低所得国の約6割が債務の深刻なリスク。その中でも一番危険視されている国とは?

新興国の債務は着実に積み上がっている。これについては、ほとんど注目されていないが、危機を誘発するファクターとして注視すべき出来事かもしれない。というのも、最近は投資家の資金も多くが新興国に流れているからだ。リスクの高い投資対象になるかもしれない。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

表面化しつつある「静かな危機」

パンデミック以後の国際金融は、表面的には安定を取り戻したかのように語られてきた。株価は回復し、主要国の金融市場も落ち着きを見せている。だが、その裏側で、新興国の債務問題がいっせいに再浮上しつつある。

これについては、ほとんど注目されていないが、危機を誘発するファクターとして注視すべき出来事かもしれない。というのも、最近は投資家の資金も多くが新興国に流れているからだ。リスクの高い投資対象になるかもしれない。

国際通貨基金の直近データでは、低所得国の約6割が「債務の深刻なリスク」に直面していると分類されている。これは10年前と比べて明らかに高い。外貨建て債務の比率が高い国ほど、金利上昇と通貨安の影響を直接受け、返済負担が急増している。

パンデミック以後の金融引き締めは、こうした国々を苦境に突き落とした。

問題は、この状況が水面下で静かに進行している点にある。通貨が急落し、デフォルトが宣言され、街頭に人があふれるという光景は今のところ限定的だ。そのため、市場もメディアも、これを「一部の国の問題」として処理し続けている。

だが、債務そのものは確実に積み上がっている。

新興国政府は、財政支出を削り、補助金を減らし、増税でしのいできた。しかし、利払い負担はそれ以上の速度で膨らんでいる。米ドル金利が高止まりする環境下では、借り換えは容易ではない。結果として、延命的な対応が続き、問題は先送りされるだけになっている。

いずれ、どこかの国が破綻する。問題は、複数の途上国が同じ問題を抱えている以上、同時多発的に債務危機が発生する可能性があることだ。市場がまだ本気で織り込んでいないので、いったん起きれば間違いなくパニックを誘発するだろう。

具体的にどこの国々が危ないのか?

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すでに壊れた国、次に危ない国

すでに複数の国で、危機は「返済不能」という形で現実化している。象徴的なのがスリランカである。同国は外貨準備の枯渇によって2022年に対外債務の支払いを停止し、以後、国際通貨基金の管理下で厳しい調整を迫られてきた。

財政赤字、経常赤字、外貨不足が同時に進行した結果である。

アフリカではザンビアとガーナが相次いでデフォルトに陥った。共通点は、資源輸出に依存しながら、好況期に外貨建て債務を積み上げた点にある。金利上昇局面に入ったとたん、利払いが国家予算を圧迫し、社会保障や公共投資を維持できなくなった。

次に警戒されているのは、まだ破綻を宣言していない国々である。

パキスタンは慢性的な外貨不足に直面し、IMF支援がなければ輸入決済すら危うい状態が続いている。エジプトでは通貨切り下げとインフレが進み、国民生活の悪化が財政不安をさらに深めている。

さらに、中南米のアルゼンチンは、事実上つねに債務危機と隣り合わせの存在だ。通貨安と財政赤字が繰り返されるたびに、国際金融市場は同国を起点とした不安拡大を警戒する。

これらの国に共通するのは、成長率ではなく、返済能力そのものが限界に近づいている点である。

重要なのは、危機国が地理的に分散していることだ。南アジア、アフリカ、中南米で同時多発的に問題が進行している。この広がりこそが、国際金融にとって本質的な警戒対象となっている。

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調整は非常に難しくなってきている

もし、新興国債務危機で金融パニックが起きるとしたら、収束には手間取るかもしれない。現在、解決の手順が極端に進みにくくなっている。

1990年代や2000年代の危機では、国際通貨基金やパリクラブが中心となり、債務減免や返済条件の調整がおこなわれてきた。債権者の顔ぶれが比較的限定されていたため、合意形成は時間がかかっても成立していた。

ところが、現在は事情が違うのだ。最大の変化は、中国系金融機関と民間投資家の比重が急速に高まったことだ。中国はインフラ融資を通じて多くの新興国に資金を供給してきたが、その契約内容は二国間で非公開のものが多い。

結果として、債務全体の把握が困難になり、調整の前提条件がそろわない状態が常態化している。中国はけっして自国の情報を公開しないので、部外者には何が起きているのか本当のことがわからないのだ。

国際金融の調整役であるIMFの影響力も相対的に低下している。

IMFの支援には財政緊縮や補助金削減といった条件が付随するが、国内政治が不安定な国ほど、これを受け入れる余地は小さい。政権維持を優先すれば、改革は先送りされ、問題は長期化する。

さらにやっかいなのは、地政学が債務問題に直接かかわるようになった点である。新興国にとって、債務は経済問題であると同時に外交カードでもある。米国陣営、中国陣営のいずれに近づくかによって、支援や条件が変わる現実が生まれている。

この状況では、純粋な経済合理性だけで話が進まない。

おまけにアメリカのトランプ政権は途上国など眼中にもないので、これらの国々が破綻しようが何だろうが救済することはないだろう。むしろ、露骨に切り捨てにかかるはずなのだ。

そのため、途上国の債務危機が同時多発的に起きて金融パニックにつながったとしても、債権者の多様化、政治的利害、国際対立が絡み合って、調整はうまくまとまらない確率が高まっている。

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新興国の中でも一番に危険視されている国

新興国に投資している人々にとって、ザンビアだとかガーナだとかパキスタンだとかエジプトがどうなろうと、「そんなところに投資していないので問題ない」というわけにはいかない。

国際金融市場では、新興国はひとつの投資対象としてまとめて扱われる傾向が強い。そのため、ある国で信用不安が顕在化すると、他国まで含めて資金がいっせいに引き揚げられる。これは過去の危機でも繰り返し起きていた。

まず影響が出るのは、新興国通貨と国債市場だ。

債務不安が広がると、通貨は急落し、外貨建て債務の負担がさらに増す。この悪循環によって、問題は短期間で深刻化する。投資家は個別国の事情を精査する余裕を失い、「新興国全体は危ない」という判断に傾く。

次に波及するのが、国際金融機関と先進国の金融市場である。

新興国向け融資を多く抱える金融機関は、評価損を計上せざるを得なくなる。これが重なると、信用収縮が進み、リスク資産全体への投資姿勢が急激に冷え込む。

重要なのは、地政学との連動だ。新興国の資金繰りが悪化すれば、エネルギー、食料、鉱物資源の供給にも影響が及ぶ。特定の国が輸出制限に踏み切れば、先進国のインフレ圧力がふたたび強まる。これは金融政策にも直接影響し、利下げや緩和の判断を難しくする要因となる。

市場が警戒すべきなのは、単発のデフォルトではない。複数国で問題が連鎖し、金融市場、実体経済、政策判断が同時に揺さぶられる状況である。新興国債務問題は、目立たない場所で進行しながら、問題が深刻化していく。

今、新興国の中でも一番危険視されている国があるとしたら、それはどこか?

エジプトだ。この国は規模が大きく、債務水準、地政学、そして市場との結びつき、そのすべてが「連鎖」を起こしやすい条件を満たしている。エジプトは人口1億人を超える中東・アフリカ最大級の国家であり、外貨建て債務の残高も大きい。

現状、エジプトは通貨切り下げを繰り返し、インフレ率は高水準に張り付いている。食料とエネルギーの輸入依存度が高く、通貨安はそのまま国民生活の不安定化につながる。まだこの国の危機は知られていない。

人々はこの国の観光資源であるピラミッドに関心があるようだが、私はこの国の債務危機のほうに関心がある。

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