日本でいえば、世帯所得は300万円未満の人々は、昨今の物価上昇分を収入でカバーできていないケースが多く、食費を削ったり、光熱費節約で体調を崩すような無理を続けている。おそらく、今年の冬も暖房が使えなくて凍死してしまう困窮者が出てくるだろう。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ティッピング・ポイントはもう超えてしまった
日本は30年以上も成長できなかった国であり、その社会構造が変わっていないので、今後も日本経済が浮上することは期待できない。とめどなく日本は凋落していく。少子高齢化も相変わらずとまらず、国の内需や活力も消える一方と化す。
日本の2024年上半期の出生数は前年同期比6.3%減の32万9,998人となり、年間ではじめて70万人を下回る可能性が高まっている。もちろん、この急速な少子化は、社会的・経済的に深刻な影響を及ぼす。
いまだ日本の復活に期待している人もいるのだが、私自身はすっかり見切りをつけたのは、この少子高齢化をとめる能力を政治家も官僚も持っておらず、回復の閾値(ティッピング・ポイント)はもう超えてしまったと考えているからだ。
そもそも、30年以上も日本を変えられなかった今の政治家が、これから日本を変えられると考えているほうがどうかしている。与党の政治家のみならず、野党の政治家もみんな期待できない。
私は現実主義者なので、夢なんか見ない。今の政治経済は期待するだけムダなので、今後の日本人のテーマは、いかに日本の貧困に自分が巻き込まれないようにするかという個人的サバイバルに焦点が移っていると思っている。
多くの日本人が安定した日々を求めているが、社会はもっと厳しくなる。手をこまねいていると、大多数の人たちが経済的に困窮する状況になってしまうことが目に見えてきている。生活基盤は、確実に揺らいでいく。
こうした中、私たちはどのように「路頭に迷わない」ための準備をしなければならないのか。この課題は、個人の生活設計だけでなく、社会全体にも影響を与えるものであり、避けては通れないテーマとなるのだ。
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すべての日本人が貧困化しているわけではない
低所得になればなるほど、物価上昇や、病気や、急な出費に耐えられなくなる。何かあると生活が破綻する。
日本でいえば、世帯所得300万円未満の人々は、昨今の物価上昇分を収入でカバーできていないケースが多く、食費を削ったり、光熱費節約で体調を崩すような無理を続けている。
おそらく、今年の冬も暖房が使えなくて凍死してしまう人が出てくるだろう。「暖房が使えなくて凍死するなんて、まるで途上国のようだ」と思うかもしれないが、日本の底辺はすでに途上国並みになっているのだ。
衰退していく中で、今の日本では倒産件数も増加しており、特に小規模な事業者に大きな打撃を与えている。これは一時的な景気後退の影響ではない。長期的な構造的問題が影響している。
とはいっても、すべての日本人が貧困化しているわけではない。弱肉強食の資本主義では、強者が弱者の資産を総取りすることができるので、富める者はますます富んでいくことになる。
その結果、格差がもっと拡大する。金持ちは数億円の高級マンションを現金で買い、ポルシェを乗り回し、海外に遊びにいく余裕がある。その裏側で、極限の弱者が凍死していく。
しかし、もちろん日本社会はそうした弱者を救うような余裕を失っているので、社会のどん底に転がり落ちても「自己責任で何とかしろ」と突っぱねることになる。国が衰退していくというのはそういうことなのだ。
弱者は切り捨てられていく。それが今の日本で起こってる。私は途上国をずっと見てきているのだが、途上国では弱者が切り捨てられていた。日本が衰退しているのだから、日本が途上国のように弱者切り捨てになっても驚きはまったくない。
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中間層がどんどん貧しくなって貧困層に
今後、日本で貧困層が「もっと増える」というのはどういうことなのかというと、「中間層がどんどん貧しくなって貧困層になっていく」ということなのだ。では、その中間層が貧困層に落ちる大きな要因とは何か。
第一に挙げられるのは、失業リスクだろう。これまで日本の中間層は年功序列や終身雇用で守られてきた。しかし、もう今の日本企業の大半は、終身雇用なんか保障する余裕は持っていない。それどころか、正社員ですらも合理化・効率化で切り捨てたいと思っている。
今、労働市場は急速に変化している。特に技術革新の進展により、これまでのスキルが通用しない状況が生まれている。製造業ではロボティクスの導入が進み、多くの作業が機械に置き換えられた。
サービス業でもセルフレジや自動接客システムの普及が進んでいるため、単純作業に依存した職業は淘汰される運命にある。そして、これから中間管理職もAI(人工知能)の進化で確実に切り捨てられていくだろう。
これは私がいっているのではない。ほぼ、すべての社会学者がいっている。
また中間層の多くは、資産の運用が苦手だ。そのため、貯金がメインになっているのだが、日本では歴史的な低金利が延々と続いているため、預金だけで資産を保全するのは難しい。資産の運用をおこなわないという選択は、長期的には資産の減少を意味する。
では、必死で貯金しているのなら貯蓄額は増えているのかというと、物価上昇などで貯金も減っている。2023年7-9月期の家計貯蓄率がマイナスになっているのだが、これは物価上昇によって多くの家庭が貯蓄を取り崩さざるをえなかったからである。
今後は、税金も上がれば社会保険料も上がる。さらに、医療費の増加も大きなリスクとなる。高齢化が進む現代社会において、医療や介護にかかる費用は年々増加していくからだ。
かくして、日本の中間層が低所得層に落ちていく流れが定まっている。
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結局、自分の面倒は自分で見るしかない
どう考えても、今の日本社会は非常に危険なのだ。政治は何とかしてくれるとか、行政が助けてくれるとか、誰かが救いの手を差し伸べてくれるとか、そういうことを考えていると、アテが外れる。
結局、自分の面倒は自分で見るしかない。さもなくば、路頭に迷う。
考えるべきことは、いくつもある。生活費の中で無駄な出費を見直し、支出をコントロールするのは、真っ先にやらなければならないことでもある。
あと、少なくとも生活費3~6か月分の緊急資金を預金しておくとか、ひとつの職業に依存せず、副業や投資など複数の収入源を持つとか、銀行預金だけに頼らず、インデックスファンドや不動産など、多様な運用手段を検討するとか、いろんな手段がある。
借入金がある場合は、金利や返済期間を見直し、経済的な負担を最小限に抑える工夫をする必要もある。経済的な備えだけでなく、人脈や信頼関係を構築することも必要になってくるだろう。
私自身は、今後の日本に訪れる大きな凋落と社会的な崩落がきたとしても、それほど今の生活が変わるとは思えない。
皮肉なことに、若い頃に東南アジアのスラムに居ついていたので、ダウングレードをベースとしたライフスタイルに慣れている。(ブラックアジア会員制:貧しい女性に人生を教えてもらった私は、贅沢して生きるような生活は選べない)
思えば、自分がどこまでのダウングレードに耐えられるのか知っているのが、私の一番の強みなのかもしれない。誰も助けてくれないという意識で生きて、ダウングレードすることにも抵抗がない。
これで、不確実な未来に対して強い耐性を持つことが可能になる。もしかしたら、とめどなく凋落していく日本の中では、この「誰も助けてくれないという意識で生きて、ダウングレードする」という意識を持つのが最強なのかもしれない。
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