま歩けなかったら、私の右足は今も細いままだったに違いない。
右足の退化は目に見えた。だから、分かった。脳の退化は目に見えない。だから退化しても普通は気が付かない。そこに問題がある。
その人の脳が老化しているというのは、まわりは気づくのだが本人はなかなか気づかない。なぜなら多くの人は自分を客観的に分析することがなく、常に主観で捉えているからだ。そうでなくても、人間は自分を客観視できない性質がある。
老いはまわりから見て歴然としているのに自分では認められない。容姿の衰えも、体力の衰えも、知的能力の衰えも、本人よりもまわりが先に気づくのは、常に自分を主観的に見て客観的に捉えていないからである。
そのため、前頭葉がゆっくりと老化して自分の脳機能が低下していても、最後まで気づかないし、気づいても「まだ大丈夫だ」と思ってしまう。ふと気づいた時は、すでにかなり老化が進んでしまっていることになる。
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脳の老化は誰もが自覚しておくべき重要事項
ちなみに肥満の人も脳の劣化が早いことがよく知られている。肥満は脳の神経細胞を減少させてしまうのである。肥満は標準体重の人と比べると10歳ほど脳の老化を早めるのである。
肥満と糖尿病は密接な関係にあるが、この糖尿病も脳の神経細胞を破壊するアルツハイマー病を引き起こしやすいことが知られている。脳の神経細胞は常に糖を取り込まなければならないのだが、この時に必要な働きをするのがインスリンだ。
糖尿病はこのインスリンの分泌に問題が生じた病気であり、だから糖尿病と認知症は関連している。
こういったわけで、脳の老化はその人の生活習慣によっても体質によってもそれぞれ個人差があるわけで実年齢がすべてではない。脳の老化は年齢に関係なく、誰もが自覚しておくべき重要事項であるとも言える。
もっとも、気づいたところで「自分は頑固になり、怒りっぽくなり、新しいことを嫌うようになっている」と自覚して、それを避けるために「新しいことに挑戦する」とか「ライフスタイルを変える」ような行動を起こす人は、かなりの少数派である。
通常は脳の老化をそのまま放置してしまうので、脳の老化はますます加速していくことになる。老化は放置していると自然に治るものではない。何もしないで現状維持のままでいると、より悪化していく。
多くは、そのまま頑固を貫き通し、すぐに怒り、新しい時代がきてもずっと古いものにこだわって離れない。離れないばかりか、新しいものを完全に否定して柔軟に変われない。
たとえば、文明はすでにインターネットとスマートフォンによって再構築されているのだが、高齢者はいまだにスマートフォンは使わずに昔ながらの携帯電話、もっとひどい人は固定電話しか使わない。
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脳の老化を放置したくなければすべきこと
希望はある。脳の老化は、思い立てば限りなく後に延ばすことが可能だということだ。誰でも脳が劣化したまま放置したいと思っている人はいない。そうであれば、まず真っ先にやらなければならないのは、とにかく意識して「脳を使う」ということだ。
どうするのか。一番簡単な方法は「新しいことに挑戦する」ことだ。
今までやったことのないこと、興味があるがやらなかったこと、挑戦したかったこと、覚えたかったことに取り組んで見る。それが習得できるかどうかが重要ではなくて、新しいことをやっていて脳が活発に活動しているということが重要なのだ。
それこそ「日常生活を利き腕と違う腕を使って生活してみる」ということですらも脳を活発化させるというのだから驚く。要するに脳というのは刺激がない生活が続けば退化していき、刺激のある生活をしていれば進化していくのである。
もし、肥満や問題のあるライフスタイルであると自覚しているのであれば、それを克服するという挑戦はライフスタイルが健康になるばかりでなく、脳が活性化するという二重の効果が得られる。
見た目にこだわるというのも刺激になる。見た目年齢は実年齢よりも重要であるというのは以前にも触れた。(ブラックアジア:年齢がいけばいくほど格好をつけた方が健康に良い理由とは)
そこで、もう一度冒頭の質問を振り返って欲しい。
「最近怒りっぽくなった」「異性に関心がなくなった」「物忘れがひどくなった」「身近な人の名前さえ忘れるようになった」「若い人と付き合うことがなくなった」「知っている漢字が書けなくなった」「2つ以上のことを同時にできなくなった」「何を見てもつまらない」
こういう症状があったら、そろそろ「新しいことに挑戦する」時期が来ているということなのだ。私も、そろそろ「新しいことに挑戦する」時期が来ているというのは自覚している。
劣化により物忘れをしたりボサっとしたり、それで笑われたり役にたたないと思われても仕方ないですが、客観的にはおうおうにして理不尽であるだろう怒りに囚われて当たり散らかす婆にだけはなりたくないです。
きっとそれは手前の内部のうんとプライベートなルサンチマンや、もっと言えばオノレ自身への怒りとかが転嫁されてるんだろなと思うので、まだそこそこアタマの働くうちにオノレを反省猛省しないとと思う今日このごろであります…
本文最後に紹介されている本ですが、最近もっとも影響を受けた本の中の1つで
こちらで見かけて少しビックリしました。
アメリカでの出版、また翻訳版の日本での出版も10年くらい前のようですが
その後の研究の進展も知りたいです。
高負荷のかかる運動で脳内で起こる変化はとても興味深いです。