EU離脱でイギリスは無傷でいられないが、本当の危機に落ちたのはむしろEUだ

EU離脱でイギリスは無傷でいられないが、本当の危機に落ちたのはむしろEUだ

移民・難民を大量に受け入れたドイツのメルケル首相は、もはやとっくの前に支持を失っており、もう「末期状態」だ。フランスもオランダも北欧も、移民・難民に融和的な政党が見捨てられつつある。今後、EUはブレグジットを見て「うちもEUを離脱すべきでは?」とそれぞれの国の国民が声を上げるようになっていくのは間違いない。ブレグジットによってイギリスは確かにダメージを受ける。しかし、本当のことを言えば、「もっとダメージ」を受けるのは実はEUの方である。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

2020年1月31日までにイギリスはEUを離脱する

欧米のマスメディアはずっとブレグジット(イギリスのEU離脱)を目指すボリス・ジョンソン首相を攻撃して、ブレグジットに反対してきたのだが、2019年12月12日のイギリス総選挙によって与党の保守党が過半数議席を獲得した。

これによってボリス・ジョンソン首相は明確にこのように国民に約束した。

『今回の選挙でブレグジットを実現するよう圧倒的な国民の信任を得たので、私たちは1月31日までにその信任に応える』

イギリスのブレグジットは、2016年に国民投票で決まったことなのだが、決まった直後からマスコミやリベラル政治家たちが、それを反故にしようと激しい反対運動を引き起こしてイギリスを分断させていった。

こうした状況を見て「イギリスは本当はブレグジットを実現するつもりなどさらさらなく茶番を演じているだけ」と冷笑して見ている人々もいたのだが、当のイギリス人は茶番でも何でもなかった。

イギリス人は本気でブレグジットを成し遂げたかったのである。しかし、イギリス人は別にEU(欧州連合)と完全に断絶したかったわけではない。貿易に関してはこれからもEUと関わり続けていきたいと考えている。

この姿勢はEUから見ると、どのように見えるのか。

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もはや「どっちつかず」がイギリスを閉塞させていた

EU(欧州連合)は「ヒト・モノ・カネ」をユニオン(連合)内で自由化するためのものだったが、イギリスはEUの通貨も使わず、さらに今回のブレグジットによって人の入出国の管理も取り戻してEUの規定に従わない。しかし、「モノ=貿易」だけは関わらせろと言っている。

EU(欧州連合)の基本方針は「ヒト・モノ・カネ」に制限を付けないというものであり、この理念の元に運営が為されている。つまり、イギリスのやっていることは、EUから見るとかなり自分勝手なものだった。

メイ首相が、どっちつかずでフラフラと揺れ動いて何も決められなかったのは、「離脱するなら、完全に、迅速に離脱せよ」と突き放されて、EU離脱の悪影響がどれくらいの規模になるのか推し量れなかったからでもある。

しかし、2016年の国民投票から3年も意見が対立して国民が分断する中で、イギリスの政治は空転し、もはや「どっちつかず」がイギリスを閉塞させていた。

ボリス・ジョンソン首相は、この「どっちつかず」を2019年12月12日の総選挙で勝利を得ることで、やっと打破することができた。この政治的空転が解消したことが好感されてイギリスの金融市場は軒並み上がっている。

しかし、この「好感」は長く続かないことが指摘されている。

なぜなら、イギリスは2020年1月31日にEU離脱すると、そこからEU市場に自由にアクセスすることができなくなり、経済的には大きな不利益を被ることになるからだ。

このような不安定さを抱えたイギリスに、これからも積極的に投資したいという事業家や投資家は少ない。そのため、イギリスには投資資金が「集まる」のではなく、逆に「逃げていく」現象が起きる。

もはや今までのように欧州と関われなくなるのが「ブレグジット」なのだから、それはイギリスの経済にダメージを与えることになる。このダメージはハードなものになるのか、それともソフトに起きるのかは分からない。

しかし、2020年のイギリスは波乱含みになるのは確実だ。

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国内の移民・難民リスクは看過できないものだった

イギリス人もブレグジットによって悪影響もあることは十分に理解している。しかし、それでもイギリス人はブレグジットを望んでいた。それは、メイ前首相が常々語っていた言葉でも明らかだ。メイ前首相はこのように言っていた。

「EU離脱を問う国民投票の結果から、国民のメッセージは明確です。ブレグジットするということは、ヨーロッパからイギリスに来る人たちの数をコントロールしなければならないのです」

イギリス人がブレグジットをしたい「理由」がここにある。「もうこれ以上、移民・難民をイギリスに入れるな。追い返せ」というのが、イギリス国民の偽らざる心境だったのである。

「無制限に移民・難民を入れて、これ以上イギリスの文化を破壊するな」とイギリス人は政府に突き上げたのだ。これはイギリス人が経済的優位よりも望むものだったのである。

イギリス人は移民リスクをこれ以上看過できない現象として見ている。イギリスでは2010年には移民が激しい焼き打ち暴動を引き起こし、その後も移民・難民たちによる強盗やレイプが多発していた。

しかも、リベラル系マスコミはこうした移民・難民の犯罪を隠蔽し、それを指摘する人間を「レイシスト」と決めつけて糾弾するようなことをしていた。

さらに移民が占拠したロンドンでは移民が白人を追い出して地域を占拠するような動きも広がって、しかもそこからISISに共鳴する人物がシリアに渡ったりしていた。

ISISの処刑人である「ジハーディ・ジョン」も、ロンドン訛りを話すクウェート出身のイギリス人であったが、こうしたテロリストまでもが堂々とイギリス国籍を取り、イギリスを拠点にしてテロ・ネットワークを作っていたのである。

さらに、「セックスのジハード」「ジハードの花嫁」と言って、こうしたISISのテロリストにセックスを提供する目的で、洗脳された女性がイギリスからシリアに渡るような動きすらも起きていた。(ブラックアジア:セックスのジハード。深く心酔すると、暴走して止まらない

誰が洗脳していたのか。アンジェム・チョウダリーのようなイギリス国内のモスクを拠点にしているイスラム聖職者である。この男は数千人規模でイギリスのイスラム教徒をテロリストに仕立て上げていた。

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本当に追い込まれているのは、実はEUの方だ

イギリス国内に巣食うイスラム系移民が数を増やすようになり、今ではパキスタン系のイスラム教徒サディック・カーンが市長に選ばれるという逆転現象まで起きるようになった。

イギリスは移民・難民に乗っ取られた。際限のない移民と難民の流入によってイギリス文化は破壊され続けていき、にも関わらずそれを指摘すると「レイシスト」呼ばわりされるので何も言えないような社会状況になった。

移民・難民を積極的に受け入れるべきというEUに対しても、移民・難民の犯罪を報道しないリベラル系のマスコミに対しても、イギリス国民は「我慢の限界」に達していた。

経済が悪化しても構わないから、手が打てるうちに移民リスクに手を打ちたいとイギリス人は願った。それが「ヒトを無制限に受け入れる」ことを強制するEUからの離脱につながっていったのだ。

このブレグジットによってイギリスは確かにダメージを受ける。しかし、本当のことを言えば、「もっとダメージ」を受けるのは実はEUの方である。

移民・難民を大量に受け入れたドイツのメルケル首相は、もはやとっくの前に支持を失っており、もう「末期状態」だ。フランスもオランダも北欧も、移民・難民に融和的な政党が見捨てられつつある。

今後、EUはブレグジットを見て「うちもEUを離脱すべきでは?」とそれぞれの国の国民が声を上げるようになっていくのは間違いない。経済的にはイギリスが正念場に立たされることになるが、その裏でEUそのものが存続の危機に陥ったと見るのが正しい。

アメリカのドナルド・トランプ大統領も、「移民・難民を大量に受け入れるEUみたいなものは壊滅すればいい」と冷笑している。イギリスは今後は無傷ではあり得ない。

しかし、本当に追い込まれているのは、実はEUの方である。

『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?: 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題(リンダ・ユー)』

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