2005年頃、安田誠というペンネームを使って『外こもりのススメ – 海外のほほん生活』という本を書いたのは、33歳の棚橋貴秀氏だった。
この「外こもり」というのは「引きこもり」の対比として作者は使っていて、「日本で引きこもりをするなら、海外で引きこもりをしたほうが楽しく暮らせる」という主旨で使われた。
この当時はFX(為替証拠金取引)が大流行していた時代で、この作者もFXをやっていて、ふたりの日本人に指南していた。しかし、損を出したことで逆恨みされてタイで殺されてしまった。
この事件についてはブラックアジアでも取りあげたことがある。(ブラックアジア:タイ邦人殺人。殺されたライター。そして犯人の2人の男たち)
棚橋貴秀氏が生きていたら「外こもり」という言葉はもっと一般化していたかもしれない。彼のやっていたことは、今ではFIRE(経済的自立と早期退職を目標とするライフスタイル)という言葉に置き換わって続いている。
日本政府は「国民総活躍時代(死ぬまで働け時代)」を推進しているが、働かないでぶらぶらと生活したい人は多いので、「フリーター」だとか「外こもり」だとか「FIRE」だとか、「ぶらぶらして暮らす」系のジャンルは言葉を変えながらも、延々と続いているのだった。
基本的に「働かなくても投資(という名のバクチ)で暮らせばいい」というわけで、「FXで儲けて国外で安く暮らす」とか「暗号資産で儲けて国外で安く暮らす」とか「レバナスで儲けて国外で安く暮らす」と、バクチの対象が変わってぶらぶら暮らす生き方が提示される。
ただ、それで長く「外こもり」できている人は見たことがない。どれも暴落する局面があるし、資本主義はバクチで生活を維持できるほど甘くはなかった。バクチでコンスタントに儲けるのは想像以上に困難なことだ。