アダニ・グループが起訴されたことが、インド経済そのものを揺るがす理由とは?

アダニ・グループが起訴されたことが、インド経済そのものを揺るがす理由とは?

インド財閥アダニ・グループの創業者であり会長のゴータム・アダニが、2024年11月20日、米国検察当局により贈賄と巨額詐欺の疑いで起訴されている。これはインドにとっても尾を引く大きな問題となる。ゴータム・アダニとモディ首相は、切っても切れない仲なのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

インドにとっても尾を引く問題

インド財閥アダニ・グループの創業者であり会長のゴータム・アダニが、2024年11月20日、米国検察当局により贈賄と巨額詐欺の疑いで起訴されている。

インドの大富豪ゴータム・アダニの企業であるアダニ・グリーン・エナジーは虚偽や誤解を招く説明資料を用いて、米国の投資家から1億7,500万ドル以上を含む総額30億ドル強の資金を調達していた。

太陽光エネルギー事業契約を獲得するため、インド政府高官に約390億円の賄賂を支払っていることも発覚した。アメリカの投資家に損害を与えたことを重く見た米国証券取引委員会(SEC)も、連邦証券法違反でアダニを告発している。

これはインドにとっても尾を引く大きな問題となりそうだ。

ゴータム・アダニは、インド屈指の富豪として知られ、エネルギーや港湾、空港など幅広い分野で事業を展開してきた。その急速な成長の背景には、モディ首相との親密な関係があるとされ、野党からは「ひいき」との批判が絶えなかった。

以前、ブラックアジアではムンバイにあるインド最大のスラム「ダラビ」をゴータム・アダニが再開発で消し去る可能性があることも記事にした。(ブラックアジア:インド最強の富豪がインド最大のスラム「ダラビ」を消し去ってしまうのか?

今回の贈賄と巨額詐欺のゆくえによっては、ダラビの再開発はうやむやになってしまうのだろうか。

2023年には、空売りヘッジファンドのヒンデンブルグ・リサーチが、会計粉飾やタックスヘイブンを利用した脱税などを指摘するリポートを発表し、グループの株価と社債価格が急落したこともあった。今回の起訴は、アダニ・グループにとって、昨年の会計不正疑惑に続く新たな危機となる。

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アダニは、日本でいうところの「政商」

起訴されたのは、アダニ会長、会長の甥でアダニ・グリーン・エナジー幹部のサガル・アダニ、同社のビニート・ジャエイン元最高経営責任者(CEO)の3名である。彼らは証券詐欺、証券詐欺の共謀、電信詐欺の共謀で起訴された。

モディ首相とアダニは同じグジャラート州出身であり、両者の関係の深さが指摘されてきた。野党・国民会議派は、アダニ・グループによる不正疑惑を議会が調査するよう改めて要求している。

アダニ・グループの急成長と今回の起訴は、インドの経済発展モデルの脆弱性を示すものとなった。政治と企業の癒着、企業統治の甘さ、そして規制当局の機能不全……。こうしたコンプライアンスの不透明さは、国際投資家の信頼を揺るがす。

この起訴を受け、アダニ・グループの株価と社債価格は急落している。

特に、アダニ・グリーン・エナジーのドル建て債は過去最大の下げを記録し、アダニ・エレクトリシティー・ムンバイの2030年2月償還債は8.6セント下落した。

これは、2023年のヒンデンブルグ・リサーチによる不正疑惑リポート発表時以来の大幅な下落である。アダニ・グループは、この起訴に対して「根拠がなく否定する」と声明を発表し、あらゆる可能な法的手段を取る方針を示している。

しかし、世界の投資家から見るとアダニ・グループは「不正と汚職の常習犯」と見られているわけで、市場の反応は非常に厳しく、アダニ・グリーン・エナジーは予定していた6億ドルの社債売却を取りやめざるを得なくなっている。

おそらく、この事件にはモディ首相が介入してくることになるだろう。ゴータム・アダニは、日本でいうところの「政商」である。モディ政権を資金面でサポートした強力な支援者なので、モディ首相が無視できるはずもない。

ただ、モディ首相の介入と擁護が明確になっていくと、インド経済全体の信用が喪失する可能性がある。インドの株式市場の影響が危惧される。

アダニ・グループの急成長と今回の起訴は、インドの経済発展モデルの脆弱性を示すものとなった。政治と企業の癒着、企業統治の甘さ、そして規制当局の機能不全……。こうしたコンプライアンスの不透明さは、国際投資家の信頼を揺るがす。

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アダニとモディは車輪の両輪だった

アダニ・グループの汚職問題は、単なる一企業の不正ではなく、インド経済の構造的欠陥を示していると見るアナリストも多い。特に注目すべきは、政治と企業の癒着、企業統治の脆弱性、そして規制当局の機能不全である。

今回の問題は、政治と企業の癒着で、アダニとモディ首相の関係が、まさにその「悪しき象徴」としてクローズアップされてしまったといえる。

ナレンドラ・モディ政権の誕生をバップアップしたのはゴータム・アダニだが、逆にモディもさまざまな利権をアダニに与えている。両者は車輪の両輪であったのだ。

この関係は、当事者にとっては「美しい友情物語」かもしれないが、客観的に見ると公平な競争環境をゆがめ、特定企業に有利な政策決定をしていたわけで、インド経済には大きなマイナスでもある。

こうした「政商」がおこなう企業統治は、使途不明金が増えるので、不透明な財務報告が積み上がる。賄賂として支払う莫大なカネは表側に出せないので、どうしてもそうなってしまうのだ。アダニ・グループも、その典型だった。

それを真っ向から指摘したのが企業の不正や不適切な会計処理を暴露して、ショート(空売り)で儲けるビジネススタイルを持つヒンデンブルグ・リサーチだった。

2023年のヒンデンブルグ・リサーチのリポートは、アダニ・グループの会計粉飾やタックスヘイブンの利用を指摘して、アダニ・グループを大きく動揺させた。アダニ・グループは叩けば埃が出る企業だ。

つまり、欧米の手練れの空売りヘッジファンドにとっては「格好の獲物」であった。

ちなみに、これを受けてインド証券取引委員会(SEBI)も調査に入っているのだが、まったく何の成果も出ていない。インド証券取引委員会がアダニ・グループを厳しく糾弾できないのであれば、インド株式市場そのものの信頼性が揺らぐ。当面、インド株式市場は動揺が続くことになるだろう。

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モディ政権にも、やっかいなことになる

アダニ・グループを巡る問題は、想像以上に深刻化していくかもしれない。米国の司法制度は厳格であり、有罪となれば重い罰金や資産凍結などの制裁が課される可能性がある。

これは、アダニ・グループの経営に直接的な打撃を与えるだけでなく、インド企業全体の信用にも影響を及ぼすことになる。

そうなれば、アダニ・グループの財務状況の悪化もありえる。起訴を受けて社債価格が急落し、新規の資金調達が困難になっている。アダニ・グリーン・エナジーが6億ドルの社債売却を取りやめたことは、その象徴である。

財務状況の悪化は、グループ全体の事業展開に影響を与え、インフラ開発など国家的プロジェクトにも支障をきたす可能性がある。

モディ政権が経済だけの問題として、これを抑え切れればいいが、場合によっては政治的混乱にまで発展する可能性も考えておかなえればならないかもしれない。野党は、アダニ・グループの問題を政権批判の材料として使うからだ。

すでに最大野党の国民会議派は、これでモディ政権を厳しく批判している。

この問題が政治的な争点となるとアダニ・グループと「一心同体」のモディ政権にも、かなりやっかいなことになっていく。インドの民衆はモディ政権には甘いが、ゴータム・アダニにはかならずしも好感情を抱いているわけでもない。

ムンバイ最大のスラムである「ダラビ」の再開発を巡っても、住民は激しい反対運動を起こしており、ゴータム・アダニを糾弾している。このムンバイ再開発の巨大なプロジェクトが頓挫するのはゴータム・アダニにとっても打撃なので、かなり強引な実力行使も見られるかもしれない。

そうなると、ますますアダニ・グループへの反発が高まっていくだろう。

これらの要因が相互に作用することで、問題はさらに複雑化し、長期化する可能性がある。アダニ・グループの問題は、単なる一企業の不祥事を超えて、インド経済全体の構造的問題となっていこうとしている。インド経済が不穏なことになりつつある。どうなるのか、固唾を飲んで見守っていきたい。

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