同朋や組織に忠実であるという掟は凶悪な組織になればなるほど重視される理由

同朋や組織に忠実であるという掟は凶悪な組織になればなるほど重視される理由

中米でのギャング闘争や警察との衝突は日常茶飯事で銃火器が使われるので仲間の裏切りでアジトが襲撃されると間違いなく死ぬ。ひとりの裏切りで皆殺しにされる危険がある。だから、アンダーグラウンドの方が表社会よりも、より誠実さを求めているとも言える。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

仲間同士の結束は高く、裏切りは「死」によって償われる

中南米のドラッグや売春する女性たちの人身売買を調べていると、必ず遭遇するギャング組織が『マラス』である。顔面から全身にタトゥーを入れて、豊富な銃火器を持って、警察とも暴力と殺害の報復を行う中米最大の暴力組織だ。

エルサルバドル・ホンジュラスを中心に約5万人近くの構成員がいる。

この『マラス』の中にも派閥があってそれぞれが群雄割拠を繰り返しながら勢力を伸張しているのだが、仲間同士の結束は高く、裏切りは「死」によって償われることになる。顔面や身体に大量に刻まれたタトゥーも組織への忠誠の意味もある。

凶暴で暴力的な組織の構成員も、組織や同朋に対する忠誠と誠実さが求められるというのが興味深い。

表の社会でも裏の社会でも、強固でしっかりした組織には「同胞を裏切らない」「組織を裏切らない」という掟《おきて》があって、この掟をしっかり守れる者が評価される。

皮肉なことに、この「同朋・組織に忠実である」という姿勢は、アンダーグラウンドの凶悪な組織になればなるほど重視され、これを守り切る人間がトップに立って人望を集め、これを破る者が死んでいく。

表社会では「誠実さ」と呼ぶこの言葉は、日本のアンダーグラウンドでは「仁義」とも言われ、イタリアのマフィア組織では「オメルタ」と呼ばれる。

「ひとりで他組織のメンバーと会うな」「仲間の妻に手を出すな」「警察と付き合うな」「バーに入り浸るな」「どんな時でも呼ばれたら準備して働け」「約束は絶対に遵守せよ」「仲間の金を横取りするな」……。こうした「常識」を徹底的に守るのがオメルタだ。

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裏切れば自分の身内であってもファミリーが始末を付ける

一見すると、ギャングやマフィアの世界は、ルールなんか守らない人間の集合体のように見える。それぞれが超利己主義・個人主義で、仁義やオメルタが必要ないもののように見える。

しかし、成功した非合法組織の構成員というのは、法や体制や社会に敵対する代わりに、組織や仲間や取引に対しては誰よりも誠実である。誠実であることに対して厳粛である人間に人が付いて、裏のビジネスが成り立つ。

アンダーグラウンドはそれだけリスクが高く、仲間の裏切りは自分の死にもつながっていく。中米でのギャング闘争や警察との衝突は日常茶飯事で銃火器が使われるので仲間の裏切りでアジトが襲撃されると間違いなく死ぬ。

ひとりの裏切りで皆殺しにされる危険がある。だから、組織や仲間や取引に誠実でないものは、組織による血の制裁で裁かれていく。アンダーグラウンドの方が表社会よりも、より誠実さを求めているとも言える。

最近は大規模な犯罪組織のことを一様に「マフィア」というようになっているが、このマフィアというのはイタリア・シシリーに定着していた犯罪組織のことを指した。

第二次世界大戦後、この組織はアメリカにも進出してニューヨークのイタリア人社会の中に根を張り、ラスベガスやカリフォルニアにもじわじわと根を広げていくことになる。

映画『ゴッドファーザー』は、こうしたアメリカの中に根ざしたマフィアの世界を描いたものだが、この映画でも強調されたのは組織に対する忠誠である。

組織はひとつの大きな「ファミリー」である。ドンと呼ばれるマフィアの頂点に立つ「ゴッドファーザー」に対して、ファミリーを構成する人員は、それぞれ忠誠を誓い合って「誠実」であることを示す。

誠実であれば、ファミリーが守る。裏切れば、たとえ自分の身内であってもファミリーが始末を付ける。そうした、「鉄の掟」がファミリー全体を引き締める。

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頭脳明晰よりも行動力よりも前に必要な誠実さ

アメリカには黒人のギャング・グループもあれば、モーター・サイクル・ギャングと呼ばれる集団もある。これらの非合法な犯罪集団も、組織内では仲間全体を「ファミリー」と呼ぶ。

日本でも、巨大な任侠団体は組長をトップにして末端まですべての構成員は組織に対する仁義(忠誠)を求められ、自分たちの組織を「一家」と表現する。

中国の犯罪組織である「堂(トン)」もまた同じだ。それぞれが自らの組織を「家族」と呼ぶ。

なぜ、家族なのか。それは明白だ。「家族は自分を裏切らない」からだ。中国は『孫子の兵法』みたいな相手を騙す詐欺入門みたいな本がバイブルになっている国だ。だからこそ、「組織や同朋だけは裏切らない」という掟が必須なのである。

組織のトップは、それが会社組織だろうが軍隊組織だろうが犯罪者組織だろうが、一様に「誠実」である人間を部下にするのは間違いない。

なぜなら、いくらその部下の知能が高くて行動力があったとしても、上司や組織に対して誠実でなければ、その知能と行動力は逆にアダになって戻ってくるのを知っているからだ。

誠実でない部下は、いつ組織の金を横領するか分からないし、いつ上司を追い落とすか分からないし、いつ敵側に寝返るかも分からない。知能と行動力が備わっていればいるほど、誠実さがなければ危険なのだ。

そうであるならば、組織のトップが最も重要視しなければならないのは「誠実さ」であることが分かる。頭がキレる部下はそうでない部下の二倍三倍の仕事をこなすかもしれない。しかし、誠実でなければ、組織に二倍三倍の被害をもたらし、組織の災厄と化す。

行動力のある部下は、その行動力とバイタリティで組織を活性化させるかもしれないが、逆に組織を裏切る時はその行動力とバイタリティをフルに使って裏切ってくる。

結局、組織のトップにとって必要な人間というのは、何があっても裏切らずについてきてくれて、誠実に組織や仲間に尽くしてくれる人間だということになる。

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人間関係に誠実さが存在しなければ破綻する

これは、すべての人間関係について言える。自分が関わる人たちが頭脳明晰で行動派の人間であるというのは嬉しいことだが、その前に「自分」に対して誠実であるということが大前提となる。

自分を裏切るかもしれない人間と関われば、いずれは裏切りという結果が返ってくる。相手と自分との人間関係に誠実さが存在しなければそれは破綻し、たとえ家族であってもバラバラになっていく。

誠実であるというのは、別に聖人君子であるというのと同義ではない。世間から悪党だと思われていても犯罪者であると断定されていても、組織や同朋を絶対に裏切らない人間は正真正銘に「誠実な人間」なのである。

あれこれ約束(マニフェスト)を掲げて何もを履行してくれないどこかの政治家よりも、金を払ったら必ず密造酒を提供すると約束をして履行してくれるアル・カポネの方が「誠実さ」で言えば上だったかもしれない。

しかし、これほど重要な誠実さも、特に意識されているわけではない。

今の時代は知能を磨くことや物を知ることばかりが偏重されているので、人々は死に物狂いで賢くなることを目指す。あるいは、行動力を求める人もいる。知能と行動力があれば、より他人を出し抜けるからでもある。ところが、「誠実になること」を追い求める人はほとんどいない。

誠実であったら責任をかぶせられるし、約束を愚直に履行するのも面倒だし、他人を出し抜いたり追い抜いたりすることができないからなのか……。しかし、誠実でないのであれば、頭脳と行動力があってもすべてが無に帰す。

表で生きるにも裏で生きるにも、「誠実である」という意識をしっかり持ち、オメルタ(掟)をしっかり守る人間が最終的に人間の価値を決める。

映画『カルテル・ランド』

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