何気なく買った土産物で終身刑になる? 東南アジアではあり得ることだ

何気なく買った土産物で終身刑になる? 東南アジアではあり得ることだ

2018年5月9日、バンコクのドンムアン空港で27歳の日本人ヒラノ・タケルという日米ハーフの男が逮捕されている。

この男は成田行きのエア・アジアX606に乗り込もうとして荷物をX線検査に通したのだが、そこで弾倉23個とクレイモア地雷の一部などが見つかり、武器不法所持とテロ容疑で逮捕されたのだった。

もっともこれらの弾倉や地雷は、ヒラノ・タケルがベトナム・ホーチミン市のベンタイン市場で「土産として売っているものを買っただけ」のもので使用可能なものではなかった。

恐らくヒラノ・タケルは悪気がなかったはずだ。また、テロを起こそうという気もなかったはずだ。もしテロを起こすのであれば、使えない武器をカバンに入れて空港で持ち込むような間抜けなことはしない。

2015年にISISに拘束されて斬首された湯川遥菜の例もあるように世の中には「武器マニア」がいる。使えなくても、こうしたものを所有したいと思う人間がいる。

ヒラノ・タケルという男もまたこうした男のひとりであったと見るのが自然だ。

しかし、弾倉や地雷がカバンに入っていたら誤解されても仕方がない。しかも、弾倉が23個もあったのだ。タイ警察はヒラノ・タケルをテロリストと認識した。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

空港というのは、本当は「恐ろしいところ」だ

この事件はタイで大々的に報道されているのだが、恐らくヒラノ・タケル自身が自分のしたことの深刻さに驚いているはずだ。これでヒラノ・タケルはどうなるのか。

タイでは使用不可の武器でも無許可所持は禁止されているので、下手すると「最高で終身刑の可能性もある」と報道されている。

彼に違法という認識はなかったので、情状酌量の余地は大いにある。さすがに終身刑はないと願いたいが、それでも懲役2年くらいは食らうかもしれない。

タイでは深南部(ディープ・サウス)地区でしばしば独立派による爆発テロが引き起こされたりしているわけで、タイ当局はこうした兵器の持ち込みは非常に厳しく対応している。

「下手なものは持たない」「もし誤解されるようなものを持つのであれば前もってしっかり調べる」というのが旅人の鉄則だが、これを怠ると「悪気がなかった」としても懲役刑に処せられても仕方がない。

空港というのは、本当は「恐ろしいところ」なのである。

日本人で兵器の持ち込みで逮捕されたというケースはあまり聞いたことがないが、日本にも兵器マニアが存在するのだから私たちが知らないだけで実際には他にもあるのかもしれない。

ヒラノ・タケルが兵器を持ち込むのを見て「軽率だ」と考える人もいるはずだ。しかし、実は多くの人が実際には関税法で禁止されているのに「知らずに持っていた」というものが意外に多くある。

ヒラノ・タケルはベトナムの市場で「土産物」として何気なくこうした弾倉や地雷を買ったのだが、土産物が原因で揉めるのは珍しい話ではない。

たとえば、タイで外国人が最も多く集まる場所としてパッポンやカオサンは非常に有名な場所だ。

こうした観光地ではロレックスのニセモノ時計や、ルイヴィトンのパクリ製品の財布やカバン、あるいはシャネルのニセ香水などがごく普通に売っている。

白人(ファラン)も中国人も日本人も嬉々としてこれらを買っているが、ニセモノなのでバレれば空港で没収される。土産物として売っているのに、持って帰ったら違法なのである。

 

2000年代の半ばは多額の現金を持ち出す人がいた

タイではヤードムという「鼻から吸う嗅ぎ薬」というものがあって、現地ではコンビニでも薬局でもどこでも売っている。

うだるような暑さの中で、ミントの刺激を嗅ぐと頭がしゃきっとするので日本人の中でも病みつきになる人もいる。(ブラックアジア:ヤードム。熱帯の国タイの、鼻から吸う清涼感が忘れられない

コンビニで売っている最近のヤードムは問題ないのだが、ヤードムの一部には「L-デソキシェフェドリン」という覚醒剤の成分が含まれているものがある。

これが日本では違法なので持ち込めなかったりする。しかし、知らないで持ち込んだ人は多い。

多額の現金を持ち出すのも禁止だ。2000年代の半ば頃だったと思うが、香港やシンガポールの空港で多額の現金をスーツケースに詰めて持ち出す日本人が続出していて問題になったことがあった。

何があったのかというと、この頃は「外国の銀行に金を預けて税金逃れしよう」という主旨が大流行していたのだ。当時は政治が混迷している時期であり、民主党が急激に台頭している時期でもあった。

多くの日本人が不穏な空気を感じて日本から現金を持ち出して国外の銀行に金を預けようと動いていたのだ。いわゆるキャピタルフライト(資産逃避)である。

実はこの動きは正しかった。なぜなら、2009年には本当に民主党政権が誕生して、その後の3年間で日本は崩壊寸前にまでなっていたからだ。

2012年12月の総選挙で第二次安倍政権が誕生して日本は持ち直していたが、これがなければ日本は本当に瓦解していた。こうした動きもあったので、2000年代の半ばに資産逃避をするというのは、極めて合理的な判断であったと言える。

シンガポールでこのようなキャピタルフライトをコンサルしていた人物に接触したことがある。

彼は「日本の事業家がスーツケースに数億円詰めてやってきて、それをすぐに銀行に持っていって預金するのを手伝っている」と私に話した。

「多額の現金を申告しないで持ち運ぶのは違法ですよね?」と私が言うと、彼はニヤリと笑ってこう答えた。

「大丈夫ですよ。捕まりっこありません。日本人は違法なことはしないと信用されてますからね」

実際には香港やシンガポールで少なからずの日本人が揉めていたが、氷山の一角であるということなのだろう。

「誤解を招きそうなものは持たない」は重要だ

私も意外なもので別室に連れて行かれたことがある。

スリランカでコロンボからジャフナに入ろうとしたとき、空港の職員が私のバックパックの中に一眼レフのカメラとレンズが入っているのを見て「これは持ち込めない」と言った。

ジャフナは戦争地帯で当時は一時休戦の時期だったのだが、ジャーナリストの出入りは禁止されていた。私はただの旅人でありジャーナリストではなかったので、その旨を説明したのだが「ではジャフナで何を撮るのか?」と詰問された。

“Woman”(女性です)

本当のことだったが、納得してもらうまでかなりの時間がかかった。結局、私は飛行機に乗れたのだが、カメラが問題になったというのは強く印象に残っている。ところ変われば何気ないものも「危険物」になってしまうのだ。

「何気ないもの」と言えば、EUではバイオリンの持ち出しが禁止されていた時期があって、2012年に日本人の演奏家が高額なバイオリンを没収されるという事件もあった。

まさか、楽器が関税法の対象になるとはいったい誰が想像するだろうか。

2001年のアメリカの同時多発テロ事件以後は、爪切りや、ドライバーや、ただの飲み物さえも機内に持ち込めなくなっていった。

そして、パソコンの部品が爆弾の材料になるということが分かってから、航空会社によってはパソコンすらも機内持ち込みを禁止するところも出てきた。

違法であるという意識がなくても、違法になってしまうのは案外多いのである。

もっとも、違法であるということを認識していながら持ち込まれるものも多い。カネになるからだ。

最近は生きたカワウソを日本に持って帰ろうとした日本女性がいたのだが、野生動物の密輸は今も相変わらず多い。(ブラックアジア:トカゲや猿を10匹売れば、1年は遊んで暮らせる金額になる

生きた野生動物だけでなく、剥製や毛皮も禁止されている。もちろん象牙もダメだ。

象牙のせいで野生の象は悲惨なことになっているのは日本人はあまり意識していない。(ブラックアジア:まったく減らない違法な象牙売買。その裏で起きていること

国によって文化が違い、文化が違うと、一方では許可されているものが一方で禁止されていたりする。その最前線が空港なのである。

「その国をよく理解する」「誤解を招きそうなものは持たない」というのは重要だ。さもなければ、土産物で兵器の一部を何気なく買って、終身刑の危機に瀕しているヒラノ・タケルのようになってしまう。(written by 鈴木傾城)

「その国をよく理解する」「誤解を招きそうなものは持たない」というのは重要だ。さもなければ、土産物で兵器の一部を何気なく買って、終身刑の危機に瀕しているヒラノ・タケルのようになってしまう。

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