「働けど働けど猶わが生活楽にならざり。ぢっと手を見る」という詩を詠んだのが石川啄木だった。この詩を読むと、その切なさに誰もが胸が痛むに違いない。
私もそうだった。10代の頃、何かの本で石川啄木は朝日新聞の校正係の仕事を得たが、どんなに働いても暮らしが楽にならず、肺結核でわずか26歳にて死んだと知った。
貧しい暮らしに、働いても働いても暮らしが楽にならず、極度の貧困の中で押しつぶされて死んでしまったのか。なんと哀しい人生なのか……。私はそう思った。
「ぢっと手を見る」という詩は、本当に切実な貧困の叫びであると私は想い、石川啄木という日本史に残る詩人に同情したのだった。
あるとき経済評論家の邱永漢の本を読んでいたら、石川啄木という男がとんでもない借金魔で、あちこちから金を借りては踏み倒していた経済観念のない人間だったと書いてあった。
邱永漢は石川啄木のことを「どうしようもない人」だと突き放していたのだが、私はそれを知っても金持ち自慢が鼻につく邱永漢よりも、貧困で苦しんでいたという石川啄木の方に共鳴した。
「そうだったのか。石川啄木は赤貧で家族を養うことができず、莫大な借金を抱えて苦しんでいたのか。かわいそうだ」と私はなおも同情した。(鈴木傾城)