英語名(イングリッシュネーム)。日本の子供たちも英語名になるのか?

英語名(イングリッシュネーム)。日本の子供たちも英語名になるのか?

香港はイギリスの植民地だった歴史もあって、英語名(イングリッシュネーム)が社会に定着している。

私は最初、このイングリッシュネームというのは香港人が統治国イギリスに憧れて勝手に付けたものだったのかと思っていた。しかし、調べて見るとまったくそうではなかった。

中国語の声調が英語では表現できずに名前がうまく判別できず、イギリス人が中国人の名前を便宜上「分かりやすくするため」に付けたのが始まりだった。

武(ウー) 伍(ウー)
黄(ウォン) 王(ウォン)
麻(マー) 馬(マー)
張(ジャン) 詹(ジャン)

中国語では、漢字も声調も違うのでそれぞれが違う名前であるというのが明確なのだが、英語では漢字もなければ声調もないので「みんな同じ」になってしまう。

早い話が、イギリス人は中国人の名前を、発音することもできなければ区別することもできなかったのである。日本人は漢字があるので字を見れば違う名前であることくらいは判断できるが、やはり発音に関しては訓練が必要になる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

英語名(イングリッシュネーム)

漢字と声調によって区別ができる中国語と、漢字も声調もなくて区別ができない英語。香港では、この溝を埋めるのが、英語名(イングリッシュネーム)という工夫だった。

当初は「中国語で話す時は本名、英語で話す時はイングリッシュネーム」という使い分けになっていたようだが、今では日常的にイングリッシュネームが使われていて、IDカードにもイングリッシュネームが併記されるほどになっている。

日本人にもよく名前が知られている香港人と言えば、映画俳優の「ブルース・リー」や「ジャッキー・チェン」、あるいは歌手として日本でデビューした「アグネス・チャン」などではないか。

彼らの名前はすべてイングリッシュネームであって本名ではない。本名を聞いても、日本人はそれが誰なのか分からない。

ブルース・リー=李小龍(リー・シャオロン)
ジャッキー・チェン=陳港生(チャン・ゴンサン)
アグネス・チャン=陳美齡(チャン・メイリン)

このイングリッシュネームというのは、何か選択する法則があるのか。アグネス・チャンの「アグネス」はイングリッシュネームであると同時にカトリックの洗礼名でもあるようだ。

しかし通常、香港人は好きにイングリッシュネームを付けている。特に何らかの法則に乗っ取って選んでいるわけではない。自分の好みだ。好きにやっているので、時には問題も起きている。

英語圏の文化を無視して自分の感性のままイングリッシュネームを付けるので、女性が「チェリー(処女の暗喩)」と付けたり、男性が「ディック(男性器の暗喩)」を付けたりすることもある。

さらに、女性が男性名のイングリッシュネームを使ったり、その逆に男性が女性名のイングリッシュネームを使ったりするケースですらもあったりして、中国人のイングリッシュネームは英語圏には一種の滑稽さをも生み出している。

ブラックアジアでは有料会員を募集しています。よりディープな世界へお越し下さい。

「エリザベス」という名の女性

何度か香港に行ったことがあるが、そこで知り合った女性のひとりが「エリザベス」だった時の衝撃は今でも覚えている。

安い場末の中華料理店で大声で中国語をわめき散らす粗野で若い中国人女性が「エリザベス」なのである。

彼女が「エイミー」や「サリー」みたいな名前だったら、特に何も感じなかったのかもしれないが、「エリザベス」には強いインパクトを感じた。

別にエリザベスが悪いというわけではない。イングリッシュネームなのだから、エリザベスが選択される余地は十分にある。

しかし、当時は何となくエリザベスという名前に高貴なイメージを勝手に抱いていた私にとって、その違和感は計り知れないものがあったのだった。無意識に自分の中にあったエリザベスという名前に対する「品」が一気に崩壊していく気分はなかなか味わえるものではない。

エリザベスほど強い衝撃はないが、それでもどこから見てもアジア人の女性が「スーザン」だとか「ミシェル」だとか「アンジェラ」だとか「イザベラ」だとか「ティファニー」とか言うと、今もで微かな「引っかかり」が心にあるのは事実だ。

別にアジア女性がイングリッシュネームを使うのに抵抗があるとか、悪いとか、受け入れがたいと思っているわけではない。

そうではなくて、何か「場違い」のような、「冗談」のような、「子供のお遊び」のような思いがうっすらと浮かんでは消える。

慣れの問題もあるのかもしれない。日本にはイングリッシュネームという文化はまったくないし、「日本もイングリッシュネームを持つべきだ」というような主張をする人もいなければ、積極的に自分をイングリッシュネームで呼ぶ一般人もいないからだ。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

イングリッシュネームを持ちたいだろうか?

このイングリッシュネームの文化は香港・マカオだけの文化だった。

しかし、中華圏の人々はよほどイングリッシュネームが気に入ったと見えて、台湾人もシンガポール人も、今では中国本土の人間もみんなイングリッシュネームを持とうとしている。

中国では気安く相手の名前を呼ぶのは憚れる文化があるのだが、イングリッシュネームではかなり気楽に呼べるという事情もあるようだ。イングリッシュネームは閉塞的な文化を回避して相手の名を呼べる利便性もそこにあったのだ。

ただし、イングリッシュネームにまったく抵抗を持っていないのは実際のところ香港人だけで、香港を真似している台湾人や中国本土の人間たちは、やはり本名の方で呼び合う方が落ち着くようだ。

イングリッシュネームで日常的に呼び合うのは、どうしても「場違い」のような、「冗談」のような感覚を持つのだろう。

日本も欧米列強に植民地にされた歴史はないし、国を捨てて海外に移住する民族性もないので、ほとんどの日本人は自分にイングリッシュネームを付けるという発想はない。

グローバルにビジネスを行う日本人の一部には、どうしても名前を覚えてもらう必要に迫られてイングリッシュネームを取り入れるビジネスマンもいるが、本名で通す人の方が圧倒的に多い。

また、あだ名でも「エドワード」だとか「エリザベス」と呼ばれるような人は、皆無ではないかもしれないが、ほとんどいないはずだ。

ただ、日本にも欧米人風の名前に憧れる人がたくさんいて、そういう親が自分の子供に工夫しながら漢字と読みを欧米人風の名前にしようとしている。

たとえば、「詩音」と書いて「ショーン」と読ませるとか、「路月」と書いて「ロッキー」と読ませるとか、そういう工夫が流行っているようだ。日本にもいずれ「エリザベスちゃん」が生まれるのだろうか。これからどうなるのか興味深い問題だ。

ところで、あなたはどうだろう。イングリッシュネームを持ちたいだろうか?(written by 鈴木傾城)

香港・雨傘運動の女王アグネス・チョウ。彼女の「アグネス」もイングリッシュネームで、本名は周庭(チョウ・ティン)。しかし、彼女を本名で呼ぶ人よりも、イングリッシュネームで呼ぶ人の方が圧倒的だろう。

この記事のツイッター投稿はこちらです

この記事を気に入って下さった方は、リツイートや♡(いいね)を押して頂ければ励みになります。

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

一般カテゴリの最新記事