
タイ国内では長年ヘビの不法取引が横行している。タイ当局は、毎年のように野生動物を救出しているのだが、その中にはヘビも多数含まれている。たとえば、バンコクの空港でもスーツケースにつめられたニシキヘビ11頭が押収されている。外国に持っていけば高く売れるので密輸する。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
野生動物の密輸が日常的におこなわれている
東南アジアの稀少な動物を密売したら儲かるというのはよく知られている。タイのチャトゥチャック市場では、ヘビも売っていたりするのだが、一部のヘビはそれを国外に持っていったら、数倍から数十倍で売れるケースもあるという。
たとえば、ボアコンストリクターやビルマニシキヘビのような大型種・希少種は、正規流通でも高額で取引されることが多く、密売市場では数万円から数十万円に達するケースもあるようだ。
そのため、タイ国内では長年ヘビの不法取引が横行している。タイ当局は、毎年のように野生動物を救出しているのだが、その中にはヘビも多数含まれている。たとえば、バンコクの空港でもスーツケースにつめられたニシキヘビ11頭が押収されている。
密輸が日常的におこなわれているのだ。
これらの摘発は国際条約CITES(ワシントン条約)と国内の野生動物保護法に基づく措置であり、摘発後の罰則は懲役刑や高額な罰金が科される。だが、実際の摘発率は取引全体から見れば微々たる割合にすぎない。密売組織は、当局をあざ笑うかのように、巧妙に密輸を続けているのが現状だ。
一方で、タイ政府は「合法的な野生動物取引」の市場規模にも着目していた。
国内ブリーダーや関連産業の年間売上高は、爬虫類用餌の生産・供給、飼育設備、獣医サービスなどを合わせると、少なくとも年間2億7500万バーツ(約12億円)にのぼると試算されている。輸出市場の潜在規模も同程度と見込まれている。
管理されたルートを通じた合法的輸出が確立されれば、違法取引から得られる利益を低減し、野生動物保護と経済活性化を両立できる。それならば、いっそのこと「さっさと輸出可能にしてしまえばいいのではないか」というのが最近のタイ政府の見解になっていったのだった。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたタイ歓楽街での出会いと別れのリアル。『ブラックアジア タイ編』はこちらから
違法市場からのヘビ流入を抑制する仕組みが構築
国内の爬虫類愛好家や研究機関からは、「合法ルートが整備されれば輸出量の透明性が高まり、違法取引の抑止につながる」との声があがっている。こうした背景を受けて、タイ政府は2024年に重大な制度改革をおこなった。
1990年および1991年に制定された生きたヘビおよび未加工ヘビの輸出禁止規則を正式に撤廃し、許可を得た上で国内で飼育されたヘビの輸出を解禁したのだ。
環境大臣チャレームチャイ・スリオン氏らが主導したこの決定は、国立公園・野生動植物保全局副局長ウィーラ・クンチャイルク氏や野生動植物保護課長サドゥディー・パンプグディ氏らの提言を受けて、閣議で承認された。
新たな制度では、輸出希望者は野生動物保護法およびCITESの規定に基づく許可を取得し、ブリーダーが飼育管理計画を提出して定期的な報告をおこなうことが義務づけられる。
また、輸出量には年次上限が設定され、輸送時の衛生基準や動物福祉規定も厳格に管理される。違反者には従来以上の厳罰を科す一方で、許可を得た正規輸出には税制優遇措置や手数料の軽減措置も導入されたのだ。
これにより、合法的な流通ルートが整備され、違法市場からのヘビ流入を抑制する仕組みが構築された。
すでに、この一連の制度改革は輸出関連産業に大きな影響を与えている。ヘビ用飼料の生産企業は年間1億8000万バーツ、飼育設備メーカーは1700万バーツ、獣医サービス提供者は年間600万バーツの市場拡大が見込まれ、関連投資が活発化している。
さらに、合法的輸出の増加によってタイへの外貨収入が拡大し、地域経済の活性化にも寄与する展望が期待されている。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、『ブラックアジア カンボジア編』はこちらから
合法ともなると、これまで以上に乱獲されてしまう?
私は小動物も爬虫類も昆虫もまったく興味がない。まして、ヘビも興味がない。ヘビの種類もわからない。ヘビを飼いたいと思ったことも当然ない。なぜヘビを飼いたい人がいるのか、まったく理解できない。
ところが現在、爬虫類を飼う人が世界的に増えているというのだ。ヘビも需要があるようで、タイに棲息する希少種のヘビなどをペットとして欲しがる人は「山ほどいる」らしい。
ヘビと言っても数センチほどの小さなヘビから、数メートルにもなる巨大なヘビがいる。希少種だけでなく、大型種も需要があってそれを個人が買う。
成体になれば3メートルから5メートルになるというタイのビルマニシキヘビは、欧米やアジアのコレクターの需要が非常に大きい。その理由は、巨大なだけでなく、美しい体色パターンが評価されているからだという。
驚いたことに、本当のコレクターは飼育ブリーダーが繁殖した個体よりも、野生の個体のほうがコレクションとして評価が高いのだという。
飼うのであれば、野生の個体よりも最初から人間が飼っていた飼育ブリーダーの個体のほうが安全のような気もするのだが、コレクターには野生のほうが本物だというこだわりがあるようだ。
それにしても、動物園でもないのに、数メートルにもなる巨大なヘビを飼ってどうするのかと驚くが、たしかに需要があって高額で売れている。
中には5メートルどころか7メートルにもなる成体もあるらしい。そこまでいくと体重も50キロから70キロにもなう。飲み込まれる危険もあれば、絞め殺される危険もあるはずだが、それでも飼うのがコレクターという人種だ。
日本でも、このビルマニシキヘビを無許可飼育して摘発された例もある。
輸出解禁は無駄ではないのだが、監視が必要
タイの農村部では所得需要が低く、そんなに仕事もない。そのため、ヘビが売れるのであれば、そこらの藪を突いてヘビを捜し出したらそれが売れるわけで、彼らにも収入を上げる大きなチャンスだった。
問題は、ヘビの輸出が本格的に解禁されたら、乱獲されて野生動物の生息地や生態系に大きな圧力がかかるのではないか、ということである。これまでも、密売組織と地元捕獲業者が結託して違法取引を拡大させてきたのだが、合法ともなると、これまで以上に乱獲されてしまう恐れがある。
これを取り締まるとしても、行政当局のマンパワーには限度がある。
タイ政府は、合法的な輸出制度を整備し、ブリーダーや関連産業を支援することで密売が抑制されるので、乱獲されることはないというスタンスなのだが、本当にそうなのかはわからない。
育てるより、見つけたヘビを捕まえて売り飛ばすほうが手間がない。タイ政府の「密売が抑制される」という目論見が外れたら、タイから希少種のヘビや売れるヘビは絶滅してしまうだろう。
ただ、このまま放置していても密売業者が違法に乱獲するだけなので、輸出を合法化してブリーダーを育成することは、たしかに現状を変える試みがある。この点を評価する関係者も多い。
ただし、「この制度改革を成功させるためには、厳格な監視体制と迅速な情報共有が不可欠」という条件を挙げている。
合法的なルートが確立されることで、流通過程の透明性が向上し、ブリーダーが適切な飼育管理をおこなうインセンティブも高まるので、輸出解禁は無駄ではないのだが、監視が必要なのだ。果たしてそれができるのか……。
それはそうと、タイでヘビが輸出解禁になったからヘビを飼いたいという人はいるのだろうか?

今日の記事は面白いですね。
ビルマニシキヘビといえばバンコクのスネークファーム(タイ赤十字)に行ったときに体調2mくらいの比較的小柄なのを首に巻いて記念にパシャリと映してもらえたのが懐かしい思い出です。今はどうか知りませんが、20年前くらいは無料で記念撮影をしてもらえました。
蛇が首筋に触れた時のひんやり感は気持ち悪くてゾクゾクッとして鳥肌が立ったのを今でも鮮明に覚えています。
このビルマニシキヘビ、ネイチャー系のドキュメンタリーで見たことあるのですが、アメリカの湿原で大繁殖してしまって賞金出してまでハンターに狩ってもらっているそうです。飼うのではなく狩るほうです。
繁殖力が強くて、天敵がいないような地だと爆発的に増えていってしまうみたいですから、タイの人たち一攫千金を狙ってスネークラッシュで乱獲してもいなくなる心配はないと思います。
それにしてもタイ政府は最近のマリファナ解禁にコロナ明け中国人観光客ビザなし入国に蛇にと現ナマ主義が顕著で分かりやすくていいですね。
国民からだけ金をむしり取ることばかり考えているどこかの国のかの政府も見習ってほしいものです。