社会から孤立し、健康を害し、長生きすればするほど地獄に堕ちる単身世帯の貧困高齢者が日本国内で爆発的に増える。この問題は、政治家に何とかしろと言っても、社会が悪いと言っても、もはや解決できない。これから本格化する問題である。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
金融資産も何も持たない高齢者の貧困
日本では生涯未婚が増えていて、2015年の段階で男性の23%、女性の14%が生涯未婚である。すなわち、男性は4人に1人、女性は7人に1人が生涯未婚だ。この生涯未婚の人たちが親とは別居で暮らしている場合、単身世帯となる。
このまま推移すると、2040年は約4割が単身世帯となる。結婚しないまま、子供もいないまま、単身世帯から高齢者の入口である65歳を迎える人がこれからも増えていき、「一人で生きる」のが普通の社会と化す。
この単身世帯の中には、非正規雇用や低賃金の中小零細企業で働いていた人たちも多く、もともと生活は豊かではなく貯金も乏しかったりする人も多い。つまり、豊かさと無縁のまま生き、そのまま高齢者になっていく。
政府は「年金だけでは暮らしていけないので老後資金を2000万円以上貯めろ」と言って国民に批判されたことがあるが、65歳になった人たちの6割は2000万円以上の貯蓄には満たないのが現状である。
結婚していたら老後の生活は夫婦の年金の合算で生活がまかなえるのだが、単身であると、家賃も食費もすべて「ひとりの年金」で何とかしなければならないので、65歳から貧困者はぐっと増える。
現在、生活保護受給者の半分以上は高齢者なのだが、金融資産も何も持たない高齢者の貧困が日本を覆い尽くすのである。
高齢の貧困と言えば女性の貧困も凄まじいことになっていくのだが、単身世帯の男性はうまく逃げられるのかと言えばまったくそうではない。むしろ、あまり経済的に豊かではないまま高齢化した単身世帯の男性の方が、高齢期はうまく生きられない現状が今もある。
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孤立化と地域との無縁化を生み出す元になる
そもそも、日本でなぜこれだけ単身世帯が増えたのか。その理由はいくつもある。
「会社に入って結婚して子供を育てる」というライフスタイルがすべてではなくなったということもある。
あるいは、女性も経済力がついてきたので望まない相手と結婚しなくても良くなったので、あえて結婚を避けるようになったというのもある。そうなると、本当は結婚したかった男性も相手が見つからなくなったということもある。
さらに言えば、1990年代に日本経済はピークを付けて、以後は超就職氷河期が起こったり、非正規雇用が拡大して経済格差が広がったりして、結婚できる経済力を喪失してしまったというのもある。
それだけでなく、社会的なインフラも整備されたので、一人暮らしをすることの不便さがかなり解消されたというのもある。都会に暮らしていればの話だが、24時間やっているファストフード店もあるし、コンビニもあるし、デリバリーも充実していて好きな料理は何でも持ってきてくれる。
人に会わなくても、SNSでつながりは持てるし、携帯電話もあればLINEもある。
一人暮らしの寂しさを解消できるツールが増えて、さらに料理ができなくても問題がなくなったのだ。だから、「おひとりさま」を選択するのは別におかしな選択でも不便な選択でもなくなった。
しかし、それが社会との孤立化と、地域との無縁化を生み出す元になっている。インターネットではつながりがあるとは言えども、リアル社会でのつながりは皆無になってしまうのである。
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社会的孤立は彼が自ら選択したものでもある
この社会の孤立化が際立つのが単身世帯の高齢男性なのである。男性はもともと人間関係のつながりを作るのは下手だし、地域社会とつながるのも苦手だ。要するに、誰とも付き合わずに、家に引きこもってしまう。
引きこもって何をしているのかというと、朝から晩までテレビを見て酒を飲んでコンビニの適当な食事を取って日々を暮らしているのだ。
年金生活に入ると残りの人生は節約に生きるしかないので、友人と会って会食するとか、旅行に行くとか、買い物に行くとか、そういう金がかかるようなことはめったにしない。
家でテレビを見て何もしないで生きるのが最も経済的であり、意図的に外部とのコンタクトを極限まで切るのである。これはまさに「社会的孤立」とも言うべき状態なのだが、この社会的孤立は社会が彼を見捨てたのではなく、彼が自ら選択したものでもある。
しかし、単身世帯の高齢男性が自由気ままに社会的孤立の中で生きられるのは「健康な時だけ」である。
高齢化するとただでさえ健康を害するのだが、ひとりで好きに生きていると栄養が偏ることも多く、生活も不規則になりやすい。生活を意志の力で改善できないと、彼らは急激に体調を崩して不健康になってしまう。
しかし、不健康になっても彼らは「金がかかる」と言って病院に行くのも拒絶することも多い。そのため、重篤な病気の進行が進んで手遅れになったり、ひどいときは突如として亡くなって、誰も知らないまま部屋の中で腐爛していったりする。
これが俗に言う「孤独死」なのだが、いま日本で問題になっているのが孤独死である。
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日本社会は高齢者を抱えて身動きできなくなっていく
単身世帯の高齢男性は地域のつながりを持つのを意図的に拒絶するので、どんどん孤独が極まっていく。そのため、病気やケガで健康を害して身動きが取れなくなってしまったところから地獄が始まる。
それまで孤立を選択して生きてきたので、彼らは要介護になっても介護を嫌って遠ざけることが多い。また、介護士がいくら健康と衛生についてアドバイスしても頑固に我流を通してまったく受け付けないこともある。
家から離れるのも高齢者ホームに入るのも嫌って、病院にも行かないので自宅で半死半生のまま生き続ける。家の中はゴミ屋敷と化し、本人も風呂に入らなかったり、排泄に失敗したりして悲惨な姿になっていたりする。
そこで貯金が尽きることもあるわけで、もはやそうなったら生き地獄である。この生き地獄の中で「人生100年時代」というのだから、私に言わせれば地獄を引き延ばしているだけのようにも見える。
これから日本はそうした単身世帯の高齢男性を200万世帯以上も抱えることになってしまうのである。女性も含めると600万世帯以上となる。65歳以上の高齢者は3640万人なので、高齢者が単身世帯になる確率はどんどん増えていく。
長生きすればするほど地獄に堕ちる高齢者も増えるということだ。
この問題は容易に解決できるものではないので、社会現象として日本が長期に渡って抱えていくしかない問題となる。政治家に何とかしろと言っても、社会が悪いと言っても、もはや解決できない。
本来であれば、高齢者を上回るほどの子供を増やして、世界に類を見ない多子化社会にすれば良かったのだが、政治家も国民もそれだけの覚悟がないまま時間を無駄にし続けてここまで来た。
解決できないまま、日本社会はどんどん高齢者を抱えて身動きできなくなっていく。
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