バンコクのカオサン・ロードで、知り合った日本人の友人たちと、けだるい会話を楽しんでいたことがあった。まだ、20代だった頃だ。
そのとき、ひとりの女性の物乞いが目の前に立った。
今でも彼女の出で立ちを鮮明に思い出す。何日も着替えていないようなボロをまとって、頭には薄汚れた赤い布を巻いていた。
日焼けして黒くなったカサカサの肌、すがるような瞳。喜捨を求めて差し出された掌は垢だらけだった。
30歳過ぎくらいの女性で、生まれて間もない赤ん坊を抱いていた。彼女は栄養失調でぐったりした赤ん坊を見せつけ、少額の現金をねだった。
その気迫に押されて、幾ばくかの硬貨を彼女に渡した。去っていく彼女の足下を見ると裸足だった。