1974年に日活ロマンポルノで制作された映画に『(秘)色情めす市場』というものがある。この映画の舞台は、大阪最大のドヤ街である釜ヶ崎(現あいりん地区)である。
私が日本で一番気に入っている場所がここなので、この映画を観たいとずっと思っていたのだが、この情緒も欠片もない情けない題名に何となく気後れして今までずっと後回しにしていた。
とは言いつつも中が気になって仕方がないので、先日やっと意を決して観てみた。
結論から言うと、ここ10年くらいの中で観た映画の中でベスト中のベストの映画だったと思う。本当に素晴らしかった。文句なしに私が愛する日本映画の上位に入れたい映画でもある。もっと早く観ておけば良かったと心から悔やんでいる。
曲がりなりにもポルノを謳う映画でもあるので性行為はふんだんに出てくるのだが、今の感覚で言うとこれはポルノ映画ではない。一般映画とも言った方がいいくらい社会派の映画である。
恐らく一般受けしないとは思う。なぜなら、テーマが売春と貧困と絶望の映画だからである。
舞台はドヤ街、主人公は果てしなく身体を売り続ける女性、母親もまた売春で生きている飛田の女、主人公の弟は性に芽生えてサカリがついた知的障害者、出てくる男たちは釜ヶ崎の労働者……。
貧困まみれで、救いのない生き方に明け暮れる登場人物のアンダーグラウンドな世界を好んでのぞき込みたいと思う人は限られている。
しかし、映画に映っているのは、紛れもなく本物の釜ヶ崎である。撮影許可が得られなかったというのでゲリラ的に撮影したというこの映画は、1970年代の釜ヶ崎の光景を鮮烈に切り取って信じられないほどリアルだ。
この当時の釜ヶ崎の雰囲気を知るという理由だけでも観る価値はある。