セルフネグレクト(自己放任)によるゴミ屋敷。私も何かあればそうなるのか?

セルフネグレクト(自己放任)によるゴミ屋敷。私も何かあればそうなるのか?

孤独によって心が荒んでいく人は多い。孤独がどうしても解消できず、「自分は社会に必要とされていない存在だったのだ」と悟った人はどうなるのか。やがて自暴自棄になり、世の中のすべてがどうでもよくなっていく。そんな中でゴミを捨てようという気になるだろうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

単身高齢者の男性がゴミ屋敷を作り出しやすいという傾向

今の日本の底辺で社会問題化しているのは、「ゴミ屋敷」「ゴミ部屋」問題である。

高齢者・中高年・若年層が、それぞれの理由で「ゴミ屋敷」「ゴミ部屋」を作り上げる。それこそ、生ゴミが部屋を占領して天井までゴミで埋まり、虫やネズミが這い回るような部屋になる。

しかし、今ではもうゴミ屋敷は誰も驚かない。それは日本の社会の中で一般化したのである。社会のあり方が変わらないのであれば、今後こういうゴミ屋敷・ゴミ部屋が日本でどんどん増えていくことになる。

単身高齢者の男性がゴミ屋敷を作り出しやすいという傾向はよく知られている。単身高齢者の男性は、会社を辞めると社会的なつながりがプツリと切れて、地域の付き合いもしないので、社会から断絶したような状態になるからだ。

単身世帯は、自分のことは自分で何とかしないといけないのだ。当初は何とかできるだろう。しかし、後期高齢者になればなるほど、ゴミの日を覚えたりゴミの分別をしたりすることができなくなっていく。

さらに認知能力や体力が衰えると、ゴミを出すということそのものが頭から抜けていくので、ゴミがどんどん部屋に溜まっていく。

地域とのつながりがあれば近所の人がフォローすることもあるだろうが、孤立化していると、誰も知らないところでゴミがどんどん部屋に溜まっていき、積み上げられていくのだ。

そして、いつしかそれが部屋や建物全体を覆い尽くすようになり、積み上げられるようになり、天井に届くほどまで溜まって虫が這い回る。

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バブル崩壊以後、子供世帯の経済状況はボロボロになった

日本は極度の高齢化社会である。しかも単身世帯も増えている。『日本の世帯数の将来推計(平成30年推計)』によると、2020年の今の日本は、

・総世帯5410万世帯
・単身世帯1934万世帯

で、約35%が単身世帯となっている。しかも、これが止められない高齢化によって、どんどん増えていくことになる。

社会が高齢化すると、配偶者が亡くなってしまう世帯が増える。今の日本は子供が親を引き取って一緒に暮らすという文化は消えているので、高齢者はひとりになるしかない。

多くの高齢者は、健康なうちから老人ホームには入りたくないと思う。金もかかるし自由もきかないからだ。かと言って、子供と一緒に暮らして死ぬまで子供に面倒を見てもらいたいとも思っていない。

非正規雇用者が莫大に増えていく中、子供たち世帯も余裕があるわけではない。下手したら、8050問題を見ても分かる通り、親が年金で引きこもりと化した子供の面倒を見ないといけない。

バブル崩壊以後、子供世帯の経済状況はボロボロなのである。それは親が一番よく知っていることだ。だから、単身世帯の高齢者は、子供にも世話にならずに生きる選択をする。選択の余地がない。

子供と親が近いところに住んでいて、密に連絡を取り合って行き来するような関係であればいいのだが、今の日本ではそうでない関係の家族の方が多いはずだ。

親は地方に住んでいて、子供は都市圏に出てそのまま都市圏で家族を持ったりすると、親の顔は盆や正月だけしか見ない、下手したら1年に1回も帰らないという子供もざらにいる。

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「自分は社会に必要とされていない存在だったのだ」

高齢者だけでなく、失職してしまった中高年や引きこもりから脱することができなくなってしまった若年層、精神的に病んで社会との接点が持てなくなってしまった人も極度の孤独に追いやられて社会との接点を失う。

孤独化すると、人間は心がどんどん荒んでいく。

単身女性がコロナ禍の中で家族とも友人とも関係が切れて底なしの孤独に追いやられ、やってはいけないような選択をしてしまう話さえもある。(ブラックアジア:自分が抱えている苦痛を忘れるために、ゆきずりの快楽で苦痛を上書きする

孤独に強い人もいるが、孤独によって心が荒んでいく人も多い。

孤独がどうしても解消できず、「自分は社会に必要とされていない存在だったのだ」と悟った人はどうなるのか。やがて自暴自棄になり、世の中のすべてがどうでもよくなっていく。

生きる気力を失ってしまうのだ。身なりも構わず、自分の人生や身体や生活をいたわることもなくなっていく。「ただ息をしているだけ」になってしまう。そんな状態で生きていても仕方ないとさえ思う。死んだ方がいいとも思う。

そうなった時から『緩慢な自殺』に入っていく。

まだ生きているが、精神的にはもう死んだも同然になるので、部屋がゴミ屋敷になろうが虫が這い回ろうがネズミが這い回ろうが、もうどうでもいい。

どうせ社会から必要とされていないし、誰も自分のことを気にかけてくれないし、会おうと言ってくれる人もいないし、自分から会う人もいない。孤独に押し潰されて生きる希望など消えた人間がどうしてゴミを片づけようと思うのか……。

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セルフネグレクト(自己放任)に陥ると、私もそうなってしまう

ゴミ屋敷・ゴミ部屋問題は、高齢者問題でもあるし、貧困問題でもあるし、8050問題でもあるし、引きこもり問題でもある。そして、孤独を生み出す社会のひずみの問題でもある。

これらの問題がすべて密接に絡み合って生まれている。

人間は誰もが高齢者になるし、場合によっては貧困化するかもしれない。コロナ禍で失職してしまった人もいれば、賃金が大幅に下がってしまった人もいる。事業をやっていた人は借金だけが残って倒産や清算に追いやられた人もいるだろう。

あるいは、政治が日に日に問題解決能力を失って漂流する中、生きるのに難しくなって心が壊れてしまうかもしれない。とすれば誰もがゴミ屋敷問題とは無縁ではないということでもある。

私はどうなのだろう……。

私もきっと無縁ではない。私は今までの数十年ずっと野良犬のように生きてきたわけで、社会とのつながりが深いわけでもない。私は人間関係を意図的に浅くして生きてきたので、誰も私とプライベートなつながりがない。

今までは運良くすべてを切り抜けられてきたが、精神的に壊れるとか、悪い女に騙されてすべてを奪われるとか、病気やケガで何もできなくなるような目に遭ったら、もう私は終わりなのである。

すべてを失って生きる気持ちもなくなり、日に日に身も心も弱っていく中でセルフネグレクト(自己放任)に陥ると、私も身のまわりを小ぎれいにしようと思わなくなるかもしれない。

何もしないで、死にたいと思いながら死にきれず、ゴミだけを積み上げる日々を生きるかもしれない。私にとっても社会との断絶や孤立が他人事ではない以上、ゴミ屋敷問題は他人事ではないものを感じる。背筋がひんやりするような、一抹の不安が心によぎる。

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