貧困家庭の子供たちの絶望。政府はやっと「こども庁」を創設するが手遅れか?

貧困家庭の子供たちの絶望。政府はやっと「こども庁」を創設するが手遅れか?

貧困を余儀なくされている人たちを社会が救済できなければ、彼らの子供たちもまた貧困層から抜け出せなくなる。政府はこうした現状に危機感を覚え、だからこそ「こども庁」の創設に向けて動いている。この問題の対処を失敗すると、子供たちだけでなく日本にも未来はない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

貧困に育った子供たちは最初から重荷を背負わされている

日本には相対的貧困が定着した。だから、もう相対的貧困で騒ぐ人はいなくなった。定着すれば、それは日常である。日常は淡々と過ごすだけだ。そういうことだ。

相対的貧困は二人家族で年間の手取りが172万円を下回る世帯を指す。三人家族では年間手取り211万円未満を指す。日本における17歳以下の貧困率は13.9%であり、これは世界的に見ても高い数値にある。

相対的貧困の子供は7人に1人である。この子供たちは、満足に栄養が取れないとか、親から教育的な環境が与えられないとか、小遣いも与えられない等の不利な条件の中で知的能力を伸ばすことができず、資本主義社会の中で格差の底辺に追いやられていく。

現在、菅義偉《すが・よしひで》首相は「こども庁」創設に向けて動いているのだが、これは少子高齢化の解決と共に子供の貧困対策にも関わってくる庁であり、地味だが大きく日本の未来を左右する庁になる可能性がある。

こども庁には「こども支援局」が検討されているのだが、ここには子供のいじめ、虐待、貧困対策も盛り込まれている。誰もが知っている通り、いじめは貧困家庭の子供がされることが多い。虐待も貧困家庭の子供がされることが多い。そして、貧困は子供の知能を低下させる要因でもある。

こうした子供たちが努力して中学・高校を乗り切って大学に行こうとすると、再びここでも問題が起こる。大学進学の資金が親にないので奨学金を借りざるを得なくなるのである。

無理して「奨学金」という名の借金を背負って高校・大学に進学すると、社会に出た瞬間に莫大な借金を背負ってそれを返すためだけに人生を消費しなければならない。貧困に育った子供たちは最初から重荷を背負わされて不利な立場にある。

重荷を抱えきれない子供たちも多い。それが格差となって目に見えるようになり、その格差が固定化されていこうとしているのが今の動きだ。

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本人の努力が問われる以前に、親の収入の多寡も影響する

奨学金という名の学生ローンは重い借金である。利子はわずかであるとは言えども、仮に月8万円を4年間借りると総額は384万円となる。大学を出た瞬間に384万円がずっしりと肩にのしかかる。

今、奨学金が返せなくて次々と生活破綻していく学生が増えて社会問題化している。当然だ。384万円の借金を抱え、社会に出たら就職先がなく、やっと決まった就職先は低賃金だったり、ブラック企業だったりして生活が続かない学生も多い。

若い女性がガールズバーや風俗で働くのも、奨学金の返済に苦しんでいる姿が裏側にあったりする。大学を出て借金まみれになって風俗で働くのであれば、何のための大学だったのか、という話にもなる。

このように、貧困層の子供たちはどの段階でも長く厳しい現実が待っている。

一方、収入のある家庭の子供たちはのびのびと育つ。親は子供にいろんな習い事をさせることができる。塾にも行かせることができるし、家庭教師を呼ぶこともできる。勉強しやすい個室を与えることもできる。

また、親が精神的余裕も経済的余裕もあるので、子供に目をかけやすい。家族の団欒を持てたり、一緒に旅行ができたり、一緒に勉強したり遊んだりすることができる。子供たちが欲しいものを買ってあげることも難なくできる。

もちろん、すべての富裕層がそんな理想的な家庭ばかりではなく、それぞれ複雑な家庭の事情を抱えているのも事実だ。何の悩みもない家庭はひとつもない。

しかし、一般的な比較で言うと、総じて富裕層は子供に最適な環境を与えることができる。それが、子供の能力を伸ばすので、富裕層の子供に社会的能力の高い子供が多いのは別におかしなことでも何でもない。

子供が将来、社会的に成功しやすいかどうかというのは、本人の努力が問われる以前に、親の収入の多寡も影響するというのは以前からよく指摘されている。これは別に社会学者が統計を出さなくても、普通の人ですら日常を観察してしみじみと思う現象でもある。

成功者の子供たちは成功しやすい環境が整えられる。そうでない子供たちは脱落しやすい環境に放り込まれる。そういう現実が、ある。

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経済問題はありとあらゆる問題を先鋭化

虐待に巻き込まれる子供たちの家庭は、多くが経済的に問題を抱えている。シングルマザーの家庭で育った子供は、母親が連れて来た見知らぬ男に虐待されることも多い。(ブラックアジア:前夫の子供が邪魔になったので、虐待して殺すという事件

極貧の家庭は、常に何らかのトラブルに追い込まれている状態であると言ってもいい。親はストレスにまみれ、家庭そのものが機能不全と化している。

経済問題はありとあらゆる問題を先鋭化させる。親は生きていくだけで精一杯であり、子供の教育などはすべて後回しにされる。子供の能力はじわじわと潰される方向に追いやられていく。

子供に八つ当たりする。罵倒する。家庭を放棄する。習い事をさせる余裕もない。塾や家庭教師など、とんでもない話である。義務教育が終われば、あとは一刻も早く社会に出て金を稼いで欲しいと考える家庭も多い。

親が口に出して「働け」と言わなくても、子供たちは親の貧窮ぶりを見て育っているので、悠長に教育を受けるよりもさっさと社会に出て稼ごうと考える。

そうすると、低学歴で社会に出ることになって、結局はそれが仇になって低収入の仕事に甘んじるしかなくなっていく。もちろん、人脈やコネがあろうはずがなく、折に触れて助けてくれる人もいない。

富裕層の子供たちが多くの助言者を持っているのに比して、貧困層の子供たちは多くの悪い友人を持っていて、マイナスの方向に引っ張られやすい。アルコールやドラッグのようなものに早くから染まる危険も高い。

言うまでもなく、低学歴を余儀なくされた子供たちには、条件の良い仕事はあまりない。低学歴でもできる仕事というのは、賃金が低いか、極度に体力を使う仕事か、危険な仕事であったり、反社会的なものであったりする。

その仕事に就いていること自体がトラブルの元になり、やがては自分の人生がトラブルによって潰されることも多い。しかし、そこから逃れるとやはり低収入の仕事しかなく、将来の展望は見えてこない。

これはある意味、貧困家庭に生まれたことに原因があるという観察もできるわけで、「経済格差が遺伝する」というのは、こういった現象から言われているものだ。

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しかし、それで問題が解決されるのかどうかは分からない

日本は2000年代に入ってから、極度に格差が広がる社会になっている。(ダークネス:1971年〜1974年生まれは、自分たちは過酷な時代に生きる世代だと認識せよ

この「労働者使い捨て時代」に成人して社会に出た人々の少なからずは、今は40代に入ってなおも社会の底辺で苦しんでいる。

将来の展望もなく、低収入を余儀なくされている。結婚が激減し、少子化が加速しているのは、彼らが自らの生活を安定化させることができなかったからでもある。

もう賃金労働者の4割が非正規雇用者になっている。厚生労働省も低学歴の若年層になればなるほど、非正規雇用者になる確率も増えることを確認している。学歴の良し悪しで、最初からふるい落とされていく。

それでも非正規労働のまま努力し、結婚し、将来の安定のない中で子供を持つ人たちも、もちろんいる。

重要なのは、こういった貧困を余儀なくされている人たちを社会が救済できなければ、彼らの子供たちもまた貧困層から抜け出せなくなるということだ。それが見える形で出てきたのが「子供の貧困」問題なのである。

貧困が貧困を固定化させる現象が日本で生まれている。

今後、日本がこうした社会問題を放置し続けていくのであれば、最終的には社会的損失が限りなく広がり、最後には国そのものが貧困に覆われて衰退する。

ありつけるパイが小さくなっているのだが、その中で格差が拡大していくと、パイの大部分を恵まれた富裕層がごっそりと持って行き、残ったパイを大勢の貧困層が奪い合うという醜悪な社会になっていく。

政府はこうした現状に危機感を覚え、だから「こども庁」の創設に向けて動いている。しかし、それで問題が解決されるのかどうかは分からない。格差社会は、弱肉強食の資本主義が作り出している。それは、学歴や財力で「他人を蹴落とす人生ゲーム」を人々に強いる社会だ。

この根幹の部分が変えられない。

そのため、強者(富裕層)は総取りする。敗者(貧困層)は持っているものも奪われる。貧困層はますます貧困に追いやられ、いまや貧困層の子供が貧困層から抜け出せないという局面になってしまった。

政府はやっと問題意識を持って動き出したが、すでに手遅れなのかもしれない。

『チャイルド・プア~社会を蝕む子どもの貧困~新井直之(NHKディレクター)』

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