パチンコには日常生活では味わえない強烈な興奮と快楽が仕掛けられている。この「興奮・快楽」のサイクルを覚えると、脳がそればかりを追い求めるようになり、抜け出せないパチンコ依存を生み出すことになる。しかし、日本社会は今もなお危険なパチンコが野放しである。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「もう打たない、もう止める」と思いながら止まらない
「借金はどうしたんですか?」
『どん底に落ちた養分たち』より。
「時効やろ、時効。知らんけど。まぁ時効じゃなくても、住所もないのに払うわけがない。借り逃げや。ギャンブルの借金なんかアホらしくて返す気にもならへんしな。返したかって何の得にもならへん。真面目は損するだけや。放っといたらええねん、あんなもん」
パチンコで地獄に落ちる人は多い。あなたのまわりにも、パチンコ依存で人生を吹き飛ばした人を知っているはずだ。
生活費をすべてパチンコに注ぎ込んだり、親や兄弟や妻や友人に金を借りて回ったり、消費者金融で金を借りて数百万円以上もの借金を作ったり、会社の金を横領したり、盗んだり、ひったくりしたり、自己破産したり、自殺未遂を起こしたり、パチンコ依存者の事件は枚挙に暇がない。
拙著『どん底に落ちた養分たち〜パチンコ依存者はいかに破滅していくか?』は、まさにそうした人たちの群れで埋め尽くされている。
パチンコ依存に落ちてしまった人の、ほぼ100%は「もう打たない、もう止める」と思いながら、それでも止められなくていつの間にかパチンコを打っている。金がないのでいつも誰かから金を借りようとする。
金を借りるために嘘をいう。働いた金をすべてパチンコに費やして、負けて再び金を借りる。
まわりが「もうパチンコは止めろ」と強く激しく迫り「もうパチンコはしません」と宣誓書を書かせても、それでも翌日からパチンコに行く。まわりの人間から完全に信用をなくし、見捨てられる。
家族は去っていく。親からも勘当される。さらに会社からもクビを宣告される。孤立して社会のどん底に追い込まれたパチンコ依存者は、自分の人生が詰んでしまっていることに気づいている。それで、どうするのか。
迫り来る借金の返済、返さなければいけない莫大な借金に追われて、「ここから脱するためには、金を作るしかない。今の自分にできることはパチンコで負けを取り返すことしかない」と思う。
追い詰められれば追い詰められるほど、窮地に落ちれば落ちるほど、絶体絶命になればなるほど、よりパチンコにのめり込んでいく。これぞ負のスパイラルである。
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「パチンコを撲滅せよ」という根源的な部分に踏み込まない
「肩がぶつかってケンカになったというのもしょっちゅう見ます。それで、表に出ろ、みたいな。ストレスの塊ですよ、あそこにいる人間は……。あと、店員が遠隔操作したから俺は負けたみたいな話をして、どうしてこの台は勝てないんだ、店長呼んで来い、みたいな話とか……」
『どん底に落ちた養分たち』より。
日本は世界一ギャンブル依存者が多く、約320万人がそうした人たちであると厚生労働省は統計を出している。このギャンブル依存者の8割以上はパチンコ・スロット依存症であることも分かっている。
パチンコは極度の依存を生む紛れもないギャンブルである。しかし、パチンコ業界は「3店方式」と呼ばれる子供騙しで「ギャンブルではない」と言い張っており、驚いたことに政府も警察もそれに同意している。
誰もが「パチンコはギャンブルである」と知っており、このギャンブルが日本中を覆い尽くして数百万人もの人々の人生を破壊しているというのに、日本社会は今もなおこんなものを許容し続けている。
パチンコ業界は莫大な収益を政治家にも官僚にも警察にもばらまいて存続を黙認してもらっており、マスコミも広告料をもらうことによってパチンコの問題には触れようとしない。
そして、民間企業による営利目的のギャンブルが、国中のいたるところに、それこそ一駅に二つも三つも何の制限もなく林立するような異様極まりない国になってしまったのだ。
当たり前だが、パチンコホールはボランティアでやっているわけではない。儲かるためにやっている。事実、パチンコホールは儲かっている。パチンコホールが儲かっているというのは、逆に言えば客は負けているということに他ならない。
パチンコホールは客が依存すればするほど儲かる。客が困窮しようが、家庭が壊れようが、借金まみれになろうが、犯罪に走ろうが、ホールはそんなことはまったく関係ない。
むしろ、客が莫大な借金をしてパチンコに注ぎ込んでくれれば、それだけ儲かるのだから、客がパチンコで気が狂ったかのようになるのは大歓迎である。そのために、パチンコホールは新台入替をしたり、芸能人を呼んだり、無料の漫画喫茶を併設したり、託児所を用意したりする。
気が狂いそうな大音響、過剰な光の演出、単純な反復作業……。こうしたものは、すべて客を依存に落とすための計算された演出なのである。パチンコホールは民間企業が運営しており、民間企業は儲けるためにあらゆる企業努力をする。
その企業努力というのは、客を依存者に仕立て上げるための努力である。客をパチンコの奴隷にして、有り金のすべてをパチンコに吐き出させる。
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弱肉強食の社会であちこちにワナが仕掛けられている
「いったい、いつ返すんだ、この野郎!」
『どん底に落ちた養分たち』より。
「借りたもんを返すのは当たり前だろう!」
「返済日は過ぎてるんだぞ、どうするんだよ!」
このような強圧的な電話を何時間もする。謝ろうが何だろうが容赦ない。延々と電話で罵倒し、脅し、威嚇する。しかも、一日に何度も何度も電話をかけ、顧客を精神的に追い込む。
日本で莫大なギャンブル依存者が生まれるのは、パチンコというギャンブルが放置されている以上、避けられないことでもある。
政治家も、官僚も、警察も、マスコミも、社会の為政者はパチンコ業界から何かしらの利益を得ているので、状況を変えるインセンティブがまったく働かない。放置していれば金が入ってくるのであれば、放置しておいた方が得策だと思う。
パチンコ依存者が金が欲しいと思うのと同様に、社会の為政者もまた金が欲しいと思っている。はっきり言うと、ほとんど自分の懐(ふところ)に入る金のことしか考えていない。
その結果、パチンコ依存者が借金で追い込まれて様々な事件を起こしても、その個人の問題に矮小化して、決して「パチンコを撲滅せよ」という根源的な部分に踏み込まない。
このような構図があって、パチンコは社会の害悪であることが分かっているにも関わらず、日本社会は70年以上にも渡って、この危険なギャンブルを放置し続けてきているのだ。
弱肉強食の資本主義社会では、あちこちにワナが仕掛けられている。仕掛けられたワナに落ちたら、徹底的にやられる。社会全体が寄ってたかって犠牲者から金をむしり取る。そういうシステムになっている。
パチンコ依存者は、まさに弱肉強食の資本主義が仕掛けたワナに落ちた「獲物」なのである。パチンコが野放しになっているのを見ても分かる通り、獲物である以上は救済はない。獲物は社会の支配者に「食われる」だけだ。
パチンコ依存者は、そこから抜けだそうと思ったら自分で「邪悪な世界」が仕掛けたワナに自分が落ちたことに気づいて、そこから抜け出す必要がある。しかし、いったんパチンコ依存に落とされると、なかなかそこから這い出せない。
自分の人生がパチンコによって破滅していこうとするのが分かっていても、どうしてもそこから抜け出すことができない。
「パチンコを止められないのは意志が弱いからだ」と、依存症になったことのない人は思う。しかし、それは意志の問題なのか?
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日常生活では味わえない強烈な「興奮」と「快楽・安堵」
「給料入ったら、すぐに借金返したんですか?」
『どん底に落ちた養分たち』より。
「いや、返さなかったです。いっぺんに返したらまた生活費が苦しくなるなと思って、分割で返すことにしたんです。十二回払いで月一万円くらいの返済だったかな、それくらいだったと思います。いっぺんに返したら損するので気長に返せばいいや、と……」
「いっぺんに返したら損する?」
「はい。手元の金がなくなるわけじゃないですか。損ですよね?」
パチンコに依存していない人間は、なぜあんなものに大金を注ぎ込む人間がいるのか分からない。また、なぜ止められないのか分からない。あんなものは子供騙しのゲームに見える。
そのため、どうしても「パチンコを止められないのは意志が弱いからだ」と考えてしまう。しかし、依存症というのは、そういう問題ではない。
「依存症」というのは、いったんかかると、もはや自分の意志ではどうにもならないほど強烈な本能によって突き動かされるものとなるので、「意志が弱いから抜け出せない」というのは違うのだ。
パチンコに限らず、すべてのギャンブルの依存者は、「脳が変容してしまった」ということが知られている。あまりにもギャンブルを長くし続けていると、脳が激しい興奮状態に置かれ、ノルアドレナリンが分泌され続ける。ノルアドレナリンは怒りの脳内物質である。
この興奮状態の中で突如として大当たりの期待が高まるとどうなるのか。脳内でドーパミンが大量に分泌される。
このドーパミンは快楽物質であり、まさに脳内麻薬と言われるものである。興奮が一気に強烈な快感に変わる。そして、快楽を消化するとベータエンドルフィンが分泌されて心地良い安堵した状態に入る。
日常生活では味わえない強烈な「興奮」と「快楽・安堵」がパチンコにある。そのため、この「興奮・快楽・安堵」のサイクルを覚えてしまうと、脳がそればかりを追い求めるようになり、それが依存症を生み出すことになる。
それはあまりにも興奮が強いので、もはや制御できない。勝ったときに味わうドーパミンは麻薬なのである。しかも、強烈な快楽が味わえたときには「金が手に入る」という報酬系も同時に刺激される。
繰り返す動機付けが発生し、依存が本能レベルで定着する。
パチンコで地獄に落ちる人は多い。あなたも、パチンコ依存で人生を吹き飛ばした人を知っているはずだ。彼らは「ドラッグ依存者」であると言っても過言ではない。そこに落ちたら、極限の地獄が待っている。
日本のどん底(ボトム)には、パチンコ依存によって這い上がれなくなってしまった人たちもいる。
本の中で、パチンコ屋に初めて行って大負けした人は「真の勝者」と書いてあったのが印象的でした
初回で大負けすることでパチンコに行かなくなり、二度とすることがなくなるからです
私も20歳ぐらいの時に難波で初めてパチンコをしましたが、一瞬で3,000円負けて、それ以来二度としていません
あの時に、ビギナーズラックで大勝ちしていたら、パチンコの沼にはまっていたかもしれません
私の地域は、毎月5日に生活保護費が支給されるのですが、家賃の回収に必死です(笑)
なんとかパチンコ屋に行く前に、家賃を回収するのに一苦労です
大阪太郎さん、書籍をお読み下さってありがとうございます。本に書いた通り、「ビギナーズラックで大勝ち」がその後の運命を決定づける大きな要因になっているようです。負けた方が勝ち、という考え方は面白いですね。
パチンコ中毒の人はよくみかけていたのですが、その詳しい実情や心理までは書籍を読むまで理解していなかったことに気づかせて頂きました
書籍の発行にあたり、中毒者の方への取材は、大変だったと思います(笑)
次回の講演会では、ぜひ傾城さんのサイン会の開催もお願いします!楽しみにしています