
ギャンブル依存症の人はその多くが自分の人生に不満や経済的ストレスを持っている人であるとも言える。しかし、現代人で経済的ストレスがない状態で生きている人は、逆に少ないのではないだろうか。それは、どういうことかというと、誰でもギャンブル依存者に陥る可能性があるということなのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
彼らも普通の人だった?
ギャンブルにのめり込み過ぎて、失職したり、離婚したり、莫大な借金を抱えることになってしまった人を身近で見たり聞いたりすることは多い。中には金策が尽きて、横領などで逮捕されてしまうような人もいる。
こうした人たちを見て、彼らを「もともと社会の落伍者だった」とか「最初から社会不適合者だった」と思う人も多い。しかし、ほとんどのギャンブル依存者は、最初からそうだったわけではない。大半は、「普通の人」だった。
ギャンブルにハマる前は、結婚して、子供もいて、安定した仕事もあって、絵に描いたような「普通の暮らし」をしていたのだ。ギャンブル依存症にならなければ、彼らは良き市民として日常を過ごしていたはずだ。。
厚生労働省の調査方法の違いにより正確な増減は評価できないのだが、推定でいうと日本には300万人近いギャンブル依存者がいる。
彼らの大半は、ふとした「きっかけ」でギャンブル依存に落ちて、普通の生活を破綻させていった。「きっかけ」というのは、どれもほんの些細なものだ。
「友人や同僚からの誘いでやってみたら、そのままハマってしまった」「ビギナーズラックで大勝ちして、そのままハマってしまった」「喪失感や孤独感から、逃避先としてハマってしまった」「知人がギャンブルで成功した話を聞き、自分もできるかもしれないと思ってハマってしまった」……。
こういう「きっかけ」は、誰にでもある。普通であれば、それだけで依存にまで落ちないかもしれない。ところが、そのときの気分や感情で、たまたまギャンブルとの歯車が合ってしまったとき、依存の沼に落ちてしまうのだ。
きっかけが何にしろ、いったん「沼」に落ちて這い上がれなくなると、人生はいとも簡単に壊れてしまう。
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人は往々にしてのめり込む対象を間違う
依存は誰にとっても、他人事ではない。人間であれば、つねに何らかの執着があったり、どうしても譲れないものがあったり、のめりこんでしまうものが出てくる。みんな、ひとつやふたつは、そういったものを持っている。
それ自体は別に病気でもない。勉強や研究や仕事にのめり込んで、人生を成功させる人もいるのだから、のめり込むこと自体は悪いことばかりではないし、社会に役立つのめり込みを追求するのもひとつの生きかたでもある。
しかし、人は往々にしてのめり込む対象を間違うのだ。
どうせのめり込むのであれば、勉強にのめり込むとか、仕事にのめり込むとか、何らかの有益な活動にのめり込んでいれば、社会から称賛される人になっていた。しかし、人の関心はきまぐれで、「社会に良い」という理由で、それにのめり込むことはない。
むしろ、「のめり込んではいけない」というものに、のめり込む人のほうが多い。ギャンブル依存症は、まさにそうした依存のひとつである。のめり込んだら生活が破綻する可能性が高いのに、一直線に落ちていく。
有害な対象に依存すると、まぎれもなく生活の質を下げる。自分の生活が破壊されるのでやめるべきである。それは治さなければならないものだ。
しかし、依存症は本人自身が自分から治したいという気持ちになることは少ない。本人は「自分は病気ではない」と固く信じ込んでいるからだ。面白いことに、まわりも依存者を見て「依存しているのは、そういう性格だから」だと考えてしまう。
「そんな性格だから落伍者になる。ダメな奴だ。自業自得だ、自己責任だ」と嫌悪する。依存症は「普通の人がなってしまう病気」であるとは思わず、性格のせいにしてしまうのである。
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依存症になりやすい7つのタイプ
本人は自分が病気だと認識せず、「ただそれがやりたいだけの正常者」と頑なに思っている。ところが、まわりは正常者とは思わず、「あの人はそういう性格の人生の落伍者だ」と思う。
したがって、両方が「病気だ」と感じる頃には、すでに依存症は相当なレベルにまで進んでいる。それが故に、依存症の治療を始めたとしても、すでに精神依存がかなり進んでいて、依存から抜け出せない可能性も高くなる。
タガが外れた状態になったまま、対象に取り憑かれた依存者をとめるのは難しい。依存の対象が何であったとしても、依存をとめるというのはそれ自体が依存者にとって耐え難い苦痛になってしまうのだ。
本当は依存してしまう前に、自分で自分のおこないを認識し、修正できればいいのだが、越えてはならない一線を越えてしまう人は後を絶たない。
ギャンブル依存症になりやすいタイプがある。以下の7つの項目のいくつかを重複して持っている人は、特に気をつけたほうがいい。
性格・状態 | リスク要因の説明 |
---|---|
感情的に不安定な人 | 強いストレスや不安、孤独感を抱えている人は、これらの感情を和らげるために依存行動に走りやすい。 |
衝動性の強い人 | 感情を適切に処理するスキルが未熟な場合、アルコールや薬物、ギャンブルといった即効的な快楽を求める傾向が強い。 |
自己肯定感の低い人 | 自己評価が低い人は、周囲からの承認や安心感を求めて依存行動に陥ることが多い。 |
孤立している人 | 孤独感を紛らわせるために依存症に陥りやすい。 |
ストレスの大きい人 | ストレスが多い環境にいる人は、ストレス解消として依存行動に走る可能性が高い。 |
完璧主義者 | 失敗やプレッシャーへの対処が苦手で、これらを回避するために依存行動をとることがある。 |
無気力な人 | 目標を持たず、日々を漠然と過ごしている人は、快感を得る手段として依存行動に走る場合がある。 |
自分に当てはまっているものがあると驚く人もいるかもしれないが、実のところ、誰もがいくつかの項目を持っていてもおかしくない。それほど普遍的なものだ。
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依存症に性別の区別はない
ギャンブル依存症の人はその多くが自分の人生に不満やストレスを持っている人であるとも言える。しかし、現代人でストレスがない状態で生きている人は、逆に少ないのではないだろうか。
ギャンブル依存症に深く落ちた人も、経済的なストレスがあったからこそ「パチンコで金を稼げないだろうか」「競馬で金を稼げないだろうか」「うまい話はないだろうか」とギャンブルに引き寄せられたのだとも言える。
経済的なストレスを抱えている人は大勢いる。とすれば、誰もが何らかの依存症になる可能性があるということでもある。どんな立場の人も、油断できない時代になっている。
依存症といえば、男性の問題だと思われがちだが、依存症に性別の区別はない。
女性の依存症も増えている。女性でパチンコにのめり込む人は少ないと勘違いしている人もいるが、パチンコホールに行ったら女性も当たり前にいる。当然、女性の依存者も存在する。
女性の社会進出が当たり前になって、ストレスを溜めやすい状態になっている。今の女性は、夫婦関係、育児、家庭問題、人間関係と共に、もっともストレスが溜まりやすい「仕事の問題」まで抱えることになるのだ。
そして、やはり女性も経済的なストレスを感じるわけで、それがギャンブル依存の入口になったりする。
今後、女性の社会進出はもっと増えるので、女性の依存症患者はさらに増えていくことになるのだろう。一度、依存症に落ちて暴走してしまうと、もう自分で引き返せなくなって、人生が破綻するまで転がり落ちていく。
男性だろうが、女性だろうが、依存症になりやすい7つの性格は、誰もが持ち合わせている。自分は関係ないと考えるより、自分も気をつけなければ危ないと考えたほうがいい。誰でもふとしたきっかけで依存症に落ちていく。
そのきっかけは、いつでも私たちの前に現れるのだ……。

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