成長できないインドネシア。なぜ人口約2.8億人を抱える国が成長できないのか?

インドネシアの実質GDP成長率は長期的に約5%前後で推移してきた。表面的には「高成長」に分類される数字であり、国内外のメディアでも「人口増と内需の拡大を続ける強い新興国」というイメージが広く共有されている。だが、実際にはこの成長率は低下傾向にある。つまり、この国はうまくいっていない。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

本来は、もっと成長できるはずなのだが……

2025年9月8日、プラボウォ大統領がスリ・ムルヤニ財務相を更迭した。折しも国会議員への高額な住宅手当への批判をきっかけに反政府デモが広がり、財政運営の責任を負うスリ・ムルヤニ氏にも批判の矛先が向いていた。

そのため、プラボウォ大統領は事態収拾のためにスリ・ムルヤニを切り捨てたのだが、これを見てインドネシアの株式市場には売りが殺到した。当然だ。財政運営の軸を担ってきた人物が退任するのだから、外国人投資家も不安になる。

以後、インドネシアの株式市場はずっと停滞したままなのだが、市場は国の成長力に疑問を示した形となっている。

インドネシアの実質GDP成長率は長期的に約5%前後で推移してきた。表面的には「高成長」に分類される数字であり、国内外のメディアでも「人口増と内需の拡大を続ける強い新興国」というイメージが広く共有されている。

だが、実際にはこの成長率は低下傾向にある。

2025年1〜3月期の成長率は4.87%と14四半期ぶりの低水準となり、景気の勢いが明確に弱まっている。数値の変動は「経済の基礎体力そのものが伸び悩んでいる」と分析されている。

インドネシアは資本、労働力ともに量的には十分な規模を持っている。人口は約2.8億人で、東南アジア最大の市場である。国内投資も政府や海外資本によって拡大してきた。本来は、もっと成長できるはずなのだ。

にもかかわらず、潜在成長率と実際の成長率には常に1〜2ポイントの乖離が続いている。投入した資本に対して成長が追いつかない。これは、「生産性が引き上がっていない」ことを意味する。

近年の中国やインド、あるいはベトナムと比較すると、インドネシアの成長は決定的に勢いを欠いている。インドネシアは、付加価値の高い産業が育っていない。

ブラックアジア インドネシア編: 売春地帯をさまよい歩いた日々 (セルスプリング出版)
ほとんどの日本人は知らなかった隠された東南アジア売春地帯とは?鈴木傾城がもっとも愛した郷愁の国。

外国企業が長期的な投資を躊躇する理由

問題は、インドネシアの成長率が下がりつつあるという事実そのものよりも、「上向く兆しがない」という点にある。

政府は2045年までに先進国入りを掲げ、成長率8%を目標値としている。だが、過去20年以上、インドネシアは8%成長を一度も実現していない。プラボウォ政権はそれほど有能にも見えないので、それは単なるスローガンで終わってしまうだろう。

反政府デモが起きているのを見てもわかるとおり、経済の実態は今後も加速せず、むしろ速度を落とし続ける確率も高い。

今の「5%成長」は言ってみれば、経済のエンジンが強く回っているわけではなく、惰性で回転しているだけに近い。数字だけを見れば安定しているように見えるが、内部は停滞して、もはや勢いを取り戻す段階にはない。

それにしても、人口が約2.8億人もいるこの国でなぜ経済が加速していかないのだろうか。そこには、例によって途上国特有の行政手続きの遅さ、許認可の不透明さ、汚職の横行があるからだ。

賄賂・利権漁りが横行し、法の執行も信頼できない。そんな環境では、企業もリスクを織り込んで事業を運営するので、結果としてコストが無駄に上昇していく。これは国内企業だけでなく外資企業にとっても同様だ。

これが、国全体の投資効率を低下させる圧力として働いている。

汚職撲滅委員会(KPK)はかつて強力な監視機関として注目されていたが、2019年の法改正で権限が縮小し、取り締まりの実効性が低下したと指摘されている。要するに、インドネシアは国の発展よりも私利私欲を優先したわけだ。

法と制度が企業活動の基盤であるにもかかわらず、その基盤が弱まれば経済全体の信頼が損なわれるのは当然だ。

中国のEV大手BYDによる西ジャワ州での工場建設計画や、石油化学大手チャンドラ・アスリの大型プラント計画を巡って、地元勢力による妨害や不透明な交渉が報じられている事例は、その実態を端的に示している。

外国企業が長期的な投資を躊躇する理由は、そういうところにある。

カリマンタン島のデズリー: 売春と愛と疑心暗鬼 (セルスプリング出版)
カリマンタン島でひとりの女性と知り合う。売春の世界にいる彼女に惹かれて気持ちが乱れるが、疑惑もまた膨らんでいく。

インドネシアはそういう状況に陥っている

汚職が横行するような国では、投資効率が極度に悪化する。生産性の改善も不可能だ。改善したところで権力者が私利私欲で利益をむしり取るのであれば、成果が出るわけがない。

そうすると、成長を得るために多くの「無駄な資本」を投入しなければならない状態になる。仮に大規模な投資が継続しても、経済は見かけのボリュームを増しているだけで中身はいびつなままだ。

5%成長が続いたとしても、成長の質が低いままでは、先進国の水準には到達しない。高い生産性を支えるのは制度の透明性と法的安定性であり、そこが欠けている国では成長は必然的に限界を迎える。

インドネシアはそういう状況に陥っているのだ。

政府が掲げる産業政策も、輸出競争力や技術蓄積を生む方向に十分働いていないことも問題かもしれない。ニッケル資源を活用したEV関連産業の育成が強調されているが、精錬や電池製造のプロセスは資本集約的であり、雇用吸収力が低い。

国内で技術が蓄積されず、付加価値の大部分が外国企業に帰属する構造が続く限り、国の成長基盤は強化されない。資源に依存した成長は短期的にはGDPを押し上げるが、生産性の向上にはつながらない。

それを見越して、外国人投資家もインドネシアには何も期待しない。

企業も長期的視野で投資を避け、雇用が安定せず、賃金が上昇しない。結果として、消費が伸びず、内需に支えられた成長モデルが徐々に弱まる。制度の非効率性と汚職が改められない限り、緩やかに停滞していく他ない。

ブラックアジア カンボジア編: 売春地帯をさまよい歩いた日々 (セルスプリング出版)
当時、東南アジア最悪と呼ばれた売春地帯はどんな場所だったのか? 荒んだ売春地帯の愛と別れのリアル。カンボジア編はこちら。

インドネシアも「高齢化社会」に入った

インドネシアは人口約2.8億人を抱え、若年人口が多い国と説明されることが多い。だが、実態は急速に変化している。

インドネシアは2023年に65歳以上人口が7%を超え、「高齢化社会」に入った。2040年代には14%を超えると推計されており、高齢化はすでに進行中だ。人口増加が経済成長を押し上げる「人口ボーナス」は、もう長く続かない。

インドネシアには時間的猶予は限られている。

その若年層だが、20代前半の失業率は15%を超え、若者が安定した雇用を得られない環境が続いている。これについては以前にも書いた。(ブラックアジア:インドネシアの若者が自国に失望しており『まずは逃げろ』と出国を考えている

当然だが、雇用が不安定な社会では、消費は拡大しない。国内市場が大きいと説明されながら、中間層は18年以降縮小が指摘されており、家計消費は持続的な成長の力になっていない。

この停滞は成長率そのものの減速に直結する。

教育水準の問題も深刻である。PISA2022では、数学・読解・科学のいずれもOECD平均を大きく下回り、上位層の割合が極めて低い。これは人的資本の蓄積が弱いことを意味する。教育が向上しなければ、生産性の高い産業は育たない。

若年層の収入が伸びないまま高齢者比率が上がる国では、財政に圧力がかかり、経済成長を押し上げる余力は小さくなる。高齢化が進行する中で、医療・年金の負担は確実に増えるので、若者はますます苦しくなるのだ。

インドネシアは今、人口構造が有利に働く最終局面に差し掛かっている。にもかかわらず、所得層の厚みは増えず、教育水準も改善せず、若年層の雇用は安定していない。このまま時間だけが進めば、成長の速度は低下し、先進国への道は閉ざされるのではないか。

インドネシアは私の好きな国のひとつだ。好きな女性も多い。豊かさをつかんで欲しいと思うが、いかんせんインドネシアも問題が多すぎる。今後、こうした問題をクリアしていけるのかを見守っていきたい。

ブラックアジア会員募集
社会の裏側の醜悪な世界へ。ブラックアジアの会員制に登録すると、これまでのすべての会員制の記事が読めるようになります。

コメント

  1. 晶子 より:

    ビックリしました
    インドネシアは人口が多いから
    未来は明るいのかと
    思っていたから

  2. neverwaraba より:

    職場にたくさんのインドネシアの実習生が働いています。まさに書かれている通りの話をしていました。
    1番驚いたのは警察や役所等のいわゆる公務員になるのには2〜300万の賄賂が必要と言ったのでなら日本で稼いで払って公務員になったらと私はいいました。
    するとなるのは絶対に無理だと特殊なコネが必要なので自分はなれないと言ってました。
    恐らくですが特権階級の人達が下から上へとお金を巻き上げていく仕組みがあるんだろうなと感じました。
    警察は賄賂渡すと目をつぶる。行政は手続きを遅らせ賄賂を持ってくる人を優先にする話も山程聞いてます。
    それは国民だってデモしますよ。
    まっ私としては母国が成長したらもしかしたら日本にこなくなると心配して次はどこの国の実習生にしようか迷ってました。当分はなさそうなのでよかったです。
    ちなみにインドネシアの実習生はみんな優秀です。ヤバいのはベトナムですかね。

タイトルとURLをコピーしました