タイの若者は見栄えだけは良くなったが、その裏では経済苦にあえぐ実態がある?

今、タイの若者が直面している最大の課題のひとつは、貯蓄の低さである。大多数の若者は収入の1割すら貯蓄できていない。この低貯蓄率は、別にタイの若者が貯金もせずに遊びまわっている結果ではない。彼らの大半は日常的に支出が収入の大半を占め、貯金なんかする余裕がないということなのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

生活費をやりくりするだけで精一杯

今、インドネシアやフィリピンやネパールでは馬鹿な政治家と世襲の無能議員たちに対する怒りで、暴力的な抗議デモが続出しているのだが、タイでも政治に対する不満が醸成されつつある。

今、タイの若者が直面している最大の課題のひとつは、貯蓄の低さである。

2025年6月にKrungsri Research Centerが発表した「Gen Z Finance Survey 2025」によれば、対象となった約1000人の18歳から25歳の若者のうち、69%がもらった給料の10%未満の貯金しかできないと答えている。

つまり大多数の若者は収入の1割すら貯蓄できていない。シンガポールの若年層は20%以上の貯蓄率を維持している一方で、タイでは半数近くが「給与1ヶ月分すら蓄えがない」と回答している。

つまり、いざ病気や失業といった予期せぬ事態が起これば、生活が直ちに困窮に転じる危険が常に隣り合わせにある。

OECDの統計によれば韓国の若年層の平均貯蓄率は約15%前後、マレーシアも12%程度を維持している。タイの若い世代が10%を下回る状況は、地域的にも際立って低い数値である。

東南アジア諸国の中で経済規模が大きいタイにおいて、この数字は将来の社会的安定性に直結する問題といえる。

もちろん、この低貯蓄率は、別にタイの若者が貯金もせずに遊びまわっている結果ではない。彼らの大半は日常的に支出が収入の大半を占め、貯金なんかする余裕がないということなのだ。

日々の生活費をやりくりするだけで精一杯であり、資産形成どころか緊急時への備えすら十分にできない。そういう社会に生きている。

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その無理がたたって、借金まみれになった

彼らの苦境の最大の要因は生活費の高騰である。

最近は、日本人でもタイに行けば物価の高さに驚いたりする。これは円安だけの問題ではない。バンコクをはじめとする都市部では、家賃・食費・交通費が過去数年間で急速に上昇しているのだ。

2025年上半期のタイのインフレ率は4%を超え、特に都市部の消費者物価指数は地方よりも高い伸びを示した。シェアハウスやストリートフードに頼る若者も多いが、月収の70%前後を日常の生活費に充てざるを得ない状況が常態化している。

こんな状態だと、貯蓄に回せる余力はほとんど残らない。

もちろん、低賃金と不安定雇用もある。タイの大卒初任給は平均で1万5000バーツ前後とされるが、この水準は都市部で生活を維持するには不十分である。ちなみに、タイの大学進学率は46.18%なので、半数はそれよりももっと賃金は低い。

こうした若者の多くが従事するフリーランスやギグワークは、収入が安定せず、長期的な資産形成を難しくしている。たとえば配車アプリのドライバーやフードデリバリーといった職種は需要が高い一方、収入は需要変動や競争に左右されやすい。

なんとか一定の月収を得られたとしても、その先に昇給や福利厚生が保証されるわけではない。

しかし、SNSでは自己承認欲求の強い若者がキラキラしたファッションやライフスタイルを見せつけており、それに憧れた若者によるトレンド消費が一方にある。ファッションや旅行、デジタルガジェットに多額を費やす姿が目立つという。

彼らは見栄えは良くなったかもしれないが、無理しているのだ。その無理がたたって、長期的な蓄えや投資を後回しにするライフスタイルが定着している。この無理を支えるのが「借金」だ。

クレジットカードや個人ローンの返済は、若者の収入を大きく圧迫している。学生ローンは比較的軽視されているが、都市部での生活を支えるためにクレジットカードを使う割合が高く、その返済が毎月の家計に重くのしかかっている。若者の一部は、借金まみれと化している。

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上位層・富裕層への集中が非常に強い国

現代の若者にとって、クレジットカードや個人ローンは使いたくなくても使わざるを得ないものになっているようだ。調査では、若い世代が抱える金融的負担の上位に「クレジットカード・個人ローン」が挙げられている。

最近では「後払い(BNPL)」サービスの拡大も、若者の金銭感覚を変えている。53.5%が「規制を強化すべき」と回答しているが、便利さの裏で借金を生みやすい仕組みが広がって、これがまた若者の生活を追い込んでいる。

借金で生活を回しながら、しかし生活の余裕がない中で返済期間が迫る。そんなわけで、副業を持っている若者も多い。調査によると、62%が「若者は生活や欲求を満たすために副業が必要だ」と回答しているという。

タイでフリーランスやデジタル副業が急速に広がっているのは、「自由な働き方」というポジティブな側面よりも、「本業の収入では足りない」という切実さに支えられているので褒められたことではない。

そして、こうした余裕のなさはアンダーグラウンドでは女性の売春を生み出すという現象もある。月末になるとタイのある援交カフェに若い女性が大量になだれ込む現象があるのだが、余裕のない経済を売春で何とかしようとする女性たちの姿がそこにある。

タイは経済発展してそれなりに国が豊かになっているように見えるのだが、結局は貧困層や若者を置いてけぼりにした発展であり、経済格差も今後はさらに広がっていくことになるのだろう。

タイは以前から都会と田舎の経済格差が極度にひどい国だったのだが、今度は都会にいてもそこで格差が広がっており、所得と富の両面において、上位層・富裕層への集中が非常に強い国となっている。

2024年のリサーチ会社の報告では、1988年から2021年までの五分位階層(所得の上下20%ずつで分ける区分)を分析したところ、最上位20%が国家所得(または可処分所得)のかなりの割合を占める構造になっていたという。

資産所有でも格差が強く、最上位1%が相当な割合の土地や金融資産を保有している。つまり、金持ちは想像を絶する金持ちとなっている。そういうのが可視化されると、タイでも富裕層に対する憎悪は広がり、深まり、やがては標的になっていくだろう。

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我が日本もまた、同じ問題を抱えている

タイの若者が直面している経済的困難は、無能な政治によって加速している。普通に働いていても収入の10%すら貯蓄できない状況は、社会全体の制度設計に欠陥がある証拠でもある。

物価の上昇に見合う賃金の引き上げや、教育・住宅・雇用における公平な機会の提供がなされなければ、若者は将来的に資産を形成できず、今後も貧困層として固定化されていく。

ただ、こうした状況を見ていると、タイだけではないことをつくづく痛感する。

我が日本もまた、同じ問題を抱えている。非正規雇用の拡大、都市部の住宅価格の高騰、いつまでたっても成長できずに衰退するばかりの国、少子高齢化で地方から痩せ細っていく国が日本の状況でもある。

総務省の調査では20代の貯蓄ゼロ世帯の割合は約40%に達しており、世代を超えた貧困の連鎖がすでに進行している。生活費の多くを消費に吸い取られ、残ったわずかな収入で将来に備えようとしても、教育ローンや家賃の支払いが待ち構えている。

これではタイの若者と大差がない。あげくの果てに、日本の若い女性が路上で売春する光景も今や当たり前になってきている。

両国に共通しているのは、政治が若者世代の経済的弱さを放置している点である。タイでは観光業に依存した経済のもとで雇用の不安定さが是正されず、日本では高齢者層に偏った政策配分が続き、若者の負担ばかりが増している。

日本の場合、少子高齢化が加速しているため、若者が将来の担い手であるにもかかわらず、現実には彼らの生活が安定していない。非正規雇用や低賃金の職に追いやられ、結婚や住宅購入を先送りせざるを得ない状況が広がっている。

いずれにしても、個人が努力では乗り越えられない貧困が続くのであれば、社会状況はもっと悪化していくことになるのだろう。

弱肉強食の資本主義が進む国では、それがタイであろうと、日本であろうと、あるいはフィリピンであろうと、インドネシアであろうと、ネパールであろうと、若者は追いつめられていく一方となる。

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