
以前からよく指摘されていることだが、バンコクの歓楽街、特にスクンビット通りやナナ地区では、多くの黒人男性・黒人女性がたむろしている光景が見られる。彼らの多くはタイで合法・非合法を問わずさまざまな手段で生計を立てている。女性はストリート売春、男性はハードドラッグの密売をしていた。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
バンコクで逮捕されたアフリカの男たち
バンコクにおけるドラッグ密売の取り締まりが強化される中、タイ警察はプラナコン区にて13人の外国人およびタイ人を逮捕した。この中で、11人がナイジェリアやコートジボワールなどのアフリカ諸国出身者であり、残る2人がタイ人だった。
以前からよく指摘されていることだが、バンコクの歓楽街、特にスクンビット通りやナナ地区では、多くの黒人男性・黒人女性がたむろしている光景が見られる。彼らの多くはタイで合法・非合法を問わずさまざまな手段で生計を立てている。
女性はストリート売春をしている。(ブラックアジア:バンコクは黒人のセックスワーカーだらけだったが、日本もそうなっていくか?)
男性のビジネスは複雑で、観光客向けにアクセサリーや衣類を販売する者もいれば、バーの客引きや通訳業をおこなう者もいる。そして、一部はハードドラッグの売買に関与している。
夜になると、彼らはナナ・プラザやソイ・カウボーイ周辺に集まり、観光客に声をかける姿が目立つ。彼らがこの地域に集まる背景には、アフリカ系移民のコミュニティが形成されていることや、英語が通じる歓楽街の特性がある。
警察によれば、彼らはこの界隈を拠点に、観光客をターゲットにしてコカインやヤーバー(覚醒剤)を販売していた。彼らは主に観光客に声をかけ、購入を持ちかけて売っていたという。
今回の摘発は、クロントイ区、ワッタナー区、ナナ地区を中心に進められ、バンコク都心でのドラッグ密売の根絶を目指したものだった。
ナナ地区はバンコクにおける歓楽街のひとつであり、世界各国からの観光客が集まる場所である。そのため、ドラッグの需要が高く、密売組織にとっては魅力的な市場となっていた。彼らは巧妙にネットワークを構築し、口コミやSNSも活用しながら顧客を増やしていたと見られている。
インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたタイ歓楽街での出会いと別れのリアル。『ブラックアジア タイ編』はこちらから
不良外国人がハードドラッグを求める
2021年もアフリカ諸国の男たちがドラッグ密売で逮捕されていたが、タイはドラッグの蔓延を防ぎ切れていない。
この摘発はバンコク警察による組織的な捜査の一環であり、違法薬物の供給ルートを断つ目的で進められていた。警察はナナ地区での覆面捜査を実施し、実際にアフリカ人の密売人からドラッグを購入するなどして証拠を集めた。
その後、事前に準備された強制捜査により、容疑者を逮捕するに至った。
逮捕されたアフリカ人の多くはビザを持たず、不法滞在の状態にあった。また、一部は就労ビザを保持していたものの、実際にはドラッグの売買をビジネスにしていたことが判明している。
彼らの中にはイスラム系も多い。このナナ・プラザ界隈にはアラブ人も多いのだが、それは数十年も前からグレースホテルがアラブ系の御用達ホテルとなっていて、この近辺がアラブ人街でもあったからだ。イスラムの強固なネットワークで彼らはつながっている。
警察の調査によれば、密売されたドラッグはタイ国内で製造されたものではなく、国外から密輸されたものだった。
特に、コカインは主に南米からの供給ルートを通じて持ち込まれたとみられ、ヤーバーについてはミャンマーの山岳地帯やラオスなどの隣国で製造されたものが流入していた可能性が高い。
この事件の発覚後、タイ警察はさらなる取り締まりを強化し、密売組織の根絶を目指している。しかし、バンコクのような大都市ではドラッグが絶え間なくおこなわれており、一度摘発されても新たな供給ルートがすぐに生まれるという現実がある。
バンコクのような大都市ではドラッグの需要が高く、一度摘発されたとしても、それですべてが壊滅するわけではない。新しい人間がやってきて、新たな供給ルートを構築して、ドラッグの供給を埋めていく。
タイはインバウンド大国だ。快楽を求め、不良外国人たちがよりハードなドラッグを求めるケースが後を絶たない。このため、密売組織は次々と「儲かるドラッグビジネス」に乗り込んでくる。
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ドラッグの密売が続いている背景
バンコクでドラッグの密売が続いている背景には、複数の要因がある。そのひとつは、お馴染みの経済的格差の問題だ。
バンコクは東南アジアでも経済的に発展した都市であるが、その一方で移民労働者や不法滞在者が多く、彼らが生計を立てる手段が限られているという現実がある。
アフリカ諸国からきた男たちも正式な労働ビザも持っていない。LCC(ローコストキャリア)で勝手にやってきてバンコクに住み着いているので、合法的な職を得ることが難しく、違法な手段に頼る者が少なくない。
何も持たない人間が儲けられるビジネスというと、ドラッグはその筆頭に挙げられる。
タイの観光産業依存は大きい。その観光客の多くは夜の娯楽であるアルコール・セックス・ドラッグを求めているのだが、最近はマリファナで不良外国人を呼び込んだせいもあって、ハードドラッグにも関心を示す旅行者も多い。
特に欧米からの旅行者のあいだではコカインの人気が高く、これが供給側の密売組織を活性化させる要因となっている。今回の摘発は大規模なものであったが、密売人の多くは逮捕を恐れず、すぐに新たなルートを開拓する。
国際的な視点から見ると、アフリカ諸国からのドラッグ密売人が東南アジアに流入する背景には、グローバルなドラッグ市場の変化がある。かつては欧州や北米が主なターゲットだったが、近年ではアジア市場が拡大している。
バンコクはその中心地のひとつである。バンコクは、アジアや中東の主要ハブ空港と広範なネットワークで接続されているので、アフリカ諸国の人間たちもアクセスがしやすい環境にある。
たとえば中東のドーハやドバイを経由してLCCを利用してアフリカ諸国とタイを結ぶルートを組むことができる。その結果、タイの首都バンコクや歓楽地パタヤは、多国籍の犯罪組織が絡み合う場となっている。
インバウンド大国の宿命
アフリカ諸国の男たちがドラッグの密売で逮捕されたこの事件は、氷山の一角に過ぎない。この事件を通して浮かび上がるのは、インバウンドがもたらす経済的な恩恵の裏で、違法ビジネスも増殖しているという現実だ。
これはインバウンド大国の宿命ともいえる。
特にタイは、真夜中の女たちを目当てにした「ハイエナ」たち、同性愛者やトランスジェンダーたち、あるいはマリファナなどの常習者など、不良外国人化しやすい旅行者もタイ特有の「マイ・ペンライ」精神でどんどん入れてきたので、なおさらだ。
当然、ハードドラッグの需要もあるのだから供給もある。
だから、ナナ地区やスクンビット通りといった歓楽街では、外国人観光客をターゲットにした密売ネットワークが形成されている。この事件は、そうしたアンダーグラウンドのブラックビジネスの一端をあきらかにしたに過ぎない。
今後も、インバウンド需要の増加に伴い、違法ビジネスに関与する外国人労働者の流入も進んでいくだろう。
このような状況が続く限り、今回の事件のような摘発がおこなわれても、すぐに新たな人間がLCCでやってきて、すぐに違う密売ルートが生まれることは避けられない。
結局のところ、観光業の発展とともに、こうした違法活動が増加し、ドラッグの密売人や犯罪組織が徐々に力を持つようになっていく。インバウンド市場と裏社会が密接に絡み合っていく。そうした現状を垣間見せる事件でもあった。
ちなみに、黒人女性はこのスクンビット界隈を拠点にしてストリート売春をしているのだが、黒人女性に関心のある男たちは少なからず存在するので彼女たちにも需要がある。日本からは遠すぎるアフリカ大国まで行かなくても、タイで黒人女性と出会える時代になっているのだから興味深い。
(スクンビット界隈の黒人女性については、電子書籍『ブラックアジア外伝2: 売春地帯をさまよい歩いた日』でも取り上げている)
インバウンドに邁進するタイは、アルコール・セックス・ドラッグの三点セットで今後も次々と問題が引き起こされるのだろう。

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