若い頃に愛した女性を、懐かしく想い出すのは私だけなのだろうか。人は未来を見て、今を生き、そして過去を顧みることはないのだろうか。
私はたまらなく過去に戻りたい。
成田から飛行機に乗り、東南アジアが近づいてくるにつれて高揚していくあの気持ち、飛行機を降りた時に感じる熱帯の空気の濃密さと重さにときめいた日々が懐かしい。
こうしたものは、何度も何度も東南アジアに向かうにつれて、やがて惰性となって何も感じなくなってしまうが、東南アジアの日々が過ぎ去ると再び懐かしさと共に蘇る。
あの時代、自分自身もまだ若く、そして溌剌としており、何も知らないで、ただ純真にタイの歓楽街パッポンに向かうことだけで生きていた。
そして、毎日のように見知らぬ女たちと偶然の出会いを楽しみ、他愛のない会話を交わして笑い合い、愛したり、愛されたり、追ったり、逃げたりして私は人生を燃焼させていた。
私にはそれしかなかった。そして、他には何も必要なかった。夜の女たち以外に求めるものはなかった。私を熱く燃え上がらせてくれた女たちは、今はもう消えてしまいそうな想い出になってしまい、とても切なく感じる。(鈴木傾城)