汚職まみれのフィリピンでふたたび「ピープルパワー革命」が起きても驚かない

汚職を温存するシステムが強力に動いているのだから、こんな国が力強く経済成長できるわけがない。国民は萎縮し、政治的な発言や活動を控えるようになっている。「貧困層を守れ」という訴えでさえ「国家に敵対する行為」として扱われるだから、もう完全に腐り切っていると言っても過言ではない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

何でもかんでも「共産主義者」「反政府勢力」

例のごとく、だがフィリピンがまた荒れてきている。フィリピンは東南アジアの中で、長らく不安定要素を抱え続けてきた国だが、今もなおその状況は変わっていない。

この社会不安の増大は、経済格差、腐敗問題、治安維持の名目で拡大する権力行使がすべて重なっているものだ。

歴史的に見れば、マルコス独裁政権期における強権政治は国民の自由を奪い、軍や警察による弾圧を日常化させた。その後の民主化で一時的に自由が拡大したが、権力構造の根本は変わらなかった。

2016年以降のドゥテルテ政権下では「ドラッグ・ウォー」の名のもとに数千人規模の市民が殺害され、人権侵害が国際社会から強い批判を浴びた。ボンボン・マルコス政権でも警察・治安部隊による強圧的な統治手法は続いている。

近年の情勢を映す出来事として、国際人権団体が2024年に発表した報告書がある。

その中では「レッドタグ付け」と呼ばれる慣行が改めて問題視された。(ブラックアジア:レッドタグ。共産主義者排除のためのフィリピン政府による仕組みは維持されるか?

レッドタグ付けとは、政府や軍が共産主義者、反政府勢力を排除するためのものだったが、最近はこれが変質し、政府高官やエリートたちに都合の悪い人間はみんな「共産主義者」「反政府勢力」と断定されて摘発する道具と化した。

たとえば最近では、警察や議員の汚職を告発したり、問題視したりする国民やジャーナリストまで容赦なく「レッドタグ」化されている。いったんレッドタグ化されると、法的根拠もないまま監視や嫌がらせ、暴力の対象となり、生命の危険にさらされる。

実際、学生団体、教会関係者までが標的にされて、摘発されて逮捕されている。

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汚職や利権を暴こうとすると反政府勢力

教会関係者が「共産主義者」「反政府勢力」なわけがない。しかし、警察当局・軍・政府高官・エリート連中にとって、そんなことは関係ない。自分たちの汚職や利権を暴こうとする人間はみんな「国家の敵《パブリック・エネミー》」なのだ。

学生団体が教育費引き下げを訴えただけで、「国家転覆を狙う勢力」と決めつけられた事例もある。カトリック教会の社会奉仕活動に参加する司祭や修道女も、標的にされている。

なぜなら、司祭や修道女は貧困層や農民、都市スラムの住民など社会的に弱い立場にある人々を支援して汚職に対して声を上げるからだ。

貧困層を弾圧する社会システムを告発したら、彼らの利権が脅かされる。そのため、司祭や修道女も「共産主義者」「反政府勢力」というレッテルを張られ、治安当局から尾行や嫌がらせを受けている。

フィリピン最高裁判所は2024年に、レッドタグ付けが「生命、自由、安全に対する明白な脅威」であると認定した判決を下した。だが、実際の運用はほとんど変化していない。

国家安全保障会議や国軍は「国家防衛のために必要」と主張し続け、政府内部からも有効な制御が働いていない。法は機能していない。機能していると言えば、汚職高官・汚職議員を守るために機能している。

国家人権委員会(CHR)は2024年に公開調査を開始し、被害証言を集めて制度的改革を検討している。しかし政府は完全に無視して、ますますレッドタグ化の範囲が広がり、社会的抹殺が広がっている。

汚職を温存するシステムが強力に動いているのだから、こんな国が力強く経済成長できるわけがない。国民は萎縮し、政治的な発言や活動を控えるようになっている。「貧困層を守れ」という訴えでさえ「国家に敵対する行為」として扱われるだから、もう完全に腐り切っていると言っても過言ではない。

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抗議行動そのものが国家に敵対する行為

こういう状況で、フィリピン国民も我慢の限界に達しており、去年あたりから「レッドタグ化」をものともしない人々によって、大規模な反汚職デモが展開されるようになっている。

発端となったのは、1年ほど前に発覚した公共事業に関する巨額の汚職疑惑である。特に首都マニラの洪水制御プロジェクトにおいて、不正な入札や資金流用があったと報じられ、政府高官が直接関与したとされる。

この疑惑は市民の怒りを呼び、学生、労働組合、教会団体まで幅広い層が抗議活動に加わった。参加者は汚職の徹底調査と関係者の処罰を求め、透明性を欠いた政治体制に対する不満をいっせいに表明した。

当日は数千人規模の人々が集まり、平和的にデモをおこなっていた。ところが、デモ隊が政府庁舎に近づいた時点で警察が強硬に介入した。治安当局は催涙ガスや放水銃を使用し、参加者を強制的に排除した。

報道によれば、この過程で市民200人以上が拘束され、その中には学生や宗教関係者も含まれていた。拘束者の多くは「秩序を乱した」として起訴される恐れがあるが、実際には平和的に抗議していただけである。

警察の対応は過剰であり、暴力を伴うものであったことは明らかだ。これに対して、国内の教会団体や人権組織も声を上げ、政府に対して弾圧の中止を訴えた。特にカトリック教会関係者は拘束者の家族を支援し、法的援助を提供している。

だが、ボンボン・マルコス政権はデモを「公共秩序を脅かす行為」と断定し、強硬姿勢を崩していない。内務省の報道官は「デモの背後には反政府組織が存在する」と述べ、治安当局の行動を正当化した。

この発言は、前述のレッドタグ付けの延長線上にある。つまり、市民の抗議行動そのものを「国家に敵対する行為」と見なし、弾圧する。自分たちの利権を脅かす存在は絶対に許さない、という意思表示だ。

国民はこうした弾圧を恐れているが、同時にいら立っている。

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いずれ大規模な噴出を引き起こす可能性がある

フィリピンにおいて政府高官や軍や警察官やエリートが汚職や利権構造を温存し、それを守るために強硬な政策を採り続けるならば、大規模な暴動や政権打倒に至っても不思議ではない。

フィリピンの近現代史を振り返れば、この国は市民の力によって何度も権力者が退場を余儀なくされてきたのだ。

1986年のエドゥサ革命では、20年以上にわたり独裁を続けたフェルディナンド・マルコス大統領が、選挙不正と汚職、軍や警察を使った弾圧に対する国民の大規模抗議によって国外に追放された。

軍の一部が市民側に寝返り、数百万人が首都の大通りに結集することで、圧倒的な国民の意思が権力を崩壊させた。この出来事は「ピープルパワー革命」と呼ばれ、権力を私物化した政権が市民の怒りによって倒される典型例となった。

その後も、汚職と利権を背景にした大統領の失脚は繰り返されてきた。2001年にはエストラダ大統領が汚職容疑で弾劾訴追され、市民が街頭にあふれたことで辞任に追い込まれた。

これは「エドゥサ2」と呼ばれ、政治腐敗に対する国民の拒絶がふたたび政権交代を生んだ象徴的事件であった。こうした歴史は、フィリピン社会において汚職が一定の臨界点を超えると、爆発的な抗議行動が生まれることを示している。

現在のフィリピンでも、公共事業をめぐる不正や政治エリートと企業の癒着は後を絶たない。洪水対策事業や道路整備、鉱山開発などで不正が報じられ、そのたびに市民の不満が募っている。

政府は治安維持を名目にデモを抑え込むが、拘束や暴力は市民の怒りをさらに強めるだけである。恐怖によって抑え込まれた不満は、いずれ大規模な噴出を引き起こす可能性がある。

フィリピンの社会構造を考えれば、突発的な抗議が全国規模に拡大する可能性は常に存在する。若者人口が多く、SNSを通じて情報が瞬時に拡散する現代では、1980年代以上に抗議が短期間で巨大化する条件が整っている。

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コメント

  1. jiukomajiy より:

    ボンボンってホントに愛称だったのですね。いやしかし日本語の「バカ息子」という意味にぴったりです。しかし、あれだけ国民を搾取したマルコス大統領の息子を選挙で選ぶなんて、フィリピン国民って頭がどうかしてませんかね。

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