(ノックスクートが事業清算に追い込まれて、従業員も全員解雇という悲惨な末路に追い込まれてしまった。あらためてこの記事を読んで欲しい)
ウイルスの感染者はまだまだ増えていくが、感染の脅威がさらに深刻になっていくと、もっと航空会社を追い詰めることになる。2020年の初頭からこのような問題が起きているので、航空業界が不振から抜け出すことは難しい。私は東南アジア系の空港会社が好きなので、シンガポール航空や、タイ航空等のフラッグキャリアには何とか生き延びて欲しい。とは言っても、タイ航空には「本当に経営が持つのだろうか」と不安もよぎる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
新型コロナウイルスの影響は東南アジアにも及んでいる
新型コロナウイルスの影響は東南アジアにも及んでいる。2月17日時点の集計なので、数字はすぐに変化するが、一応記しておくと以下のようになっている。
香港の感染者57人。
シンガポールの感染者57人。
タイの感染者34人。
ベトナムの感染者16人。
マレーシアの感染者22人。
カンボジアの感染者1人。
フィリピンの感染者3人。
インドネシアの感染者0人。
インドネシアの感染者が「0人」というのは、なかなか目立つ。インドネシアの人口は約2.6億人であり、中国人観光客は年間160万人超の規模にも関わらず「感染者0人」なのである。
しかし、アメリカの研究者はこの結果を疑問視しており、本当はしっかり検査していないか、インドネシア当局がわざと隠蔽しているのではないかと意義を表明している。
当のインドネシア国民からも「おかしすぎる」という声が上がっている。インドネシア政府は「何も隠していない」と反論しているので実態は分からない。
カンボジアも本当に感染者が1人なのかどうか怪しいと言われている。カンボジアはクルーズ船「ウエステルダム」の乗客乗員を検査して「少数の検査の結果、陰性だった」と報告したのだが、カンボジアからマレーシアに移動した乗客はマレーシア側の検査で陽性だと発覚した。カンボジアの検査は杜撰だったのだ。
こうしたこともあって、クルーズ船の経営は壊滅的なダメージを受けているのだが、さらに見過ごせないのは航空業界である。今回の新型コロナウイルスの騒動で、航空業界は存続の危機にまで追い込まれるところも出てくるのは間違いない。
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航空会社ほどビジネスとして割の合わない業種はない
新型コロナウイルスがいくら流行しているからと言って、人は朝から晩まで家に籠もりっきりでいられるわけがない。仕事をしなければならないし、人に会わなければならないし、雑踏の中を出かけなければならないし、公共の乗り物に乗らなければならない。
いくら都市を閉鎖しても、それをいつまでも続けることはできないのだ。つまり、新型コロナウイルスは基本的にワクチンが開発されるまで収束できない問題だ。
しかし、そのワクチンは今日開発して明日には発売されるわけではないので、数ヶ月以上はかかる。本当に効果的なワクチンは1年以上かかるかもしれない。
とすれば、それまで人々は行動を控え、旅行を控え、飛行機に乗るのを控えることになる。私自身も3月に東南アジアのどこかに行く予定だったが、1月下旬の時点で「これは駄目だ」と考えて旅行の予定をすべてキャンセルした。
私だけではない。世界中のすべての旅人が同じ決断をしている。
国際民間航空機関(ICAO)は、『世界の航空会社の売上高が今年第1・四半期に40億ドルから50億ドル減少する可能性がある』と試算を出している。日本円にすると4400億円から5500億円が吹き飛ぶということになる。
航空会社はどこも非常に難しい経営を迫られる。もともと負債の多い航空会社が多いこともあって、今年は多くの航空業界が破綻していくのではないか。外部的要因で客が来ない以上、営業努力など不可能なのである。
考えてみれば、航空会社ほどビジネスとして割の合わない業種はない。すでに航空会社の従業員は無期限休暇やリストラで整理されはじめているのだが、投資家もまた大打撃を受けることになる。
私は旅人であった期間が長かったので、空港や飛行機を見ると今でも胸がときめくような高揚感を感じる。しかし、こうした高揚感とは別に今まで一度も航空会社に投資したいと思ったことがない。
1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから
航空業界にダメージをもたらす10つの問題
見た目の派手さや世間の評価とは裏腹に、航空会社については冷ややかな投資家も多い。投資をしても、利益が出るかどうかは「運次第」だからだ。
1. 景気が落ち込めば収益にダメージを受ける。
2. 人件費の高騰で収益にダメージを受ける。
3. 装置の維持で収益にダメージを受ける。
4. 価格競争で収益にダメージを受ける。
5. 燃料の高騰で収益にダメージを受ける。
6. 墜落事故で収益にダメージを受ける。
7. パンデミックが起きると収益にダメージを受ける。
8. 天変地異が起こると収益にダメージを受ける。
9. 戦争やクーデターやテロ等で収益にダメージを受ける。
10. 労働組合のストライキで収益にダメージを受ける。
航空会社は資本集約型のビジネスから脱却することは不可能だ。メンテナンス・修繕・新機購入と、毎回毎回、ありったけの資本が食われ続ける。
エコノミークラスがいくら満杯になってもペイできない。それにもかかわらず、価格に対して影響力を行使できない。
ところが、こんな状況なのにどこの国も国営の航空会社を持ちたがる。航空会社は見た目も華やかで、いかにも先進国的だからだ。しかし、だいたいは上記の理由で国のお荷物になっていく。
それでも見栄や外見のために、国は航空会社の赤字の尻拭いをせざるを得ない。世界中、状況は同じだ。インドでも、カンボジアでも、タイでも、インドネシアでも、状況は変わらない。
先進国を見ても変わらない。日本でも、アメリカでも、スイスでも、イタリアでも、世界中どこを見回しても航空会社は順調ではない。発展著しい中国でさえ航空会社を山のようにつぶしている。
人件費の高騰や、非効率や運営、競争の激化、燃料の高騰というお馴染みの構図に飲み込まれていて、存在するだけで赤字を垂れ流す構造になることが多い。
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タイ航空は危機感を持って乗り切って欲しい
航空業界はグローバル社会になくてはならない存在であるにも関わらず、その経営基盤は強固になり得ない難しい構造がある。それでも、合理化と効率化が為され、競争と淘汰を経てどこかが真の意味の独占企業として生き残るだろう。
しかし、生き残ったからと言って安泰ではないのは、今回の新型コロナウイルスの蔓延で一気に追い込まれていく航空業界の姿を見ても分かるはずだ。
2019年12月31日の段階で「来年は得体の知れない感染症で航空業界が苦難に落ちる」などと予測できていた人はひとりもいなかった。それは突如として問題になって、一瞬にして世界を覆い尽くし、航空業界にダメージを与えたのだ。
新型コロナウイルスに感染した人が隣に座るかも知れないと思ったら、飛行機に乗りたいと思う人間も激減していく。
ウイルスの感染者はまだまだ増えていくが、感染の脅威がさらに深刻になっていくと、もっと航空会社を追い詰めることになる。
2020年の初頭からこのような問題が起きているので、航空業界が不振から抜け出すことは難しい。私は東南アジア系の空港会社が好きなので、シンガポール航空や、タイ航空等のフラッグキャリアには何とか生き延びて欲しい。
とは言っても、タイ航空には「本当に経営が持つのだろうか」と不安もよぎる。
何度も何度もタイを訪れている私は、タイ航空には想い出がいっぱいだ。しかし、タイ航空は2019年の段階で250億円近い赤字を抱えており、本当のことを言えば10年前に潰れていてもおかしくないような杜撰な経営をしている企業でもある。
2019年には、私もとうとう格安航空でタイに向かうようになった。(ブラックアジア:格安航空会社の狭い座席に6時間耐えてタイ行ったが、意外と何とかなった)
LCCも生き残りのためにもっとアグレッシブに価格競争を仕掛けていくだろうから、新型コロナウイルスのダメージと累積赤字の積み重ねでタイ航空などはいよいよ終焉を迎えるのではないかと懸念している。
いや、タイは格安航空会社も経営はうまくいっていないので、ノックエアも含めて全滅するかもしれない。しかし、フラッグキャリアとしてのタイ航空が消えてなくなるのはいかにも衝撃が大きい。
想い出が潰れるのは見たくないので、タイ航空は危機感を持って乗り切って欲しいものだ。株を買って応援まではしないが……。
追記
ノックスクートが事業清算に追い込まれてしまった。ユニークでとても愛嬌のある顔立ちの飛行機で、「タイらしい」と思っていたのだが、わずか6年の命だった。タイ航空も事業体としては死んだも同然で、LCCも次々と苦境に落ちていく。コロナショックはまだまだ続くが、果たしてどうなることやら……。
タイを拠点とする格安航空会社(LCC)ノックスクートは26日の取締役会で事業終了と会社清算を決議した。バンコクを拠点にアジアで国際線を運航し、日本にも就航していた。新型コロナウイルスの影響で事業継続が困難と判断した。425人の従業員は解雇された。親会社のタイLCCノックエアラインズと、シンガポール同業のスクートが発表した。タイを拠点とする航空会社の経営破綻は、タイ国際航空に続き2社目となる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60881550W0A620C2FFE000/
私の知り合いにスチュワーデスになりたいという子がいましたが、途中で進路を変えて丸の内にある会社の受付嬢になりました。本人はスチュワーデスに未練があったみたいですが、航空業界って経営が厳しいのですね。受付嬢でよかったのかもしれません。派手な業界って内情はみんなこうなんでしょうかね。汗
そう言えば、日本のナショナルフラッグのJALも増資した後倒産した事がありました。
食い逃げ増資と非難されましたが、投資したお金は返ってきませんからひどい話です。
昔は海外はJAL、国内はANA、ローカルはJASと住み分けしていました。JALがJASを吸収合併するのですが、高コスト体質は変わらず傘下に沢山の組合を抱え込んでしまい、これも倒産の遠因になったと言われています。
確かに航空会社の経営は外部要因によって左右されるので、経営は楽ではありません。サーチャージ制を導入して燃料高沸の悩みは減りましたが、LCCと言う強烈なライバルが現れます。LCCの代表格のエアアジア等のキャンペーン価格は成田~バンコクの往復で2万円を切る値段を出してくるのですから、とても競争になりません。
しかしLCCとは安売り航空会社ではなく、ローコストキャリア=コストが安い航空会社という意味ですから年中安い訳で無く、食事をつけて機内預け荷物を預けたりすると時にはANAより高くなる事もありますから注意が必要です。