「チューリング・ファーマシューティカルズ」という新しく創業されたベンチャー企業がある。創業者はマーティン・シュクレリという32歳の男だ。
この男は元ヘッジファンドのマネージャーから、製薬会社に入り込んだ男だった。
この男はヘッジファンド出身だったので、創業に際しての資金調達は楽々クリアしたようで、そこで得た90億円で、すぐに「ダラプリム」という薬の権利を買い取った。
それが2015年8月のことだった。
「ダラプリム」とはどんな薬なのか。これはトキソプラズマ症の治療薬として60年前に開発された薬だった。トキソプラズマ症とは、エイズによって免疫力が弱っている人が飲む薬で、生存のためには非常に重要な薬であるという。
この薬は単価が13.5ドル(約1620円)で、エイズの治療薬としては比較的安価なものだった。だからこそ、多くのエイズ患者の生命を救ってきたのである。
ところが、このマーティン・シュクレリという男は、この薬の価格を一気に750ドル(約9万円)に値上げした。一夜にして55倍の値上げである。