イスラム排除。インドもまた「多文化共生」が問題を引き起こすことになるのか?

イスラム排除。インドもまた「多文化共生」が問題を引き起こすことになるのか?

モディ首相が「1000%正しい法案」と言って上院で可決された「国籍法改正法」は、パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュから不法入国してインドに定着した不法移民に対して、インド国籍を与えるという法案だったのだが、これには条件があった。それは、国籍を与えられる不法移民は、ヒンドゥー教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒、キリスト教徒を信奉いている人たちのみで「イスラム教だけは排除」というものだった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

インド人民党は「ヒンドゥー至上主義者」が支持している組織

2019年5月23日。インドで下院総選挙があったのだが、その結果、ナレンドラ・モディ首相が率いるインド人民党(BJP)が大勝だった。

インド人民党(BJP)303議席
国民会議派(INC)52議席

これを見ても分かる通り、ナレンドラ・モディ首相は今のインド人に圧倒的に支持されている。このこの地滑り勝利は、パキスタンへの空爆も辞さないモディ首相の強硬な姿勢や、貧困層に対して大幅な減税を行ったことが功を奏した。

さらに、インドは明らかにナレンドラ・モディ首相の政権下で経済成長が続いており、インド人はどんどん豊かになっている。多くのインド人、特に人口の8割を占めるヒンドゥー教徒たちは、このままナレンドラ・モディが首相であった方が良いという判断をしている。

しかし、インド人民党は「ヒンドゥー至上主義者」が支持している組織であり、数々の宗教対立、宗教暴動の最先端に立っていた政党である。このインド人民党がインドで強大な影響力を持つことによって、大きな危機感を持つようになっているのが、インド国内のイスラム教徒たちだった。

そのイスラム教徒たちの不安は、すぐに現実のものとなった。モディ首相は2019年11月に「国籍法改正法」を可決したのだが、これはバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンから2014年以前に流入した移民を不法滞在者も含めてインド国籍を与えるものだった。

しかし、イスラム教徒は明確に「除外」された。宗教によって、国籍を与える移民と与えない移民を区分けしたのである。

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「バブリ・マスジッド」モスクは破壊された

ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党は、「ヒンドゥー至上主義者(ヒンドゥー・ナショナリズム)」が支える政党である。

ナレンドラ・モディ首相も、当然ながらヒンドゥー至上主義者の傾向があり、一期目はインド各地のイスラム風の地名を消し去ってヒンドゥー風に書き替える政策を推し進めていた。

「ヒンドゥー至上主義者」の敵は、まさしくイスラム教徒である。

インド国内で、イスラム教徒とヒンドゥー教徒は非常に激しい対立に見舞われてきた。これは今に始まった話ではない。マハトマ・ガンジーを暗殺したのはヒンドゥー至上主義者だったが、暗殺の理由はガンジーがイスラムとの融和を説いていたからだ。

そのイスラム嫌悪はインドの中で延々と続いているのだ。

その対立の頂点になったのは、1992年の「バブリ・マスジッド事件」だが、実はこの事件に深く関わったのもインド人民党(BJP)だった。

1992年。「アヨディヤにあるモスクを破壊して、ヒンドゥー寺院を代わりに作れ」と号令をかけたインド人民党(BJP)に呼応して、1992年の10月に十数万人のヒンドゥー至上主義者たちが集まった。

アヨディヤのイスラム教礼拝所「バブリ・マスジッド」は、1528年のムガール帝国時代に建設されたものだ。この建築物の庭にはヒンドゥー教の祭壇もあって、イスラム教徒とヒンドゥー教徒が共に礼拝に訪れる場所だった。

しかし、インド人民党(BJP)は「この場所はもともとヒンドゥー教徒のものであり、後から来たイスラム教徒がヒンドゥー寺院を壊してイスラム礼拝所を作った」と主張したのである。

そして、12月6日、ついにモスクを防戦しようとするイスラム教徒と激突が始まり、600人が死亡、6000人が重軽傷を負う大虐殺事件に発展した。そして、「バブリ・マスジッド」モスクは破壊されてしまった。

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再び宗教対立から暴動やテロに巻き込まれて行く

インド国内のイスラム教徒は無念の涙を飲んだが、この直後から復讐を誓うイスラム過激派が続々と生まれ、インドはイスラムのテロが吹き荒れる危険な国家になっていったのである。

1998年にはインド人民党が政権を取ってパジパイ首相が連立政権を樹立した。しかし、インドは2004年からこのような宗教闘争から脱却し、経済発展を重視する政策を取る国民会議派が成立、それ以降は新興国として経済政策に邁進していた。

そして、それから10年後の2014年。国民会議派はガンジー一族の御曹司であるラルフ・ガンジーをゴリ押しして総選挙に立ち向かったのだが、カリスマ性に満ちたナレンドラ・モディが躍進して、再びインド人民党が与党に返り咲いた。

ナレンドラ・モディ首相は政権の基盤を固めるために、当初はヒンドゥー至上主義的な言動は注意深く避けて「全国民と共に進む」と発言していた。

それは「モディが首相になったら、間違いなくヒンドゥー至上主義的な言動を剥き出しにしてインドを混乱させる」と予測していた多くの人々を驚かせる穏健で中立なものであったのだ。

モディ首相は「経済に注力する」と宣言し、実際にインドの銀行の不良債権を解決するために「破産法」を執行したり、不正な資金の洗浄や脱税の対策として高額紙幣を廃止したり、歳入を引き上げるために物品サービス税を導入したりした。

それぞれの政策はかなり強引に推し進められて現場に押しつけられたので、多くの混乱を引き起こしたのだが、それでもモディ政権の元でインドは7%以上の経済成長が続いたのだった。

もっとも、その裏側でナレンドラ・モディ首相は国内のイスラム風的な地名をどんどんヒンドゥー的な地名に変更していくという方策を取って、「イスラム排除」の動きも着々と行っていた。

そして、2019年5月。インドは再び総選挙の時期に入ったのだが、ナレンドラ・モディ首相が率いるインド人民党は大躍進したのは冒頭に書いた通りだ。モディ首相が再選されて半年。モディ首相はさらに「イスラム排除」の動きを加速させた。

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インドもまた「イスラム」という移民問題で揺れ動く

モディ首相が「1000%正しい法案」と言って上院で可決された「国籍法改正法」は、パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュから不法入国してインドに定着した不法移民に対して、インド国籍を与えるという法案だったのだが、これには条件があった。

それは、国籍を与えられる不法移民は、ヒンドゥー教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒、キリスト教徒を信奉いている人たちのみで「イスラム教だけは排除」というものだった。

当然、インド国内のイスラム教徒は「差別だ」と騒ぎ出し、「イスラム教徒も含めるべきだ」と抗議デモを起こした。

このインド国内のイスラム教徒たちの抗議デモはすぐにインド全土に広がって暴力デモへと転化し、12月に入って15日までに分かっているだけで6人が治安維持部隊と衝突して死亡した。

さらに、インドの首都ニューデリーでもイスラム教徒が多数住んでいる地区で激しい暴動が発生し、100人以上が負傷するという事件が発生した。この抗議デモは大学でも発生して学生たちが警察と衝突している。

インド国内にはイスラム教徒は「1割ほど」と言われているのだが、インドの人口が約13億5000万人だとすると、その1割でも1億3500万人で日本の人口よりも多い数になる。そのため、抗議デモが起きると相当な数の人々が蜂起することになるのである。

この「イスラム排除」をモディ首相は「正しい」と断言しているので、抗議デモが起きたからと言って必ずしもモディ首相が折れるとは限らない。そのため、どのような結末を見ることになるのかは分からない。

二期目に入って権力基盤を固めたモディ首相は、いよいよ「イスラム排除」に本腰を入れるようになるのではないかという2014年の懸念は、いよいよ鮮明に出てくるようになったのではないかと考えている人もいる。

そうなると、インドもまた「イスラム」という移民問題で激しく国家が揺れ動くということになる。欧米でもアメリカでも「イスラムを受け入れるか排除するか」という点で人々の態度が割れているのだが、インドもそこに加わるということだ。

インドもまた「多文化共生」が問題を引き起こすことになるのか。インドの行方に、私はとても強い関心を持って見つめている。

ナショナリズムと宗教―現代インドのヒンドゥー・ナショナリズム運動(中島 岳志)

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