
国際機関の統計によれば、アジア太平洋地域では毎年約6億トンの廃棄物が発生しており、その中でもプラスチックごみは年間約1億トンを超えた。このうち約29%は不適切な管理のまま環境に流出し、河川や沿岸部から海洋へと拡散している。絶望的なのは、この状況はもっと悪化することだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
アジアのゴミ問題はすでに危機的な状況
ゴミの問題が本気で深刻になってしまっている。東南アジアや南アジアを中心に、都市部の人口増加と経済成長に伴って廃棄物の発生量は急激に増えているばかりだ。
国際機関の統計によれば、アジア太平洋地域では毎年約6億トンの廃棄物が発生しており、その中でもプラスチックごみは年間約1億トンを超えた。このうち約29%は不適切な管理のまま環境に流出し、河川や沿岸部から海洋へと拡散している。
特に東南アジアの沿岸国は、海洋プラスチックごみの主要発生源として国際的にも指摘されている。フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイなどは、河川を通じて大量のごみを海に排出している。
世界でもっとも汚染度の高い河川の多くがこの地域に集中している。
たとえば、フィリピンのパシグ川は年間7万トンを超えるプラスチックごみを海に流出させており、単一の河川としては世界でも突出した汚染源となっている。
都市部のごみ収集インフラは需要に追いついていない。人口密集地やスラム街では収集車が入れない地域が多く、その結果、住民が路上や空き地、河川沿いに直接ごみを投棄している。
こうした不法投棄は降雨時に河川へと流れ込み、さらに沿岸や海へと拡散する。
インドネシア・ジャカルタやバングラデシュ・ダッカなどでは、雨季にごみ詰まりによる排水不良が都市型洪水を頻発させており、衛生環境の悪化と感染症の拡大を引き起こしている。
東南アジアは、この「ゴミまみれ問題」を解決できないかもしれない。
インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたタイ歓楽街での出会いと別れのリアル。『ブラックアジア タイ編』はこちらから
廃棄物発生量はさらに現在の約1.5倍に達する
ペットボトル、プラスチック袋、食品包装材……。経済成長に伴う消費拡大が、包装材や使い捨て製品の需要を増大させ、廃棄物の質と量の両面で負荷を高めている。
特に低所得層でも安価な使い捨て製品が普及したことで、短期間に大量の廃棄物が発生する構造が定着してしまった。恐ろしいのは、電子機器の普及によって増えている電子廃棄物だ。
これらのゴミは鉛や水銀など有害物質を含んでいる。これが環境を汚染する。
多くの国では廃棄物処理施設の整備が遅れている。焼却施設は数が限られ、埋立地は飽和状態にある。処理能力の不足は、結果的に回収不能なごみの増加につながり、無秩序な廃棄を助長している。
OECDの試算では、アジアの廃棄物発生量は2030年までに現在の約1.5倍に達するとされ、処理の遅れはさらに深刻化する。都市部だけでなく農村部や島嶼部でも同様の傾向が見られ、問題は地域的な偏りなく広がっている。
このように、アジアのごみ問題は単なる環境問題ではなく、都市計画、公共衛生、経済構造、国際貿易とも密接にかかわる総合的な危機である。現時点ですでに深刻な状況が恒常化し、現行の処理能力や管理体制では抑制することはできない規模に達している。
絶望的なのは、この状況はもっと悪化することだ。
農村から都市への人口流入が続き、メガシティと呼ばれる都市圏は人口密度の限界に近づいている。
都市部の廃棄物収集・処理インフラは人口増加のペースに追いつかず、管理の行き届かないエリアが拡大している。こうした地域では廃棄物の回収頻度が低く、住民による路上投棄や河川投棄が常態化している。
結果的に降雨や洪水によってごみが広範囲に流出し、海洋汚染の原因となる。

ブラックアジアからパタヤが舞台のコンテンツのみを抽出、『ブラックアジア パタヤ編』はこちらから
先進国が排出する廃棄物の行き先
自国のゴミでも最悪の状況を作り出しているのに、東南アジアはさらに「他国のゴミ」も引き受けている。先進国が排出する廃棄物を、東南アジア諸国はカネをもらって受け入れている。
これを「廃棄物貿易」と呼ぶ。
マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアなどが受け入れ先となっている。これらの国は、先進国の大量の汚染された廃棄物を受け入れたのはいいが、国内で適切に処理されることは少なく、野積みや違法焼却が横行しているのだ。
輸入量の増加は国内の廃棄物管理能力を圧迫し、既存のごみ問題をさらに悪化させた。
これらの国では廃棄物管理法が整備されていても、実効性のある施行や監視が不十分である。罰則規定が存在しても適用される例は少なく、違法投棄や未処理の廃棄物輸入が黙認されている場合が多い。
リサイクルシステムの整備は遅れており、リサイクル率は東南アジアの多くの国で10〜20%程度にとどまっている。
こうした要因が相互に影響し合い、単一の対策では解消できない複雑な構造を形成している。経済発展と都市化の流れが続く限り、廃棄物発生量は確実に増加し、ゴミの管理はますます解決不能となっていく。
処理されない廃棄物は害虫や病原菌の温床となり、デング熱やコレラ、赤痢などの感染症を拡大させる。特に熱帯・亜熱帯の都市部では高温多湿の気候が病原菌の繁殖を促進し、未処理ごみの存在が病気の発生リスクを恒常的に高めている。
インドやインドネシアの一部地域では、ごみ集積場近くの住民に呼吸器疾患や皮膚病の発症率が高いという調査結果が出ているが、当然の結果であるとも言える。鉛、カドミウム、水銀などが垂れ流しになっているのだから、健康被害が出ないほうがどうかしている。

ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々・フィリピン編。フィリピンにある売春地帯を鈴木傾城がさまよい歩く。ブラックアジア・フィリピン編はこちら
アジアのごみ問題は解決不能になる
ごみ問題は今後、解決どころか一層悪化する方向に進むはずだ。現行の廃棄物管理の体制と経済・社会の構造を見ると、この問題に対応できているとは思えない。
アジアの人口は依然として増加傾向にあり、国連の予測では2050年までに世界人口の半数以上をこの地域が占める。その過程で都市化が加速し、消費の拡大と廃棄物発生量の増加は避けられない。
経済発展と人口集中が同時に進む以上、廃棄物の発生速度は管理能力を恒常的に上回り続ける。
さらに専門家は「異常気象もゴミ問題をより悪化させるだろう」と述べている。異常気象や豪雨の頻発はごみの流出を加速し、海洋汚染の範囲を拡大させるからだ。
実際、雨季や台風期に入ると、大量のプラスチックごみが河川から一気に海へと流れ込み、すでに汚染が進んだ沿岸域をさらに悪化させている現象が見られている。異常気象や豪雨が頻発すると、それを極度に悪化させてしまう。
とにかく、急いで高効率の焼却施設や高度なリサイクル技術を設置しないといけないのだが、技術的な進展も追いつかないし、財政的にも余裕がない。
そうやって、手をこまねいているあいだに廃棄物は積み上がり、既存の埋立地は次々と飽和状態に達する。新たな埋立地を確保することは、人口密集地域や沿岸部ではほぼ不可能に近い。
このまま推移すれば、どうなってしまうのか?
2050年には世界の海に存在するプラスチックの重量が魚の重量を上回るという予測があるのだが、これが現実になるかもしれない。
海洋生態系の破壊は食料供給に直結し、沿岸部の生活基盤を根底から揺るがす。ごみ問題は環境分野の課題にとどまらず、経済・外交・食料安全保障の分野でも危機的な状況を引き起こす。
現行の延長線上に未来を描くならば、アジアのごみ問題は解決不能になる。




コメント