
極限の暴力と極限の快楽が、人間社会に底なしの闇を作り出しているのは分かっている。では「暴力と快楽」の追求が、人間社会から消える日が来るのだろうか。もちろん、そんな日は来ない。違法取引のビジネスをつぶさに観察すると、私たち人類は愛と平和を求めているわけではないことが分かる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
資本主義は違法取引を根絶できないシステムなのである
この世の中には「違法取引」というものが山ほどある。違法というからには、「売ってはいけないもの」を売るのだが、なぜ売ってはいけないものを売るのかといえば、そこに「需要」があるからである。
たとえば、象牙は世界中で違法だ。
欧米はピアノの鍵盤のために象牙を欲していて、日本は印鑑のために象牙を欲していて、中国は彫刻品のために象牙を欲している。
1989年のワシントン条約締結後から象牙は輸入禁止となったのだが、禁止されればより価値が生まれるのでそれを欲する人が生まれる。
闇でそれを売れば高く売れる。そうであれば、カネのために象を殺して象牙を密猟する人はいくらでも出てくるのである。(ブラックアジア:まったく減らない違法な象牙売買。その裏で起きていること)
違法取引されるのは、象牙だけではない。絶滅危惧種になっている多くの野生動物は密猟や輸入が禁止されているのだが、禁止されればされるほど闇では高値で売れるので違法取引は逆に活発になる。
資本主義は違法取引を根絶できないシステムなのである。
ところで。国家を揺るがす大きな違法取引は、大きく分けて3つあると言われている。その3つは、蔓延すると人々の人生を大きく狂わせ、放置しているとやがては国家そのものも成り立たなくなるほどの恐ろしいものである。
それは何か?
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最も活発かつ巨大な需要があるのは「武器」
国家を揺るがす大きな違法取引の巨大なものの1つは「武器」の取引だ。違法取引の何が巨大な需要になっているのかを見ると、私たち人類は愛と平和を求めているわけではないというのが見えてくる。
巨大な違法取引の中で、最も活発かつ巨大な需要があるのは「武器」である。人類は大量殺戮するための道具を欲しているのである。
地球上には紛争地区が山ほどある。シリア・イラク・アフガニスタン・レバノン・パレスチナ・アフリカ各国・中南米……。こうした国々では大量の銃や弾薬が消費されているのだが、消費するということは供給もされているということである。
南スーダンや中央アフリカやソマリアは食糧危機が起き、日用品が常に不足するほど何もない。しかし、武器だけは湯水の如く大量にある。なぜ武器がそんなに大量にあるのかと誰も問い詰めない。
多くの国で違法な武器弾薬が大量に売られ、そして消費されている。それが消費されるというのは、誰かが殺されるということでもある。多くの人たちが傷つき、そして涙を流す。
紛争地区では常に内戦が起きており、武器は生活必需品になっている。暴力がはびこった地域では、暴力から身を守るためにも武器がいる。それがまた暴力を生み出す。
内戦に明け暮れる国では、人々が武器を渇望しており、持ち込まれた武器は右から左へと売れる。売れるから、誰かが武器の密輸を行う。
こういった武器密輸を専門にやっている人間を「武器商人」「死の商人」と呼ぶ。彼らは往々にしてならず者国家と裏で結びついており、腐敗した独裁国家に武器・弾薬を大量に売りつける。
腐敗した独裁国家は、国民を弾圧するために、反政府グループを皆殺しにするために、略奪をするために、周辺国を侵略するために、とにかく大量の武器がいる。だから、それは供給される。
武器の違法取引は、常に巨大ビジネスなのである。
1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから
ドラッグもまた巨大な違法取引のビジネスになっている
ドラッグ……。
国家を揺るがす大きな違法取引の2つ目は、ドラッグの取引だ。薬物というのは、どれも本当に小さな小さな、まるで取るに足らないほどの小さなパッケージや錠剤で提供される。
しかし、そんな小さなパッケージひとつでも人生を崩壊させるのに十分だ。武器弾薬が人々を傷つけるように、ドラッグもまた多くの人たちを傷つける。
北朝鮮は覚醒剤の密輸国家として世界中でよく知られているが、ドラッグの密輸をしているのは北朝鮮だけではない。
メキシコでも、コロンビアでも、そしてアフガニスタンも、政府をもしのぐ巨大なドラッグ・カルテルが存在し、それが世界中に違法取引されて流通している。
どこの国でもドラッグは大きな需要があるが、すべての国でドラッグの持ち込みは厳しく禁じられている。だから、ドラッグの密輸は、手薄な国境を狙って、どんどん網の目のように広がっていく。
アフガニスタンは銃が大量に溢れている国家だが、貧困国家なのにどうやって莫大な武器弾薬を買っているのか。国家も反体制グループであるタリバンも、ヘロインの原料となるケシを栽培して、それを売ることによって武器弾薬と交換している。
メキシコのドラッグカルテルも大量の武器弾薬で軍隊なみの装備と私兵を擁しているのだが、その資金もまたドラッグを売ることによって手に入れている。
紛争国では武器弾薬に需要があって、先進国ではドラッグに需要がある。だから、武器弾薬と共にドラッグもまた巨大な違法取引のビジネスになっている。いくら表社会がドラッグの根絶を訴えても無駄だ。人類はそれを欲しているのである。
そして、このドラッグで作られた密輸ネットワークを使って、もうひとつの違法取引が行われている。
地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから
「暴力と快楽」の追求が、人間社会から消える日が来るのか?
国家を揺るがす大きな違法取引の3つ目は、人身売買だ。人間を売買する。
先進国で普通に生きている私たちは、人間が売り物であるなど想像もできない。しかし途上国では多くの子供たち、女性たちが、強制労働、臓器売買、性的搾取を目的として普通に売られていく。
昔は奴隷売買というものもあったが、資本主義の世界では今も昔も人間は売り物なのである。犠牲になりやすいのは少女たちや女性たちだ。社会の最も弱い存在が人身売買のターゲットとなる。
彼女たちはまるで市場で売られている肉か何かのように、値段を付けられて親から切り離される。そして、見知らぬ国の見知らぬ場所に連れて行かれ、そこで肉体を売らされる。
彼女たちには拒否権も選択権も何もない。やがて、彼女たちはそれを運命として受け入れ、永遠に続く地獄の中で自分の人生を消耗する。
武器弾薬。ドラッグ。人身売買。
この3つの違法取引は、途上国を中心にして世界中に大きなネットワークが構成されており、アンダーグラウンドの闇の中で恒常的に売買が繰り返されている。
この3つの違法取引で共通する部分があるとすれば何か。
それは、「一回の取引で莫大な富を得ることができる」ということだ。多額の現金が闇から闇へと動いていく。だから、カネのために違法取引に手を染める人間が次から次へと出てきて、巨大な需要を埋めていく。
極限の暴力と極限の快楽が、人間社会に底なしの闇を作り出しているのは分かっている。では「暴力と快楽」の追求が、人間社会から消える日が来るのだろうか。もちろん、そんな日は来ない。
違法取引のビジネスをつぶさに観察すると、私たち人類は愛と平和を求めているわけではないことが分かる。
どんなに時代が進んでも人間の本質が変わることはないのであれば、これからも武器弾薬・ドラッグ・人身売買は続いていくことになるのだろう。

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